※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年5月13日 Vol.081 <そろそろ初夏の風号>より
こないだの連休の後半、中学生になった娘にiPhoneを購入、契約した。子供には小さいほうが便利だろうと思って、予約開始日にauショップにiPhone SEを予約したのだが、1カ月経っても何の音沙汰もないので、しょうがなく量販店でiPhone 6sを購入することとなった。
これまで僕は、保護者向けのスマホ安全教室といった講演でiPhoneのフィルタリング動作などを解説したりしてきたので、一通りの設定は一般の保護者よりもわかっているつもりだ。だが実際に「契約」からスタートしてまっさらなiPhoneを設定していくと、手順がすげえんだなこれが。
今回は量販店のカウンターで四苦八苦した経験から学んだことを書いてみたい。
いきなりApple IDにハマる
量販店内のauカウンターは、幸いなことにそれほど混雑していなかったので、すんなり購入手続きの順番が回ってきた。だが対応してくれたお兄さんから、お子さん用の設定だとこれから1時間半ぐらいかかりますけど、お時間大丈夫ですか? と聞かれた。一旦契約したのち、回線開通までそれぐらい待たされるのかと聞いたら、ガチで設定にそれぐらいかかるんだそうである。
契約主体はもちろん保護者で、iPhone利用やフィルタリングに関連する設定もすべて保護者が行なう必要がある。どれぐらいの時間で終わるのか、親のスキルが試されるわけである。
カウンターで手渡されるauのガイドブックによれば、まず最初に行なうのは「キャリアメールの設定」だ。これはSafariを開いてauのサポートページに行き、メール用の構成プロファイルをインストールする。このステップで、同時にau関連サービス、たとえばうたパスとかビデオパスのアプリダウンロード用アイコン(AppStoreへのリンク)もインストールされる。が、なぜかこの設定はカウンターではパスされて、子供用のApple IDを作成するところからスタートした。
Apple IDの作り方も、店頭でもらえるガイドブックに図版入りで書いてある。メールアドレスが必要なのだが、最初のメール設定を飛ばしているので、子供用のメールアドレスがない。無料のiCloudメールアドレスを作る方に進むと、そこでハマった。年齢を入力する部分があるのだが、そこに子どもの生年月日を入れたところ、13歳未満はApple IDが作れないことが判明した。
どうすんだこれ、というわけでお兄さんと相談の結果、僕の名義でもうひとつApple IDを作成したのだが、後で調べたら別の方法があることがわかった。すでに保護者がApple IDを持っていれば、購入したコンテンツを家族でシェアするために、家族用のサブアカウントが作れるのである。これは13歳未満の子供にも作ることができる。
保護者のiPhoneで「設定」-「iCloud」を選ぶと、「家族」という項目がある。ここで「家族を追加」を選ぶと、子供用のApple IDを発行できる。支払いも一本化できるので、お子さんにiPhoneを買うときは、事前にここでアカウントを作っておくといいだろう。
膨大なアカウントとパスワード
次はフィルタリング設定だ。スマートフォンのフィルタリングは、ブラウザベースになっている。標準のSafariではフィルタリングがかからないので、これを起動できないように制限し、代わりに「安心アクセス」というauが提供するブラウザをインストールする。もちろんそれ以外のアプリ、たとえばFacebookやTwitterといったものも当然フィルタリングはかけられないので、これらはアプリのインストールを保護者が制限するか、Safariのように起動制限をかけるかで対応する。
ここから先、いろんなパスワードが山盛り発生することになるので、絶対にメモが必要だ。まずさっきApple IDを作ったので、そのメールアドレスとパスワードをメモ。
「安心アクセス」の設定では、管理者を登録するための仮パスワードを自分で決めるので、これもメモ。
管理者として自分を設定すると、次回ログイン用の正式なパスワードを決めるので、それもメモ。
続いてiPhone内の「機能制限」でアプリの起動制限をかけるので、そこへアクセスするためのパスワードが必要。これもメモ。
そしてiPhone本体のロックを解除するためのパスワードも設定し、これもメモ。
さらにauのサービスを管理するために、au IDが必要になる。これは電話番号がIDになるのだが、パスワードは別途設定するので、これもメモ。
仮パスワードはすぐに使って不要になるのだが、それでも6つのアカウントとパスワードの組み合わせを、間違いなく記録しておかなければならない。適当にやっていると、どれがどれだかわからなくなること間違い無しである。
起動制限が邪魔をする
「安心アクセス」の設定の過程で、iPhone本体にはアプリの起動を制限する「構成プロファイル」がインストールされる。iPhoneの設定でも起動制限がかけられるのだが、そこをうまく設定できない保護者のために、強制的にSafariの起動を制限するものだ。同様の構成プロファイルは、EMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)でも提供している。
だが、Safariが起動できないと、保護者が管理するのにけっこう困るということがわかった。契約時には割引を適用するために、様々なサービスに加入させられるが、不要なものはユーザーが自分で解約しなければならない。
これはWebサイトからも変更できるので、いちいち子供用のiPhoneを取り上げて設定する必要はない。ないのだが、最初にPCからau IDにログインする時は、所有者確認のためにMMSにリンクが送られてくる。これをタップして認証すると、PCからのログインが認証される。だが、フィルタリング付きブラウザの「安心アクセス」しか起動できなくなっていると、リンクをタップしてもどこへも行けない。URLをコピーしてペーストしても、「URLが不正」としてアクセスできない。
結局一時的にでも、Safariを起動しないわけにはいかないのだ。だがiPhoneの設定で機能制限をオフにしても、Safariの起動は構成プロファイルの方で止められているので、起動できない。結局auの構成プロファイルを削除して、マニュアルでSafariをON・OFFできるようにしないと、保護者がリモートで子供の契約サービスをメンテナンスすることができないのである。
これまでは単純に、「フィルタリングがかかった状態での運用」しか見ていなかったが、まったくのゼロからやってみると、色々なところでほころびがあることがわかった。スマホの設定に詳しくないお母様だったら、もう訳がわからないだろう。これでは「フィルタリングなしでいいです」と言い出しかねない。
フィルタリングが子供のネットライフの助けになるということに関しては、疑う余地はない。だがその設定方法といった技術的なところに保護者教育の軸を向けるのは間違いで、それよりも子供のネットリテラシー育成のためのノウハウ共有に注力した方が、効果が高い。
もし今後もフィルタリングという技術を活かすのであれば、保護者が設定の主体にならなければならないという仕組み自体を変えていかなければならないだろう。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2016年5月13日 Vol.081 <そろそろ初夏の風号> 目次
01 論壇【西田】
「仕事のためのスマートデバイス」を夢想する
02 余談【小寺】
実際やったら大変じゃん…子供スマホのフィルタリング
03 対談【小寺】
子供と「ネット生放送」の関係を整理する(1)
04 過去記事【西田】
イザというとき、家族の安否を確認するベストな方法
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
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