突然ですが、社員をもっと大切にしてみてくださいーー持続可能な経営戦略

ビジネスに「自己犠牲」はいらない! ーー私たちが「社員満足度経営」にたどり着いた理由

親が自分を犠牲にして、子どもの命を守る。自己犠牲の物語は、テレビドラマや小説の世界であれば美しい。しかし、ビジネスの世界では、自己犠牲の精神は、必ずしも成果をもたらさない。

新刊『突然ですが、社員をもっと大切にしてみてください 持続可能な経営戦略』が話題のベンチャーバンクの創業者・代表取締役会長の鷲見貴彦氏はそう語る。

暗闇バイクエクササイズ「FEELCYCLE」や、ホットヨガスタジオ「LAVA」などの事業で、グループ総売上369億円(2017年3月期。2018年3月期予想は487億円)を叩き出す、ベンチャーバンクグループの経営の秘密を聞く。


ビジネスに自己犠牲は必要か?(イラスト:伊藤美樹)

 

子どもよりも先に、親の命を確保する理由

 

飛行機に乗ると、出発前に必ず、安全についての機内アナウンスが流れます。

荷物のしまい方、携帯電話などの使用に関する注意、シートベルトの着用方法などと並んで、必ず行われるのが、酸素マスクの着用方法についての案内です。

おそらく、酸素マスクを使用しなければいけないような、大変な事故を実際に体験された人は、ほとんどいないでしょう。だから、このアナウンスも、なんとなく聞き流している人が多いのではないかと思います。

しかし実は、このアナウンスの中には、ビジネスに携わる人間として聞き逃してはならない、非常に大切な教訓を含んだ言葉があります。

それは、「まず自分のマスクを着用し、それから、お子様の補助をしてください」という指示です。

改めて文字にしてみると、「あれ?」という違和感を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。大人と子どもであれば、子どものほうが身体は弱いはずだ。だとすれば、酸素マスクは子どもが先につけるべきではないのか、と。

 

問題はまさに、その「順序」にあります。心情的には、子どもが先に酸素マスクをつけたほうが良い気がする。しかし、機内アナウンスの指示は、「大人が先」なのです。

一見、間違っているように見えるこの順序には、聞けば誰もが「なるほど」と納得できる、合理的な理由があります。

子どもよりも大人のほうが、先に酸素マスクをつけたほうがいい。その理由は、判断力と体力のある親が先に倒れてしまったら、子どもを守る人がいなくなってしまうからです。

この説明を聞いて、私は心を打たれました。

ここには、何十年にもわたってビジネスの世界の中で生きてくる中で積み上げてきた私の考えと、響きあうものがあると感じたのです。

 

売上よりも先に大切にすべきことがある

飛行機の酸素マスクをつける順序を、大人のほうを先にするのは、大人の命を確保しなければ、子どもの命を救うことができないからです。

私どもベンチャーバンクの経営理念である「社員満足度経営」も、考え方としては、まったく同じです。

ビジネスマンである私たちは、つい売上や利益、あるいは顧客満足度を上げることを最優先にしてしまいがちです。しかし、それらよりも優先すべきことがあります。それは「社員」です。

継続的に顧客のニーズを満たすためには、そのサービスに携わる人が、満たされた気持ちで働いていることが欠かせません。身を粉にするような自己犠牲的な働き方をして顧客のニーズを満たすことができたとしても、長期的な視点から見たときには、それは本末転倒なのです。

まずは働く人が幸せに、やりがいを持って働けるようにすること。そこが達成されなければ、お客様に満足していただくことはできないし、売上や利益を持続的に伸ばしていくことはできません。

日本人は、自己犠牲の物語が好きです。親が自分を犠牲にして、子どもの命を守るといったストーリーのドラマや小説は世の中に溢れています。しかし、少なくともビジネスの世界においては、自己犠牲は必ずしも成果をもたらしません。

しかしながら、私たちはしばしば、「お客様に満足してもらおう」とするあまり、自分の幸せを犠牲にするような働き方をしてしまうことがあります。

これはおそらく、日本人独特のメンタリティにも関係したことでもあるでしょう。

このことは経営者も同じです。「お客様に満足してもらおう」「社員が働きやすい環境を作ろう」と努力するのは素晴らしいことですが、もしもその努力が、経営者自身の心身を擦り切らせるようなものであれば、それは決して、持続的な経営にはならないでしょう。

「自分が幸せにならない限り、他人を幸せにすることはできない」

ここには、すべての働く人が、大切にすべき原則があると私は考えています。

「自分が幸せにならない限り、他人を幸せにすることはできない」
(ホットヨガスタジオ「LAVA」)

 

顧客満足度経営は「持続性」に欠ける

「社員満足度を、何よりも最優先する」

こう申し上げると、「え? お客様よりも、自分たちのことを優先するの?」
という違和感を覚える方も、いらっしゃると思います。

言うまでもなく、顧客満足度は大切です。顧客の支持が得られないビジネスには、存在意義はありません。

しかし、顧客満足度「だけ」を優先させようとする、いわば「顧客満足度経営」は、持続的な成長に欠ける、というのが私の考えです。なぜなら、顧客満足度「だけ」を重視する経営は、しばしば、そのビジネスに携わる人、すなわち社員の働く環境を悪化させてしまうからです。

最近(2017年2月)、宅配便大手のヤマト運輸が、宅配サービスを抜本的に見直し、正午から午後2時の時間帯指定の配達をやめるという報道がありました。

インターネット通販の普及によって宅配個数が増加し、人手不足で長時間労働が慢性化していることが背景にある、ということですが、このニュースは、顧客満足度と社員満足度の優先順位を考えるうえで、非常に興味深い話題であると言えるでしょう。

少なくとも、「一分一秒でも早く、時間通りに配達する」という顧客満足度を最優先させる戦略は、どこかの段階で必ず、社員たちが働く環境や満足度を、犠牲にせざるを得ない、ということなのだと思います。

確かに、お客様は「より安く、便利なサービス」を求めます。そして企業側も、それに応えるべく、企業努力でコストを下げていこうとします。

しかし、限界を超えてコストを下げたり、サービスを上げようとすれば、長時間にわたるハードな労働や、賃金の抑制といった形で「社員満足度」を低下させてしまう可能性が高まるでしょう。

コストを下げ、働く人を厳しい境遇に追い込めば、いつかはそこで働く人がいなくなります。働く人がいなくなれば、顧客満足度を上げる以前にそのビジネスを継続することすら、難しくなってしまうでしょう。

 

社員満足度経営と顧客満足度経営の違い

 

顧客満足の前に、社員満足が必要だ

社員満足度を上げれば、顧客満足度を上げ、売上や利益を上げ続けることができます。
しかしながら、その逆は必ずしも成り立ちません。

社員満足度経営というのは、自分たちの会社で働く人全員が、自分の仕事に対して充実感を覚え、幸せになるということを、他のあらゆる指標よりも優先する経営戦略のことです。

売上や利益、成長率、顧客満足度といった他のあらゆる経営指標よりも、社員が幸せに働くことを「最優先」にする。

いうまでもないことですが、これは「売上や利益なんてどうでもいい」というものではありません。売上や利益は大切ですし、顧客満足度が低ければ、その事業はすぐに廃れてしまうでしょう。問題は、優先順位です。

社員満足度、すなわち、働く人の充実感や幸せを、まず第一に優先する。そうすることによって初めて、顧客満足度を高めたり、売上を伸ばしたりすることができる。

それが、私の考える「社員満足度経営」なのです。

 

 

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鷲見貴彦(すみ・たかひこ)

株式会社ベンチャーバンク代表取締役会長。株式会社LAVA International代表取締役社長。1959年生まれ。岐阜大学教育学部卒業後、名古屋の出版社に入社し、コンピューター部門に配属。

1989年株式会社船井総合研究所に転職し、経営コンサルタントとして数々の実績を残す。1994年に株式会社船井総合研究所を退社後、さまざまな事業を立ち上げた後、2005年4月、株式会社ベンチャーバンクを設立。ホットヨガスタジオLAVA、暗闇バイクエクササイズ「FEELCYCLE」、マンガ喫茶「ゲラゲラ」など、数々の事業を成功させる。

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