「否夕陽的」であるということ
これに鑑みて考えると、例えば二元論のどちらか一方に依るような意見は、「否夕陽的」ということになる。夕陽っぽくないのだ。例えばヒトラーは、ちっとも夕陽的ではない。彼は、ドイツ民族を優秀とし、ユダヤ人を劣等とした。二元論を持ち出し、その一方をばっさりと切り捨てた。これは、二元論のどちらか片方を称揚するという行為で、全くもって「否夕陽的」である。だから、ヒトラーは明確に「誤」として認定することができるのだ。
ところで、ここに一つの落とし穴がある。それは、金子みすゞの「みんなちがってみんないい」という言葉だ。これなどは、一見、両方の価値をはらんでいるようで「夕陽的」に見える。しかしながら、実際は二元論のどちらか片方を称揚している「否夕陽的」な言葉だ。問題は、後半部分の「みんないい」というところにある。
「みんないい」という言葉は、その裏で暗に「よくない」という概念を肯定している。「よくない」ことを、否定的にとらえているのだ。それゆえ、「否夕陽的」ということになり、誤りだと分かるのである。
しかしながら、多くの人は、このまやかしに引っかかる。このような「まやかしの夕陽」を、美しいと感じやすい。これに引っかからないためには、具体例を当てはめてみるといい。例えば「みんなちがってみんないい」というところに、ヒトラーを当てはめてみる。ヒトラーは、「みんな」に含まれている。そして彼は、人と「ちが」う。なにしろ、「人種差別を当たり前」としたのだから。金子みすゞは、そんなヒトラーまでをも「いい」というのである。これはさすがに承伏しかねるところだろう。
このように「夕陽的」というのは、ネガティブなものをも受け入れる――ということだ。それゆえ、ポジティブな文言には注意が必要なのである。
夕陽は見ている人の「心の鏡」である
夕陽というのは、必ずしもポジティブな側面ばかりではない。例えば、昼好きな人がいて、夕陽を見ると、ふと夜的に感じることもある。その逆もしかりで、夜好きな人が見ると、ふと昼っぽいと感じるところもある。夕陽は、昼と夜とが入り交じっている状態なのだ。ちょうどコップに水が半分入っているのを見て、「まだ半分ある」と思うか「もう半分しかない」と思うかの違いにも似ている。見ている人の心性を映し出す、鏡のような効果もあるのである。
両方をはらんでいるというのは、そういう「心の鏡」的な役割を果たす。人は、鏡に対しては無条件に引かれるところがある。たとえ鏡に映った自分が醜くても、それにじっと見入ってしまう。そこが、夕陽の魅力の一つにもなっているのだ。
次回は、夕陽的なもののもう一つの特徴である「変化の早さ」について取りあげたい。
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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。
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