「馬の鼻先にニンジンをぶら下げて走らせる」ことができるのは、馬がお腹を空かせている間だけだ。ニンジンを食べて満足した馬は、走るのをやめてしまうだろう。
『驚く力 矛盾に満ちた世界を生き抜くための心の技法』(名越康文 著)より
「そんなに勉強してどうすんの?」というたった一言によって、もろくも崩れ去ってしまうような情熱と、何があっても継続できる情熱との間には、どういう違いがあるのでしょう?
私は、そういう些細なきっかけで情熱がなえてしまうのは、あまりにも学びの目的がはっきりしすぎているからではないかと考えています。
「え? 目的がはっきりしているのはいいことじゃないの?」
と思われるかもしれませんね。
確かに「いい大学に入る」とか「これを学ぶことで年収をアップさせる」といった具体的な目的を持ち、努力を重ねることは、普通「良いこと」と考えられています。実際、私たちが受験勉強やスポーツ、その他の習いごとに取り組むときには、はっきりとした目的を持ったほうが良い結果をもたらすことは多いでしょう。
特に、受験勉強など「短期間の勝負」では、目的はできるだけはっきりしていたほうがいい。スポーツや芸事などでも、「次の試合に勝つ」「今度の発表会でいい演奏をする」といった目標を設定し、そこに向けて一致団結したほうがきっと頑張れるし、結果を残すこともできるでしょう。
ただ、そういう「はっきりとした目的意識」には、大きな弱点があります。
まず、「短期間の勝負」に向いているということは、裏を返せば「中長期的な勝負」には向いていないということです。
例えば「来月」や「来年の三月まで」ぐらいの期間なら、ある程度具体的な目標を定められるし、そこに向けて努力することもできるでしょう。しかし「三年後」「一〇年後」となると、目的や目標はどうしても抽象的なものにならざるを得ず、動機づけとしては弱くなってしまうでしょう。
また「そんなに勉強してどうすんの?」という言葉で一気に意欲がなえてしまうのは、自分自身が心の底から、その「目的」の価値を信じることができていないからでもあります。
そもそも目的意識による動機づけは、目的が達成されるとモチベーションが落ちてしまうという宿命を抱えています。
「馬の鼻先にニンジンをぶら下げて走らせる」という比喩がありますが、その方法が有効なのは、馬がニンジンを食べていない間だけです。「ニンジンを食べたい」という目的意識で走っている馬は、ニンジンを食べて満足したら、当然、走るのをやめてしまうでしょう。
クラブ活動などに一生懸命取り組んできた高校生が、三年生の引退試合が終わった瞬間、ぷっつりとその競技から離れてしまうことがあります。これは「はっきりした目的意識」というものが抱える、宿命的な弱点を端的に表しています。
期間が限定されていることと、目的を達成した「その後」のモチベーション維持が難しいということだけでも、目的意識だけでは一生涯にわたって学びを継続するような強い動機づけは得られない、ということがわかります。
逆に言えば、一生涯にわたって物事に対する熱意を持ち続ける人は、こうした具体的な目的意識とは異なる「動機」を持っていることになります。
ではそれはいったい、どういう「動機」なのでしょう?
※続きは本書をご覧ください。
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