内田樹&平川克美メールマガジン「大人の条件」2015年9月30日 Vol.117より

こんにちは。平川です。膀胱のカテーテル手術をしたのですが、その後遺症に少し苦しんでいます。
ところで、この間、気になっているのは、安保法案。8割を超える国民が説明不足だと言っているのに、強行採決ですよ。それでも、未だに4割近い内閣支持率があるんですね。この現政権支持の4割とは、何を意味しているのかを解明しないと、この国の現状を理解したことにはならないだろうと思います。
一言で言ってしまうと、日本封建制の優生遺伝子が未だに残存しているということなんだけど、これじゃ何のことか分かりませんね。(後で説明します)
日本には、民主主義は根付いたことがないんじゃないかと、最近つくづく感じています。じゃ、何が日本人の精神の根底にあるのかといえば、家族主義ですね。封建的な家族主義です。
権威主義的な直系家族というのが、日本の伝統的な家族形態なんですが、戦後それが解体したと思われていたのが、実は日本人の精神の中に深く内面化していて、重大な決断をするときには、この身体化した思想が表面に浮かび上がってくる。
歴史的でもあり、身体化した思想ですので、簡単には否定することができないし、この思想には合理的なところもあるわけです。
そこのところをはっきりさせないと、いつまでも、リベラルと内閣支持派は分裂したまま相容れず、日本人の意識も変わらないということになるように思います。
法案に反対している人は、人権主義、民主主義、立憲主義を前面に押し立てて、現政権の独裁的、裁量的なやり方を批判しているわけですが、もし、政権支持派の4割を切り崩そうとすれば、実はこのやり方は、説得力としてはあまり強くない。
もともと、民主主義とか、人権といった個人主義の中から生まれてきた思想は、日本においては知識階級のものであり、庶民感覚にはなじまない。
小田嶋さんは、「てめえ、さしずめインテリだな」という名言(?)を残しています。「法律で動いてるんじゃねぇ」「法律守って、国滅びたらどうするんだ」「自衛隊が、体張って日本を守っているんだ。ガタガタ言うな」「文句ばかり言うやつにろくなやつはいない」「自分たちが選挙で選んだ以上、信頼するしかないじゃないか」こんな言葉の前で、多くの日本人は、「ん? そうかな」って思っちゃうんですね。
そういう、4割の現政権支持派、「現実派」を切り崩すのは、どうしたらいいのか。
これは本当に難しい問題です。
『招かれざる客』(1967年・アメリカ)という、シドニー・ポワチエ主演の映画がありました。
公民権運動で、黒人に平等な権利をと主張しているリベラルな新聞社社長が、自分の娘が黒人の青年を連れてくると結婚に反対するというあらすじです。
頭では黒人差別はいけないと思っていても、実際に足下にくると、自分の身体が受けつけない。
そういうことがあるわけです。
これまでの、日本の政治史の中で、リベラル派が、いざ自分の問題になるとどれほど簡単に自分の信念を裏切ってしまうのかということを、いやというほど見せつけられてきたわけです。
私の身の回りにも、4割の現政権支持派に含まれる人間が何人かいますが、たとえば彼らと登山なんかすると、実に弱い者の面倒を見てくれる「いいやつ」だし、事故があった時には、日ごろ立派なことを言っているやつらよりは、よっぽど信頼できるわけです。そういう経験って、誰でもあるんじゃないでしょうか。
もちろん、これは、一般的な事実ではなく、私はわざと、極端な例として話しているのですが、それでも、そういうことはしばしば起こりうる。
こういう問題をどう考えたらよいのか。
なかなか厄介な問題です。
本当は、人間として信頼できるかどうかということと、リベラルか保守か、左か右かといった思想とはほとんど無関係なことなのですが、党派的な対立になると、これが混同されてしまう傾向があるんだと思いますね。
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内田樹&平川克美メールマガジン 「大人の条件」
2015年9月30日 Vol.117目次
★01 安倍政権の4割近い支持率から見えること(平川克美)
★02 小田嶋隆のグラフィカルトーク+平川克美のグラフィカルトーク「解題」
第21回<うつくしきもの・すさまじきもの>+<日本的なるもの>
★03 内田樹の「大人になるための本」
第46回 古田隆彦著『日本人はどこまで減るか』
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