岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海「本・映画のリコメンド」より

「モテる人」が決して満足できない理由

 

二村ヒトシさんの『すべてはモテるためである』という本を読んだ。

この本は、「モテない人はなぜモテないか?」ということを、それ以前の「そもそもモテるとは何か?」ということから考え始めて、続いて「ではどうすればモテるのか?」、あるいは「モテたらどうなるのか?」というふうに、「モテる(モテない)」という現象について包括的、多角的に分析、論説した本である。

これを読んでいていて、ぼくは唐突に「モテるとは何か?」ということに気づかされた。いや、うすうす気づいてはいたのだが、それが明確に意識化されたのである。モテるということの正体が、理論だった概念として浮かびあがってきたのだ。

 

「自分のことを考えなくなった」らモテるようになった

ところで、これは冗談でも何でもなく、今のぼくはモテる。しかし、昔はモテなかった。

そのため、「どうして昔はモテなかったのに、今はモテるようになったのか」ということを、この本を読んで考えた。すると、昔と今の違うところが分かってきた。昔と今の、ぼく自身の差異が見えてきた。その差異を検証することで、「モテるとは何か?」ということの正体が分かったのだ。

では、昔のぼくと今のぼくとで違うところは何か?

それは、「自分のことを考えなくなった」ということだ。

昔は、「自分」のことをよく考えていた。「自分中心」の考え方をしていた。しかし今は、「自分」のことは考えなくなった。その代わり、ぼく以外の、ぼくがつき合う「相手」のことを考えるようになった。

そうしてぼくは、その「相手」のことを喜ばせたいという、「相手中心」の考え方をするようになったのだ。

では、「相手中心」に考えて、相手のことを喜ばせようと思ったとき、自分にできることは何か?

実は、ここのところがミソなのだが、それは、「ぼくのことを好きになってもらう」ということなのである。

ぼくのことを好きになってもらうことは、実は相手にとってこそ喜びであった。ぼくはそのことに気がついた。だからモテるようになったのだ。

 

「相手中心に考える」ことの困難さ

これは、具体的にどういうことなのか? 別の言い方で説明してみたい。

例えば、たまたま知り合った女性がいたとする。その女性と、恋愛や友人に至らないまでも、知人としてつき合うことになったとする。そのとき、ぼくを「好き」になってもらうのと、ぼくを「キモチワルイ」と思うのとでは、どっちが幸せか?

それは、言うまでもなく「好き」になってもらう方である。誰も、「キモチワルイ」と思うような男性とは知人でいたくないし、会いたくもない。

しかし、好きになる男性とは知人でいたいし、会いたい。だから、その人にとっては、ぼくを好きになる方がよっぽど幸せなのだ。

その原理に、ぼくは気づいたのである。だから、それ以来、相手から好かれようと考えるようになった。

ただし、好かれる目的は、自分中心の考え方に依ってではない。あくまでも、相手中心の考え方に依ってである。

ここのところが、大きな違いなのである。自分のために自分を好きになってもらうのと、相手のために自分を好きになってもらうのとでは、天と地ほどの差があった。

両者の違いは数え切れないほどあるが、まずそれが現れるのは「格好(スタイル)」においてである。

自分のために好きになってもらおうとすると、例えば相手と会うとき、「自分がしたい格好」をする。あるいは、「自分がこう見てもらいたい」という格好をする。自分を変わり者だとみてもらいたい人は変わり者の格好をするし、自分を不良に見てほしい人は不良っぽい格好をする。

しかし、相手のために自分を好きになってもらおうとする人は、自分の好きな格好をしない。自分をこう見てほしいとも思わない。

それよりも、「相手が自分をどう見たいか」ということに意識を集中させる。あるいは、「相手がどういう格好をしてほしいか」ということを考えて、それに合わせた格好をするのである。

このとき、具体的なスタイルは、実は重要ではない。変わり者の格好をしようが、不良の格好をしようが、そんなことは本質的な問題ではない。

それよりもだいじなのは、「相手を喜ばせる格好ができているかどうか」である。その「基本」を損なっていないかどうか、が、何より重要になってくるのだ。

その「基本」とは、例えば次のようなことである。

・清潔である
・自分の格好(スタイルについて考えた経験)を持っている
・自分に似合ったスタイルである
・着るのが簡単な服を着ない(着るのが面倒くさい服を着る)

この中で、取り分け難しいのが2つ目の「自分の格好を持っている」ということだ。
ほとんどの女性は、自分に媚びへつらう男性が好きではない。それよりも、自分を引っ張ってくれるリーダーシップを持った男性が好きだ。

だから、たとえ相手の女性にスタイルの好みがあったとしても、それに合わせるような男性では、かえってマイナスイメージになるのである。

このように、「相手の気持ち」というのは一筋縄ではいかない。ほとんどの人が、その人自身さえ気づいていないアンビバレントな気持ちを抱えている。

例えば、曲がったことの大嫌いな女性が、えてして不良に惹かれるというのはよくあることだ。そんなアンビバレントな様態の中にこそ、人の気持ちというものの本質が隠れているのである。

その道理を理解していないと、いくら「相手中心」に考えても、いつまで経ってもモテはしない。

ぼくは、たまたま人の心を読み解くことが仕事だったから、そうしたからくりに気づくことができた。そのため、「相手中心」に考えるようになってからは、すぐにモテた。

しかし、世の中のほとんどの人は、そうした「人の気持ちのアンビバレントな様態」というものを知らない。だから、例えば「だらしなさ」「子供っぽさ」といった、一見モテるためにはマイナスに見える要素が、逆にモテるための強力な武器になるということも分かっていない。

そのため、そうした道理を理解できるようになると、大きな競争力を獲得できる。
ただし、この考え方には一つの「お断り」がある。それは、あくまでも「相手中心」の考え方ですることだから、「自分」はどこまでいっても満足できない――ということだ。だから、「自分が満足しないこと」に何らかの意味を見出せる人でないと、積極的に継続していくのは困難なのだ。

 

※「岩崎夏海の本・映画のリコメンド」はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」で連載中です!

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

【 料金(税込) 】 864円 / 月
【 発行周期 】 基本的に平日毎日

ご購読・詳細はこちら

http://yakan-hiko.com/huckleberry.html

岩崎夏海

1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

その他の記事

Ustreamが残したもの(小寺信良)
子どもに「成功体験」を積ませることよりも、親の「しくじった話」が子どもの自己肯定感を育むってどういうこと?(平岩国泰)
ネトウヨとサヨクが手を結ぶ時代のまっとうな大人の生き方(城繁幸)
「自然な○○」という脅し–お産と子育てにまつわる選民意識について(若林理砂)
気候変動や環境毒のあり方を通じて考えるフェイクの見極め方(高城剛)
アカデミー賞騒ぎを振り返って〜往年の名優を巻き込んだ「手違い」(ロバート・ハリス)
参議院議員選挙をデータで眺める(小寺信良)
「有休を使い切ったうえで生理休暇って、アリなんでしょうか?」(城繁幸)
「リボ払い」「ツケ払い」は消費者を騙す商行為か(やまもといちろう)
百貨店、アパレル、航空会社… コロナで死ぬ業種をどこまでゾンビ化させるべきか(やまもといちろう)
『STAR SAND-星砂物語-』ロジャー・パルバース監督インタビュー (切通理作)
岸田文雄政権の解散風問題と見極め(やまもといちろう)
Qualcommブースで聴いたちょこっといい話(小寺信良)
南国滞在を引き延ばすもっともらしい言い訳(高城剛)
どうなる? 小中学校へのスマホ持ち込み(小寺信良)
岩崎夏海のメールマガジン
「ハックルベリーに会いに行く」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 基本的に平日毎日

ページのトップへ