小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

「お気持ち質問」本当の意味

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年8月13日 Vol.183 <生きづらくしているのはだれか号>より


ワイドショーでは今日も、日本ボクシング連名会長辞任劇や皇室婚約延期問題など、我々の生活とはかけ離れたニュースを懸命に報じている。不祥事はともかくも、人の結婚の話は色々デリケートなんだからそっとしといてやれよと思うのだが、そういうプライバシーをあれこれ言うのがワイドショーの役割であるから、仕方がない。

ところでこうした本人取材において、テレビレポーターからよく発せされる質問に、「今のお気持ちをお聞かせください」というものがある。ネットでは、気持ちなんか聞いてどうするんだ、という声もあるところだ。確かに報道機関が押さえなければならないのは事実関係であり、当事者の気持ちはどうでもいいように見える。ではなぜレポーターは気持ちを聞きたがるのか。

そこにはワイドショー独特の計算がある。

 

ワイドショーのロジック

気持ちを聞く第一の理由は、話の枕になるからである。あまり語りたくない内容であったり、そもそもトークの素人に対して、あなたの気持ちはどうなのか、という問いは、比較的答えが出やすい。まずは重い口を開かせる効果があるため、多用されるわけである。

囲み取材においては、最後にもう一回「お気持ち」を聞く場合も少なくない。この意味は、最初に聞く気持ちはあくまでも口を開かせるためであり、元々使うつもりがないからだ。しゃべりがノッてきたときに改めてしゃべらせた「お気持ち」は、最初よりも饒舌で話がまとまっている可能性が高い。使うならこちらのほうである。

ただ、相手が最初の一言しかしゃべらず、ここしかコメントがなかった場合は、そこを使うしかない。せめて肉声を取ったというだけでも、一応の取材の体裁にはなる。あとはスタジオで拾ってどうにかする、という算段ができる。

第二の目的は、「相手の失言待ち」である。気持ちは、事実関係とは違う。人が頭の中で何を考えようが何を思おうが自由であり、「それを言え」というわけだから、しゃべる方も気が楽になり、ついつい余計なことまで言ってしまう。あるいは逆に言葉足らずとなり、相手方や第三者に対しての配慮に欠けていたとか、様々な瑕疵が生じる。当然テレビ取材では、言ってしまえばそれが記録され、「そう言ったという事実」に変わる。事実なら、それはそのまま放送できてしまう。

この方法論のズルいところは、質問者は相手を思いやっているポーズが取れるので、取材者側に批難が来ないところである。世論は、「あんなことを言うなんてひどいヤツだ」という評価で沸騰してしまうので、それを言わせた側の責任まで頭が回らないわけだ。あとは煮るなり焼くなり、である。

その煮るなり焼くなりもまた、ワイドショー的切り口がある。事実関係における善悪の評価ではなく、「そういうことを平気で言う」という人格なり人間性を評価するという、評価軸のすり替えだ。

事実の評価は、実は難しい。反社会的な行動であっても、立場上しょうがなかっただろうとか、自分でもそうするかも、といった、「気持ちはわかる」的な評価がありうるのだ。

だが人間性の評価では、あまり異論の余地がない。そしてこの評価は、問題の本質が理解できない人たちであっても、簡単に参加できる。極端な話、人相の悪い相手に対して「あいつは悪いやつのような気がする」というだけの作業だからである。こうして多くの人は、本来はもっと複雑な問題であるにもかかわらず、簡単に判断できたような気になり、すっきりする。

ただ事実関係を押さえに行っているわけではないので、新事実が出てくればまた最初から仕切り直しになる。この話いつまでやってるんだ、もうわかったわかった、と思うことも少なくないだろうが、実は問題の本質は何もわかっていないのである。つまりワイドショーの本質は、不満の共有と解消の繰り返しによる、エンドレスな爽快感の提供である。

テレビ放送は異論がある場合は両論併記が基本だが、異論が少なければ、少数意見に少し触れるだけでクリアできる。コメンテーターには、必ずそういう「マイノリティ役」の人がアサインされる。

こうしたテクニックは、かれこれ半世紀かけて培われてきたものである。いったん仕組みを知ってみると、ワイドショーの見方もまた変わるだろう。我々は、ニュースはニュース、ワイドショーはワイドショーと、きちんと分けて見ていく必要がある。ただし番組を作る側がきちんと線引きができているかと言えば、まあちょっと微妙な感じのものもあるから、ややこしくなるのだ。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2018年8月13日 Vol.183 <生きづらくしているのはだれか号> 目次

01 論壇【西田】
 「音ゲー」のあり得た未来を考える
02 余談【小寺】
 「お気持ち質問」本当の意味
03 対談【西田】
 藤津亮太さんに聞く「配信はアニメのストーリーを変えるのか」(1)
04 過去記事【西田】
 遅れてきたスマホ・Xperiaは巻き返せるのか
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。   ご購読・詳細はこちらから!

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