平川克美×小田嶋隆「復路の哲学」対談 第3回

なぜ「正義」に歯止めがかからなくなったのか 「友達依存社会」が抱える課題


草食系男子を生んだ「仲間の絆」

小田嶋:いろんな権威が壊され、さまざまな人間関係がフラット化していくなかで大人がいなくなっていった。そういう社会の中で若い人がどうやってサバイブしているかということで最近感じるのは、若い人が「仲間や友達を非常に大切にする」ということなんです。

例えば、東日本大震災の後に「絆」という言葉が流行りましたけれど、とにかく仲間、絆、友達、集団というのを大切にする。それを大切にしないやつは人でなしだ、という空気がある。でもそんな価値観が定着したのって、せいぜい80年代以降で、それ以前はほとんど見られないものだった気がします。

平川:確かに、若い人の話を聞いていると、仲間とか友人を非常に大切にする傾向がありますよね。エンターテイメントでも、秋元康さんが仕掛けているAKBに象徴されるように、とにかく大人数で群れる、集団化するというところがスタートラインになっているように感じる。でも、大人になることのスタートラインって「一人立ちする」ということですからね。それは確かに、「大人がいなくなった」こととの符丁がありますね。

小田嶋:実は僕は、よく言われる「草食系」の話と、今日の「大人がいなくなった」話って、実は同じ文脈なんじゃないかという気がしているんです。草食系って、「今時の若い男は性欲が弱くて、女の子とのセックスに興味を持たない」という文脈で語られるんだけど、僕はたぶんその説明は嘘だと思うんです。今の若い男だって、女の子とのセックスには十分興味がある。でも、優先順位が変わった。

つまり今の若い人にとって、「彼女を作る」「モテる」「セックスする」ということは優先順位の一位じゃなくなっているんだと思うんです。彼らが一番大切にしているのは、「仲間がいる」ということになった。その結果、彼女を作ったり、セックスをしたりすることの順位が下がっちゃったんじゃないかと思うんです。

平川:なるほど。確かに「仲間」「友達」というものの価値は、僕らが若い頃よりもずいぶん高まっているように感じますね。

小田嶋:たぶん、週刊少年ジャンプが「友情・努力・勝利」という3つのかけ声でマンガを作り、それが子供たちに支持されてきたこととも無関係ではないと思うんですが、彼らは仲間を失うことを過剰に恐れているんです。

 

友達なんて一人もいなくても大丈夫

小田嶋:若い人が、仲間を失うことを過剰に恐れる傾向というのは、スマートフォンや、LINEなどのSNSが広まったことでさらに加速されているように思います。

携帯とかスマートフォンが普及したことで何が変わったかというと、友人関係、仲間関係がやたらと継続されるようになった、ということです。それまでは、学校を卒業するとか、職場を変わるというだけで、それまでの友人関係や仲間関係というのは、案外ブツッと切れてしまうものだったんです。

たとえば中学校に入ると、相当仲が良かった相手でも、小学校時代の同級生とは遊ばなくなる。中学を卒業して高校の友達と遊び始めると、中学校のときの友人とはそれっきり40年会ってない、というのもざらにあった。それは薄情だとか、いい悪いの問題じゃなくて、そもそも友達って、そういうものなんですよ。どれほど仲の良い親友だろうと仲間だろうと、数年ごとに関係性がリセットされるのが普通なんです。

ところがSNSや携帯が普及してしまうと、そういうわけにはいかなくなる。いったんつながると切れない。別にそこまで仲が良いわけでもないのに、友達や仲間のリストがどんどん長大になっていく。

でもね、本当は友人なんて一人もいなくっても大丈夫なんですよ。

平川:そうですよ。小田嶋さん、いないもんね(笑)。

小田嶋:いないですね(笑)。まあ、まったくいないのもどうかと思うけれど、「友達をあてにしない」って、人が生きていく上ですごく大事なことだと思うんです。今はけっこう、当たり前のように友達や、仲間をあてにして生きている人が増えている気がします。

平川:いや、今のお話は非常におもしろいと思う。仲間がほしいというのは、裏を返せば「自分一人で責任を負いたくない」ということだよね。大人じゃないからこそ、仲間や友達が必要なんですよ。「最後の責任は私がとる」「一同を代表して私が謝る」っていうのが大人ですからね。

もちろん、仲間や友情というのは大切ですよ。でもそれは、友情を確認しあったり、責任を押し付け合ったりすることじゃないはずです。『昭和残侠伝』での高倉健と池部良なんて、「この人のために一緒に死ぬ」というぐらいの友情を結んだ二人なのに、二人で一緒に酒を飲むことすらしないぐらいですからね。

<おわり>

 

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