津田大介
@tsuda

津田大介の『メディアの現場』vol37より

中部横断自動車道をめぐる国交省の不可解な動き

国交省が高速道路会社NEXCOと組んで段階的に整備を進めている「中部横断自動車道」。現在、長坂〜八千穂間でその建設が検討されており、それに向けて住民アンケートが行われています。本来であれば、政策に民意を反映するために行われるはずの住民アンケート。しかし、国交省がその配布や集計をめぐって何らかの操作を行っていたのではないかとの疑惑が浮上しています。今回は、中部横断自動車道(長坂〜八千穂間)の建設に反対する「中部横断自動車道八ヶ岳南麓の会」[*1] の代表・米田佳孝さんをお招きし、お話を伺っていきます。

 

住民アンケートから見えてきた日本の政策決定プロセスの実態とは

津田:「全国総合開発計画」をご存じでしょうか。1962年から1998年までの間、国土の有効利用や社会環境の整備を行うため、国は5回にわたって長期計画を作成しました。その4回目、1987年に発表された「四全総(よんぜんそう)」――「第四次全国総合開発計画」。[*2] この中に「交通体系の整備」という項目があります。当時、バブル景気の始まりつつあった日本において、交通の利便性向上は大きなテーマでした。そこで国土庁は「全国1日交通圏」という構想を打ち出します。「全国の主要都市間の移動に要する時間をおおむね3時間以内、地方都市から複数の高速交通機関へのアクセス時間をおおむね1時間以内にすることを目指す」[*3] ――これを実現するため、全国に1万4000キロにも及ぶ高規格幹線道路網を張り巡らせる計画が立てられました。おそらく25年前の日本にとってこの計画は、大きな意味のあるものだったでしょう。けれどバブルが弾けて久しい2010年代現在と当時では、時代背景が大きく異なります。1980年代の構想に基いて、2010年代の現在、住民の意見をある意味無視するかたちで国交省が高速道路を造成しようとしているとしたら、果たしてどうでしょうか。本日は、四全総で計画された中部横断自動車道(長坂〜八千穂間)の建設に反対する「中部横断自動車道八ヶ岳南麓の会」の代表・米田佳孝さんに、この問題を追う過程で明らかになった政策決定プロセスの不全についてお話を伺っていきます。米田さん、よろしくお願いします。

米田:よろしくお願いします。

津田:まずは、今問題になっているこの道路について、簡単に教えていただけますか?

米田:群馬県藤岡市と新潟県上越市をつなぐ「上信越自動車道」がありますよね。そして、神奈川県海老名市から愛知県豊田市へと至る「新東名高速道路」。この両者を長野県小諸市と静岡県静岡市清水区で結ぶ道路として計画されているのが「中部横断自動車道」です。道路の総距離は約132キロメートル。一部の区間――佐久南〜佐久小諸間、増穂〜双葉間では、すでに開通しています。増穂〜双葉間では2002年3月30日から2006年の12月16日にかけて、3段階で開通が進められたようです。[*4] 佐久南〜佐久小諸間が開通したのはつい最近の2011年3月26日ですね。[*5]

津田:さらに現在、新清水〜増穂間、八千穂〜佐久南間でも整備が進められつつあると。こうした段階的なやり方を見ていると、「とにかく中部横断自動車道を作るんだ」という国交省の強い意志を感じますね。

米田:今、私たち「中部横断自動車道八ヶ岳南麓の会」が反対しているのは、国交省が山梨県から長野県にかけて建設を検討している「長坂〜八千穂」区間の山梨県側の部分です。この基本計画そのものは1997年、国交省がすでに公示していました。けれど、これまで特に動きはなかったんですね。しかし2011年の2月、突然住民にアンケートが配られたんですよ。「中部横断自動車道(長坂〜八千穂)の『今後の整備方針』について、皆様のご意見をお聞かせください。」という。[*6]

津田:アンケートが配られた……そもそも地元の人は、この道路計画を知っていたのでしょうか?

米田:いいえ、今回初めて知ったという人が大半です。私もアンケート用紙を見て「なんだこれは」とびっくりしましたね。私は今、山梨県北杜市にある八ヶ岳の南麓に住んでいるんです。若いころからずっと住みたいと思い続けていて、60歳になってから、「ここを永住の地にしよう」と決めました。家を買ったのは3年ほど前ですが、この時はもちろんそんな計画があるなんてまったく知りませんでした。

津田:中部横断自動車道でも、長坂〜八千穂間については、これまでずっと手付かずで来たわけですよね。それがなぜ2011年2月になって、事態が動き出したのでしょう?

米田:このアンケートが行われたきっかけは何か――私も気になって調べてみたんです。国交省はこれまで、昔立てられた道路計画をもとに、がむしゃらに建設を進めてきました。けれど2010年4月、国交省の副大臣を当時務めていた馬淵澄夫さんが、これに「待った」をかけたんです。[*7] まずは道路の計画段階でデータを集め、地域の声を聞いて、本当に建設する必要があるか評価しよう――馬淵さんが導入したこの制度は、「計画段階評価」[*8] と呼ばれます。2011年2月のアンケートは、その一環として行われたわけですね。

津田:今までは国交省内部で道路を作ることを決めてしまってから、「高速道路通しますから」と、地元住民に話をしていた。そのプロセスが変わったんですね。

米田:はい。私も調べるうちに、「国交省はちゃんと地元の意見を聞いて評価しようと考えているんだな」と思うようになりました。

津田:でも、八ヶ岳って自然がとても美しいところじゃないですか。だから、長坂〜八千穂間で高速道路を開通させるなんて、あまり賛成する人が多いようには思えないのですが。採算性も見込めそうにないし。

米田:そうなんです。正確に言うと、地元の住民にも三層あります。この土地に先祖代々住んでいるような人たちは、「長いものには巻かれろ」というタイプが多く、あまり意見を表明しません。別荘族も冬の間はほとんどいないから、意見を表明する機会がないわけです。地元に家を買って住んでいる新住民――ここに移り住んで20年経っても「新住民」というカテゴリーなのですが、この人たちは本音を話してくれます。話をしてみると、もうみんな反対。そんな感じですね。

津田:この第1回アンケートでは4つの設問が立っています。そのうち最後の

【質問4】は「その他中部横断自動車道について期待すること懸念すること」という自由記述式の設問です。きっとここには「道路建設には反対します」と書いた人が多かったのでしょうね。結果はどうでしたか?

米田:この問題を審議している社会資本整備審議会 道路分科会 関東地方小委員会 [*9] が2011年7月7日に開かれたんですね。そこで配布された「第1回意見聴取の結果について」[*10] という資料によると、「その他中部横断自動車道について期待すること懸念すること」いう設問の結果はエリアによって違っています。そのうち「道路整備への懸念に関する意見」を表明した人は、私が住んでいる山梨県北杜市で圧倒的に多く、全体の64%を占めていました。これに対し、「道路整備への期待に関する意見」では、長野県側の南佐久郡、佐久市、小諸市が65%を占めています。[*11] つまり、真逆の結果が出ているんです。

津田:長野県側で開通賛成派が多いのは、いったいなぜなのでしょう?

米田:長野県側でも南佐久郡、佐久市、小諸市は、すでに中部横断自動車道が開通しているエリアなんです。となると当然、開通賛成派が主流になりますよね。そんなエリアにもアンケートを配布したことそのものが問題なんですけど――。

津田:気になることがもう一つあります。この第1回目のアンケートでは、中部横断自動車道を建設するという前提で2つの案が挙げられていました。

「【(1)案】全区間で新たに道路を整備する案」と「【(2)案】旧清里有料道路を一部区間で有効利用する案」がそれです。【質問3】ではこれを踏まえ、「提示した対策案の他に考えられる対策案」を自由記述式で訊いています。この質問の結果、どんな対策案が出てきました?

米田:はい、第3の案が浮上してきたんですね。それは、「国道141号線のバイパス整備により、走行性・安全性を向上し時間短縮を図る」というものです。[*12] 国道141号線とは、長野県の野辺山と中央自動車道を結ぶ道路です。地元の人はみんな、この国道141号線を使っているんですね。それで、ここを整備して使いやすくしてほしいという声が多かったわけです。[*13] その後、2011年10月5日に開かれた委員会では、とてもまともな審議が行われました。従来の2つの高速道路建設案に加え、第3案として国道141号線の改良案、そして第4案として「整備なし」いう4つの案が設定されました。そして、第2回目のアンケートをして、地元の人の意見を訊きましょうということになったんですよ。

津田:少なくともこの時点までは、地元住民の意見を聞いて道路の必要性を検討するという計画段階評価――民主党が政権を取ったことで実現した「行政への政治によるガバナンス」がきちっと機能していたということですね。

米田:はい。そうして2012年1月から2月にかけて、第2回目のアンケートが行われました。[*14] しかし、ここにきて、いろんな問題が起こっているんです。

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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