川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」より

シーワールドがシャチの繁殖を停止。今の飼育群を「最後の世代」にすると決定

川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」Vol.012より

メルマガ9号〜11号で紹介してきた(※)鯨類飼育の最高峰シーワールドが、とうとう「シャチの繁殖をやめる」決断をしたという。

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<シーワールドといえばシャチのショー。秘密基地からハッシン!vol.009より>

※バックナンバーはのご購入はこちら。

9号 シーワルド編その1 鯨類飼育の総本山へ行ってみた!
10号 シーワルド編その2 サンディエゴ・シーワールドを見学して考えたこと
11号 シーワルド編その3 変わりゆく水族館

いろいろ報道も出ているけれど、元ネタのリリースはこちら。
https://seaworldcares.com/en/Future/Last-Generation/

本当に、繁殖をやめ、今いる飼育下のシャチを最後の世代にすると書いてある。

ちょっとあわてて、訳してみるので、おやっと思ったところは微妙に取り違えている可能性もあるけれど、こんなかんじ。

-----------------------------

時代は変わり続け、それとともに私達も変わっていきます。現在、わたしたちが飼育しているシャチは、シーワールド最後の世代になることになりました。当社(シーワールドエンタテインメント)は、本日をもって、シャチの繁殖をやめます。

(中略)

私たちは、シャチたちを愛していますし、来園してくれる人の多くも同様でしょう。そして、今回の決断は、わたしたちのシャチたちにも、来園者にも、従業員にも、シーワールドにとっても、ベストなものです。

「シーワールドは4億人もの人々にシャチを紹介してきました。そして、人間がこの動物を理解することに貢献してきました。それを誇りに思っています」シーワールド・エンタテインメント社長Joel Manbyは言います。「私たちは、シャチが、地球上でもっとも愛される海洋哺乳類になったことに貢献しています。社会のシャチについての理解は常に変化しており、シーワールドもそれにともなって変わります。私達が飼育するシャチを最後の世代とし、来園者がこの美しい生き物をどのように体験するのか再検討(reimagining)していくことで、私たちは私達の施設を訪れる人々に対しての使命を果たしていきます」

シーワールドは、シャチを野生から、40年近く導入していません。そして、ほとんどのシャチは、飼育下で生まれたものです。彼らは野生で生きたことがありませんし、環境的な心配事(たとえば、海洋汚染や人間が作り出した脅威)の中で生き延びることはできないでしょう。

シーワールドのシャチの現在の飼育群は(その中には現在妊娠中のメス、タカラもいます)、すべて、今後の生活を当社の人工的な生息環境の中で過ごすことになります。そこで、彼らは引き続き、最新の海洋生物獣医学、科学、動物学的な実践に基づいた、最高のケアを受けることができます。シーワールドへ来場した人は、「新しい教育的交流」(注・ショーの代替に行うもの)やビューイングエリアで会うことができます。

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繁殖をやめる理由は、「時代の変化」。そして、鯨類についての社会の受け止め方が変わると、シーワールドもそれによって変わっていくことになる、と。

その際に、シーワールドがシャチをみんなに紹介して、それによってシャチが人気者になり、結果、シャチについての考え方も変わっていった、と読めるようなステートメントがあるのは、せめてもの意地か。

今後についての方針は、こちら。
https://seaworldcares.com/en/Future/

シャチの繁殖を停止した後──


New, inspiring, natural orca encounters rather than theatrical shows
従来の「劇場型」のショーをやめて、もっと自然なシャチ体験ができるプログラムを開発。

New partnership to protect oceans and marine mammals
海洋環境、海の哺乳類を守るためにさまざまな方面との連携を強化。

つまり、ますます「環境保全型」施設の色を強くしていく方針だ。

では、日本への影響は?

たぶん、ある。

日本でもシャチの飼育はしているわけだし、それについては、イルカ漁の問題とは別に(リンクしながらも)、常に批判されてきた。

シャチは、海外から飼育施設(水族館など)に、個別に直接矢が飛んできやすい動物だ。

40年間ほとんど飼育下繁殖だけでやり通し、今後も、やっていける目処があったシーワールドが、時代の変化を理由に繁殖をやめる(つまり、ゆくゆくは飼育をやめる)ことは、いまだ、まともに繁殖を成功させていない(少なくとも軌道に乗せていない)日本の飼育状況を、悪い意味で際立たせることになるかもしれない。

とはいえ、やはり、先は読めない。

シャチだけでなく、陸上の動物、ゾウのような大型で飼育しにくいもの(ゾウは、飼育も繁殖も、一筋縄ではいえない、その困難も一言では説明できない動物だ)にもなんらかの影響が出てくることもありうるし、もちろん、もっと小さなハンドウイルカのようなイルカは、直接の波及もあるかもしれない。

去年、JAZA/WAZA問題で痛感したように、動物を飼育するコミュニティは、世界的に「つながっている」のだから。

なにか大きなうねりをかんじる。

本当にはかりしれないので、継続的に情報をウォッチしていくことにする。

(2016.3.23.追記)

このピンとこなさは、「斜め上」というのともちょっと違う。

超未来の時間線で、歴史が変わったのを知った過去の人がどう受け取ればいいのか、みたいな。

なにを気にすればいいのか、よくわかんない。

そういう状態。

 

川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!

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Vol.012(2016年3月18日発行)目次

01:本日のサプリ:森の妖精・フィヨルドランドペンギン
02:秘密基地で考える:シーワールドが今後シャチを繁殖させないことを決定
03:keep me posted~ニュースの時間/次の取材はこれだ!(未定)
04:どうすいはく:2400万年以上前の地層が残る、足寄フィールドレポート
05:宇宙通信:スペースシャトルと恐竜大行進〜2月28日アメリカ弾丸ツアー 前編
06:おたよりコーナー
07:連載・ドードーをめぐる堂々めぐり(12)17世紀、ドードーはペンギンと間違われていた?
08:せかいに広がれ~記憶の中の1枚: カンボジアのトンレサップ湖の子どもたち
09:著書のご案内・予定など

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川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

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