ふるまいよしこ
@furumai_yoshiko

ふるまいよしこメルマガ『§ 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな』より

少林寺、そのセックス、カネ、スキャンダル

少林寺は宗教なのか、それともビジネスなのか

中国では宗教は政府の管理下に置かれている。政府が正式に認めているのは、道教、仏教、イスラム教、カソリック、そしてプロテスタントだが、すべて愛国委員会のもとで管理される団体に所属していることが前提だ。その他の宗教団体は公的な活動をするものはもとより私的な活動でも、取り締まりの対象になる。

だが、少林寺にはそのような心配はない。釈永信氏は1998年に全国人民代表大会の代表に選ばれ続けており、政府をバックに持つ中国仏教協会の副会長を務めている。『フィナンシャル・タイムズ』の記事によると、一般の仏教寺院では高僧の任命後、所属する省の政府宗教事務局に届け出ることあ義務付けられている。しかし、方丈についてのみ、共産党員が握る政府の宗教事務局が直接任命することになっているという。

興味深いことに、『フィナンシャル・タイムズ』記者が「あなたはなぜ、方丈になれたのか」と尋ねると、方丈はこう答えている。

「わたしが組織の言うことを聞くからでしょう。わたしは心から人民のために奉仕したい」
「我々は必ず政府によって宣伝され、発展しなければならない。政府の権限は大きく、その支持がなければ、我われが発展するのは難しい」

 

少林寺の正統性とは何なのか

だが、宗教に深い関心を持つジャーナリストの黄章晋氏はこう書いている。

「少林寺には、清朝の康煕5年(1666年)から320年あまりに渡り、方丈がいなかった。その後、戦乱の大混乱の中で僧侶は何度も寺を捨てて逃げ出している。中華人民共和国が建国した1949年に寺に残っていたのは、身体の不自由な数人の老僧だけだった。なのに、釈永信は22歳で住職になるまでに仏門で学んだのはわずか6年間だけなのである」

「もし、少林寺の数千年の歴史がとうとうと続いているというのであれば、釈永信は高い徳を持つ高僧たちに長年の薫陶を受けてきたということになる。だが、そんな先輩たちの経験は今の時代ではまったく使いものにならないのだ。これまでの寺院は、寺院が所有する土地や山林、そして供養香典料で支えられていた。今日の(中国の)寺院の不動産はどれも宗教団体のものではないために、田畑や地代、香典で暮らすことができない。毎日押しかけてくる数千万の観光客と腕を上げたいとやってくる武術愛好者なぞ、昔は想像もしていなかった現象なのだ」

つまり、清貧を貫くという仏教者のイメージと、今日の少林寺のカネも政治力もある様子とは相容れないと語る。実際に中国のその他の仏教寺院では、未成年の小坊主も大都市のホワイトカラーよりも高い給料をもらっており、それと比べると少林寺の物質生活はまだ質素な方らしい。

さらに実際に、少林寺ではケガをしたり、病気になった信者に無料治療を施しているものの、出す薬が100元(約2000円)と言われ、地域の人たちの足も遠のいているという。

ならば、今、少林寺とは一体どんな存在なのか。

もう一人のジャーナリスト、孫旭陽氏は書く。

「今の少林寺が各方面の利益を計算することに長けているのは事実だ。釈永信もおとなしく方丈の部屋に座っているわけではないはずだ」

その一方で少林寺は、世界各地の大学を中心に中国政府の肝いりで設けられている孔子学院に続く、中国文化のもう一つの伝達者になりたいと考えていると述べている。

確かに、少林寺がかつての伝統を継承していようがいまいが、映画やビジュアルを通じてそのカンフーは広く知られている。「宗教弾圧」で世界的に批判される中国政府にとって、その汚名を覆すにも、世界的に名を知られた少林寺は非常に大事な存在なのだろう。ならば、このセックス、カネ、スキャンダルはいかなる形で終息するのだろうか。
ふるまいよしこメルマガ「中国万華鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな §」vol.100(2015年8月1日発行)より

 

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ふるまいよしこ
フリーランスライター●北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部中国学科卒。1987年から香港中文大学で広東語を学び、雑誌編集者を経て独立●現在は北京を中心に、主に文化、芸術、庶民生活、日常のニュース、インターネット事情などから、日本メディアが伝えない中国社会事情をリポート、解説●東京新聞の土曜日朝刊「本音のコラム」担当●「Newsweek Japan ウェブ」にコラム「中国 風見鶏便り」を連載●著書『香港玉手箱』(石風社)、『中国新声代』(集広舎)●共著『艾未未読本』(集広舎)、『中国超入門』(阪急コミュニケーションズ)

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