平川克美×小田嶋隆「復路の哲学」対談 第2回

競争社会が生み出した「ガキとジジイしかいない国」

「大人として振る舞わなければいけない」という規範が消えた

187A1577sm小田嶋:数十年前のサラリーマンの写真の話は興味深いな、と思いました。彼らが今の30代よりもずっと大人に見えるのは、顔の造作の問題というより、写真を撮られるときの緊張感の問題ですよね。「写真に撮られるときには、大人としての表情をたたえておかなければいけない」という意志が働いているからこそ、そういう表情の写真が残っているわけです。

そういう意味では、「大人」というのは、人格というよりも「役割意識」に近いものだったんじゃないでしょうか。

平川:そう。昔の人のほうが内面的に立派だったかどうかということはさておき、少なくとも「大人の仮面を被ろうとしていた」ことは間違いないだろうと思います。

小田嶋:それは、自分の意志で大人として振る舞おうとしていたというよりも、むしろ周囲からの圧力でそう振る舞っていた側面が強かったということですよね。私の父親の世代でも、少なくとも30歳ぐらいになったら大人として振る舞わなければいけないというふうに、周囲から追い込まれていたように思います。

でも、私の世代になるともう、30歳を超えても、そういう周囲からの「大人になれ」と追い込まれるような圧力は感じませんでした。今の30歳だと、そもそも周囲が「大人」だと思っていないぐらいではないでしょうか。

先ほどからお話している「大人のロールモデル」として皆が共有するような映画俳優なり、スポーツ選手がいないというのは、そのことを象徴的に表しています。おそらく数十年前の30代というのは、多かれ少なかれ、高倉健さんが演じていたような大人像をロールモデルとして共有していた。だから、30歳になると何となく「俺はもうおじさんだから」と覚悟を決めて、若者みたいにチャラチャラするのはやめておこう、と考えたんだと思うんです。

ところが今、テレビや映画で活躍していて、若者のロールモデルになりうる人たちって、みんな「年齢よりも若く見える」人達ばかりですからね。30歳になった嵐も、40歳になったSMAPも、みんな若者であって、大人ではない。

平川:SMAPって40歳なんですか(笑)。

小田嶋:40歳なんです。一番若い香取慎吾でも30代後半じゃないでしょうか。このことって、大きいですよね。だって「SMAPが若者なら、40歳の俺だって若者だよな」ってなるじゃないですか。でも、そうすると何が起きるかというと、ずーっと若者だった人がある日突然、ジジイになっちゃうんです。大人というか、「おじさん」の期間がほとんどなくなってしまうということですね。

1 2 3 4 5

その他の記事

揺れる情報商材 違法化、摘発への流れが強まる(やまもといちろう)
貧富の差がなくなっても人は幸せにはなれない(家入一真)
この冬は「ヒートショック」に注意(小寺信良)
生まれてはじめて「ジャックポット」が出た(西田宗千佳)
日本が世界に誇るべき観光資源、温泉について(高城剛)
本当の知性を育む「問いへの感度を高める読書」(岩崎夏海)
今年買って印象に残ったものBest10(小寺信良)
【第2話】波乱の記者会見(城繁幸)
古い日本を感じる夏のホーリーウィークを満喫する(高城剛)
成功する人は群れの中で消耗しないーー「ひとりぼっちの時間(ソロタイム)」のススメ(名越康文)
ソニーが新しい時代に向けて打つ戦略的な第一手(本田雅一)
Google様が悪質中華ボット企業のドメイン差し押さえて壊滅させた話の補遺(やまもといちろう)
明石市長・泉房穂さんが燃えた件で(やまもといちろう)
心身や人生の不調対策は自分を知ることから(高城剛)
『仏像 心とかたち』望月信成著(森田真生)

ページのトップへ