藤沢数希のメルマガ『週刊金融日記』第269号(2017年6月6日発行)より、冒頭部分をお届けします。
【第269号 目次紹介】
// 週刊金融日記
// 2017年6月6日 第269号
// 性犯罪冤罪リスクを定量的に考える
// 日経平均株価2万円割れ
// 成城石井の食材が楽しめるビストロ
// 高校中退低スペが描くべきキャリアプラン
// 他
こんにちは。藤沢数希です。
最近、AIやビッグデータを使って統計解析してうんたら、みたいなトピックが流行っていて、このメルマガでもそういうことはちょくちょく取り上げていこう、と思っています。
『週刊金融日記 第242号 サルでも分かる人工知能の歴史とこれからのビジネス』
『週刊金融日記 第268号 ビジネスに使えて使えない統計学 その2 因果関係を暴き出す』
『週刊金融日記 第267号 クラミジア・パズルとビジネスでの統計の使い方』
しかし、ぶっちゃけた話、そんなことが本質的に重要になるとはまったく考えられません。というのも、ほとんどすべての組織がそんなこと以前に単純なITを使った業務プロセスの効率化ができていないからです。ある程度の規模の組織は、例外なく政治的になっていきます。ITで効率化すると既得権を失う部署が出てきます。ときに社内の偉い人のメンツにかかわります。
先日、ネットを見ていたら、過去にたびたび対談した池田信夫さんが、加計学園の問題(実際には問題などなく、安倍政権が嫌いな人たちが火のないところに火をつけて騒いでいるだけですが)にからめて、そもそも獣医なんて免許制にしなくてもよくね?と言って、炎上しておりました。また、薬剤師も免許なんていらなくね?とさらに燃料を投下し、すごい勢いで燃え広がりました。
●獣医の免許って必要なの?
http://agora-web.jp/archives/2026391.html
世の中の無駄や非効率は、その裏で誰かの仕事になっているんですよね。全体の効率化のためにそれらを奪う、ということがいかに大変なことなのか……。
そう考えると、科学的で合理的な経営をできる日本企業なんてないんじゃないか、と思うわけですね。
ところで、進化生物学のよくある誤解は、生物は種全体の繁栄のために行動している、というものです。これは基本的に間違った考え方で、生物の個体は自分の遺伝子の拡散しか考えず(正確に言うと考えているわけではなく、あたかもそのように行動する)、その結果、できあがった種全体は、たまたま生き残ったり、滅びたりするだけです。これはすこし考えれば簡単なことで、自分を犠牲にして種全体の利益を優先する個体がいたとしたら、そのような個体はすぐに滅びていなくなるので、その種の中でそのような全体を考える遺伝子が増えていくことはないのです。
それと同じで、人間の能力などマクロで見れば大して変わらず、国の盛衰なんて、たまたま全体として効率的な仕組みを持っているかどうかでぜんぶ決まってしまうのだなあ、と思うわけです。経済成長率の1%の違いは100年で所得に3倍近く差がつくことを意味します。途上国が先進国に、逆に先進国が途上国になるのは1%の効率性の違いで十分なわけですね。
そういうわけで、日本は衰退のターンでありまして、どうしようもないのかな、と。だから、AIやビッグデータを使って効率的な経営をする、などということが行われることはない、と僕は確信しております。もちろん、そういう部署ができて、表面をなぞるぐらいのことはやるでしょうし、コンサルタントも儲かるでしょうが、そうしたことが本質的に経営の意思決定に使われるようなことはないだろうな、と。
そして、世界でもそんなことができているのは、AmazonやGoogleなど、ほんの一握りの企業だけです。働いている人の人数にしたらほんのわずかな人たちの話です。
しかし、ここで面白いのは、資本主義は1人1票ではなく、持ち金でウエイトがつきます。いまや世界最大の広告会社のGoogleの時価総額は約80兆円です。Amazonの時価総額は50兆円です。対して、日本の広告会社最大手の電通の時価総額は1.6兆円。日本のすべての小売を足してもAmazon1社に勝てません。
AmazonやGoogleは、トップにスーパー経営者がいて、あとは天才的なプログラマが雇われ、そいつらが作ったプログラムが経営しています。Appleなんて、トップに少数のデザイナーやプログラマ、エンジニアたちがいて、あとは大量のふつうのお兄さんたちが世界中のAppleストアで雇われているわけです。そして、時価総額を見れば、どっちが効率的で正しい経営なのか、もうすでに完全に勝負がついています。日本が変わるとしたら、こうした一握りの企業に完全に市場を奪われたときですね。
早くそんな日が来ないか、ととても待ち遠しいです。
そして、恋愛工学もほんの一握りの集団が、テクノロジーの力で、恋愛市場の上澄み部分を独占していくためのプロジェクトです。
さて、今週も興味深い投稿がいくつもありました。見どころは以下のとおりです。
―不倫専用出会い系サイトを使って49歳人妻とゴールできました
―ピンサロで出会った18歳のAクラス女子大生とお店でセックスしてセフレになりました
―100人単位でテストしましたがセックストリガー効果がありません
―高校中退低スペが描くべきキャリアプラン
それでは今週もよろしくお願いします!
1.性犯罪冤罪リスクを統計的に考える
最近、社会から注目される性犯罪がらみの報道が多かったです。やはりこうした気が滅入る話題も、我々は真正面から議論し、危機管理の方法を身につけていくべきでしょう。
まずは、第266号の冒頭でもすこし議論しましたが、電車内の痴漢事件に関してです。ネットメディアなどを中心に、痴漢と疑われて警察に引き渡されると「やりました」と自白するまで勾留され、失業してしまうなど大変な社会的制裁を受ける、と解説されていました。そして、そうした事態を避けるには、とにかく逃げるしかない、と。こうした長期の勾留などは改善されているようですが、やはりネットメディアに書かれていたことも一面の真実ではあるわけです。
そこで痴漢と疑われた男性は、線路に飛び降り死に物狂いで逃げようとして、次々と死亡事故が起こりました。
●痴漢疑われた男性 はねられ死亡 逃げようとしたか
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170515/k10010982951000.html
●痴漢疑われた男性逃走 ビルから転落し死亡
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170512/k10010978981000.html
確かに大変痛ましいですし、いざ自分が疑われたらどうしよう、という恐怖があります。このメルマガの読者のような善良な市民が、窃盗や傷害などの犯罪の容疑者になるということはまずありえません。しかし、性犯罪だけは別なのです。性犯罪は相手の女性の証言だけで犯人にされてしまうリスクがあるからです。ネット民たちを見ていても、痴漢冤罪には過剰に反応しているようです。テレビで見る犯罪者たちは自分とは関係ない人だから、疑わしきも罰して吊せ、と心のなかで威勢よく野次を飛ばしているのですが、痴漢冤罪は自分にも降りかかるかもしれないので恐怖を感じるのです。
こうした司法のあり方や人々の犯罪者に向ける感情など興味深いことはいくらでもありますが、今回はただ統計に注目しましょう。そして、どの程度のリスクか見積もりましょう。
警視庁生活安全局が発表している統計では、痴漢や盗撮などの卑猥な行為を禁止する迷惑防止条例違反で検挙(=捜査機関が事件の被疑者を明らかにして刑事事件として捜査すること)される人数は、のべで年間概ね3000~4000人程度です。これは電車以外の数字も含んでいます。電車や駅の中かそれ以外の場所かの内訳は東京都に関するものはわかっており、何とこうした事件の8割以上が車内・駅で起きているようです。女性にとって電車は危険な場所であることは確かなようですね。
●平成27年版 犯罪白書
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_6_2_1_1.html
●独自調査、痴漢検挙の82%が鉄道内だった!
http://toyokeizai.net/articles/-/148460
(続きは藤沢数希のメールマガジン『週刊金融日記』第269号にてお読みください)
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