やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

大学の奨学金問題、貸し倒れ率見る限り問題にならないのではないか



 昨今の大学奨学金問題はいろんなところに飛び火をしていて、私立大学の無償化を含めた議論や、留学生ばかりでほぼ全入状態の受験事情、はては大学統合・閉鎖における文部科学省の無謬批判まで乱れ飛んで、どこが最適解なのかいまひとつ分かりづらい状況になってきています。

 ところが、先に東洋経済で関田真也さんが渾身の記事を書いておられたのですけれども、この中身を見ると金融を理解する人間であればむしろ優良な返済率なんじゃないかと感じてしまうリストが掲載されています。

独自集計!全大学「奨学金延滞率」ランキング 平均は1.3%、延滞率5%以上の学校は7校

 誤解を恐れずに踏み込んでいえば、飛び抜けて返済延滞率(それも3か月以上)が高いとされるトップ10でも5%から10%程度と、もっと盛大に踏み倒されているのかと思ったら全然まともに返済されているじゃないかという認識を持ちます。みんな、真面目にきちんと返しているのですね。

 記事中でも「大学の奨学金延滞率は平均1.3%」と記載されている本件を見ると、学生向けの奨学金は、住宅ローンや消費者金融などに比べても比較的貸し倒れない有料の貸し手であることが分かります。もちろん「奨学金」なのだから本来は返済しなくても良いカネなのに、という批判はあるかもしれません。いわゆる「給付型」ではない奨学金はローンであるという理屈です。それはそうですね。一方で、学資ローン界隈や債権回収に回ってくるレートからしても、決して貸し倒れが高いとは言えない以上、学費を借りる側にとってもお金を貸したい側にとっても必ずしも不幸な事例ばかりではない、ということはここからは読み取れます。

 2015年度までの延滞金総計は880億円ほどで、総貸出額からしてもまあたいした金額ではないことを考えると、いわゆる「大学の奨学金問題」は少なくとも実態としては大した話ではないのではないかと言えます。それを言い始めたらダブルローンで困っている単位農協の貸倒率はひどいところで17%から20%弱であって、“総額”880億円の奨学金とは比べ物にならない、“年間"2,200億円という引き当てを積まなければならないことに比べれば、また一件当たりの貸出額から逆引きしても… という状態です。

 むしろ、問題はそのような大学に仮に4年間なり2年間通ったとして、それに見合う年収が得られるのか、という部分です。追跡調査ではぼちぼち「Fランク大学でも高校卒業後すぐに就職した人よりも生涯収入は上がる傾向がある」というデータも出てきていますが、一方で地方の無名大学に入った人は都市部に流出しやすいとか、地元に大学卒を受け入れられるような専門性のある産業がないといったジレンマも続出してきています。

 転職サイトなどでも、大学別の収入をリスト化していますが、参考数字としてみていても地元の平均賃金よりは確かにFランク大学に限らず大学を卒業したほうが給料は上がる傾向にあります。

決定版!一目でわかる出身大学別年収データ

 悩ましいところですが、むしろFランク大学と揶揄される大学の苦境は凄まじく、むしろ少子高齢化で教える側のポストも教わる側の学生も需給がアンバランスになっているので、無茶な数の留学生を受け入れて、結局満足な教育もできないまま大学という法人だけが赤字のまま維持され補助金が突っ込まれてしまいかねないという点は改めて考えておくべきだと思います。

 法科大学院しかり、時代や状況に合わせて不採算、先行きが不透明なものは大学当事者の合理的な判断で縮小したり、統廃合するというのは必要なことだと思うのですが。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.187 Amazonマケプレ事件の背景をザックリと考察しつつ、大学奨学金問題や偽ニュース問題についても触れてみる回
2017年4月28日発行号 目次
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【0. 序文】大学の奨学金問題、貸し倒れ率見る限り問題にならないのではないか
【1. インシデント1】Amazonなどで北朝鮮系組織が詐欺行為を連発している話
【2. インシデント2】SNSの与太話やフェイクニュースを法律で規制することは可能なのか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。サイバーインテリジェンス研究所統計技術主幹など歴任。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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