岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海の競争考(その29)

正しい苦しみ方

「メタ視点」がもたらすもの

では、ちゃんと苦しみつつ、そこから逃げないためにはどうすればいいのか? そこで登場するのが「メタ視点」である。苦しみは、フラットな視点でちゃんと味わう一方、メタ視点で、それを冷静に受け止める。

例えば、走っていると苦しい。それに率直に向き合うと、どうしたって逃げ出したくなる。しかしそこでメタ視点――苦しんでいる自分を冷静に見つめるもう一人の自分を持つ。そして、こう考えるのだ。「この苦しんでいることが、勝利につながる。だとしたら、もう少し苦しもう」そうして、苦しさよりも勝利することのモチベーションが高まり、苦しさから逃げないようになるのである。

それが、正しい苦しみ方である。将棋の羽生善治さんは、勝負所で指が震える。駒をしっかり持てないほどだ。なぜかといえば、怖いからである。差し間違うことの恐怖から、指が震えてしまうのだ。ではなぜ恐怖心を感じながらちゃんと指せるかというと、それを冷静に見ているメタ視点を持っているからだ。羽生さんは、震えている自分の指を見て「ああ、自分は恐がっているな」と逆に気づかされるという。それほど、俯瞰的、客観的なメタ視点を持ちつつ、駒を差すのは、その冷静な視点で行う。だから、感性を損なわないまま、冷静な手を指せるのである。

ちなみに、メタ視点には一つのオマケがある。例えば、羽生さんは自分の指の震えを見て「今が勝負所なんだな」と逆に気づく。そうして「なぜ勝負所なのだろう?」と分析することで、それまで見えなかったものが見えたりするのである。つまり、手の震えや恐怖心といった「苦しむこと」が、危機を知らせるセンサーになっているのだ。そのため、それをいち早く察知でき、回避することができるのである。

このように、勝利するためにはメタ視点を作り、しかもそれを鍛え上げ、活用していく必要がある。自分の苦しみを冷静に見つめる客観的、俯瞰的なもう一人の自分を、自分の中に育んでいくことがポイントとなるのだ。

そこで次回は、メタ視点の鍛え方について書いてみたい。

 

 

※「競争考」はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」で連載中です!

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

【 料金(税込) 】 864円 / 月
【 発行周期 】 基本的に平日毎日

ご購読・詳細はこちら

http://yakan-hiko.com/huckleberry.html

 

岩崎夏海

1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

1 2
岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

その他の記事

僕が今大学生(就活生)だったら何を勉強するか(茂木健一郎)
ソニーが新しい時代に向けて打つ戦略的な第一手(本田雅一)
『君の名は。』『PPAP』…ヒットはどのようにして生まれるか(岩崎夏海)
子どもに「成功体験」を積ませることよりも、親の「しくじった話」が子どもの自己肯定感を育むってどういうこと?(平岩国泰)
付き合う前に「別れ」をイメージしてしまうあなたへ(石田衣良)
『数覚とは何か?』 スタニスラス ドゥアンヌ著(森田真生)
少子化を解消するカギは「家族の形」にある(岩崎夏海)
ネトウヨとサヨクが手を結ぶ時代のまっとうな大人の生き方(城繁幸)
週刊金融日記 第271号 <美術館での素敵な出会い 傾向と対策 他>(藤沢数希)
「来るべき日が来ている」中華不動産バブルの大崩壊と余波を被るワイちゃんら(やまもといちろう)
アマゾンマナティを追いかけて〜赤ちゃんマナティに授乳する(川端裕人)
ヒットの秘訣は「時代の変化」を読み解く力(岩崎夏海)
日印デジタル・パートナーシップの裏にある各国の思惑を考える(高城剛)
もし朝日新聞社が年俸制で記者がばんばん転職する会社だったら(城繁幸)
欠落していない人生など少しも楽しくない(高城剛)
岩崎夏海のメールマガジン
「ハックルベリーに会いに行く」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 基本的に平日毎日

ページのトップへ