※小寺信良&西田宗千佳メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」2015年06月26日 Vol.040 <次世代の姿を考える号>より
今回・次回と、まだしばらく出張中に集めたネタをお送りする。コストも時間もかかってるので、骨までしゃぶろうとするのがフリーランスの性である。といっても、本ネタはメインの回にまわしたいので、今回はちょっと軽いお話を。
今回、E3取材で感心したのがアプリの活用だ。
昨今、ちょっと大きなイベントであれば、スマートフォン用のアプリが用意されるのは当然のこと。以前は紙で提供されていたフロアマップやデイリーレポート、出展者の詳細説明などが、アプリで提供される。今年のCESアプリのように、ビーコンを使ったナビ機能を備えたものもあったりして、毎回進化を続けているが、決して「メチャメチャ役に立つもの」ではない。
しかし、今回は「このアプリがないと始まらない」ものがあった。それが、Oculus VRとSCEが配っていた「デモ予約アプリ」だ。
イベントいえば行列がつきもの。だが、誰しも1つの行列だけこなせばいいわけではない。目的が趣味であろうが仕事であろうが、無駄な時間はなくしたいと思うのが人情である。
そこで、デモやブース訪問には「アポイント」をとるものだ。だが、アポイントを受け入れてくれるのは、お互いに「そうするメリット」があるときだけだ。たとえば元々商談があるとか、是が非にでも見てもらいたいとか、そういうなにかがないと、「アポをとりたい」といってもうまくいかない。
イベントのブースデモは、常に行列との戦いだ。すべての企業とアポが結べるわけでもない。特に超がつくほど注目されている企業の場合、平等性を確保する目的から、そもそもアポを受け入れないこともある。だから行列に並ぶわけだ。
ブースを構える企業の側がアポを設定できないのは、数が多いとコントロールしきれないからである。ならば、そこをITでカバーしてしまえばいい。
話が長くなったが、そこで活用されたのが「デモ予約アプリ」である。
画像は、OculusとSCEがE3で公開していた「デモ予約用アプリ」だ。
・Oculusのデモ予約用アプリ。日時によってそのスロットの空きが表示されるので、タップして予約する。
・SCEのProject Morpheusデモ予約用アプリ。構造はOculusのものとほとんど同じ。もちろんタブレットでも動く。
構造は至ってシンプルなものだ。事前にアプリには、自分の氏名を入れておく。Facebookのアカウントで登録もできるので、それでもいい。予約用のスロットが日時毎に設定されており、それぞれに「どれだけ空きがあるか」がわかる。あとは、そこをタップして「予約」すればOKだ。予約時間が来たらスマホをもって、予約者用のカウンターにいけばいい。
実は、2社が使っているのは同じGuideBook社のアプリ。筆者は知らなかったが、Oculusは1月のCESからこのアプリを使っているようで、おそらくはOculusがSCEに教えたのだろう。
もちろん、このアプリには問題点もたくさんある。
ひとつ目は、「来場者が予約したのかを確認する仕組みがない」ことだ。いたずらでもなんでも登録できてしまうため、予約があるのに来ない……という可能性もある。そうした問題があるため、筆者も会期中には、SNSでの拡散は「予約ができる」という事実だけに留め、アプリの在処や名前、予約方法を公開することはしなかった。そうしたトラブルの可能性は、もちろん運営側もわかっている。日に数度予約者チェックが行われ、予約リストの整理が行われる。だから、「予約がいっぱい」と表示されても、日に数度チェックすると、再び予約可能になってることもあった。
二つ目は、予約カウンターでもさらに待たされ、アポ時間からずれてしまっていたことだ。Oculusの場合、アポ時間前に行くと、「再度アポの時間に列に来い」と係員に指定されたため、時間を守って行列に並んだのだが、行列を抜ける頃にはアポ時間は終わっていた。カウンターでその旨を告げると、「あなたのアポは終わっているので並び直せ」という始末。拙い英語で強くクレームを入れた結果、問題なく入れたが、列のコントロールは結局「現場任せ」になる。
とはいえ、こうした仕組みは実にうまい。日本のイベントでも整理券を発行する例はあるのだが、整理券を求めて早朝から列を作り、会場とともにダッシュする……という姿が見られ、実に危ない。日本でもこうしたアプリによる予約の仕組みは、積極的に採用すべきである。完璧でなくても運用でカバーできて、さらに根本的な問題が解決できるなら、それでいいではないか。
そろそろ日本も「イベントは地図アプリ」を越える時代がやってこないといけない。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2015年06月26日 Vol.040 <次世代の姿を考える号>目次
01 論壇(小寺)
次世代の補償金制度をどう機能させるか
02 余談(西田)
なかなか技あり、行列を緩和する「イベントアプリ」
03 対談(西田)
「大江戸スタートアップ」が見る日本のスタートアップ事情(5)
04 過去記事アーカイブズ(小寺)
補償金制度廃止論にまつわる明と暗
05 ニュースクリップ(小寺・西田)
06 今週のおたより(小寺・西田)
07 今週のおしごと(小寺・西田)
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。
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筆者:西田宗千佳
フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。
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