やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

海賊版サイト「漫画村」はアドテク全盛時代の仇花か――漫画村本体および関連会社の全取引リストを見る



 というわけで、政府方針として出てきておりますブロッキング問題については、いくつかの構造に分かれておりまして、一番上層部はもちろん「政府が立法を待たず国会の議論をせずにISPにブロッキングを要請することは憲法違反であり、ブロッキングを要請され実施するISPに法的リスクをすべて負わせる仕組みになってしまうのではないか?」という部分です。

 私は明確に政府のブロッキングについては反対の立場です。

 効果が乏しいだけでなく、対策としてやるべきことが他にたくさんありますし、ブロッキングを行うにいたった経緯が明らかに説明不十分です。

 しかしながら、そのようなブロッキングをしてでも対策を取らなければならないと主張する側の事情を見ると、まったく荒唐無稽の議論だったというわけでもなさそうです。経緯に関する解説と説明はメルマガ次号に回します(人によって言うことが違うので整理するのに時間がかかりそうな気がします)。この問題の下部構造は「どうして漫画村のような違法なサイトが蔓延し、それに対して有効な手を権利者が打てないのか」であって、さらには「日本社会にとってコンテンツ・漫画の価値を消費者があまり高いものと認めず、消費する対象としてしまっているのではないか」という懸念もまた横たわることになります。

 で、別に漫画村に限ったことなのではないのですが、海賊版とその周辺についてはさる業界団体での調査で、昨年2017年7月から9月にかけて実施している組織や技術的なバックグラウンド、また関係している広告代理店やメディアレップ、そこにテクノロジーを提供している企業各社についておおよそ把握しておりました。要するに、みんな「問題が起きる」と分かったうえで調査し対策を練ろうとしていたが、それよりも早く漫画需要の伸び悩みに直面して、対策に苦慮しているうちに小学館、集英社、角川グループ、講談社など各社が官邸知財本部に対してブロッキングの実施にかかわるロビー活動を行い、これが会合参加者のカドカワ代表取締役の川上量生さんから自民党側座長の甘利明さんに刺さり、そのままブロッキングによる著作権法違反状態の蔓延の対処を実施するという流れになったのではないかとみています。

 さて、本稿では「なんで漫画村が成立していたの」という解説をしたいのですが、サイト規模としてどれだけのものであったかと言えば、実のところ漫画村単体では17年11月の正味のユニークユーザー数は440万人、12月が475万人あまりで、一週間に4時間以上利用するヘビーユーザーとみられる数は55万人から60万人のあいだではないかと予想されます。この数字は、漫画村本体のカウンターと、配信された広告の件数の合計からの逆算で想定していますが、これを「こんなに多くの読み手が海賊版を利用していたのか」と見るか、「憲法違反のリスクをISPに押し付けてまで政府が手を出すような規模の話なのか」と感じるかは、関係する業界の立場によって異なるかもしれません。年代の中央値は区分別にみれば21歳から22歳のあいだでずっと安定しており、一番多い利用者(最頻値)は15歳から16歳のあいだです。ここの漫画需要を傾斜方式で合算すると概ね産業に対する被害規模は、この年代の漫画その他遊興費で使途するARPUは月間450円前後なので、額面でみると全額が漫画の単行本や電子書籍に充当されたとしておよそ月間2億5,000万円前後、年間30億円が「漫画村」や関連サイトによる直接の被害額ということになります。

 しかしながら、漫画文化全体で見た場合、これらの海賊版の横行が「漫画は無料で読めるもの」という間違った消費文化を醸成し、可処分所得の上がる30代、40代になってなお漫画にカネを払うことに抵抗感のある消費行動を導く可能性が少なくないこともあり、産業全体の将来を長期的に観たときこれらの海賊版サイトは極めて大きな問題であると考えます。それは、いまの直接の被害額の多寡ではなく、かつて音楽やゲーム、映画などがファイル共有の対象となった問題も含めて考えたときに、その懸念がコンテンツ業界のみならず社会全体の問題としてとらえ直すべきだというのは考えて然るべきでしょう。

 それだけの被害を業界にもたらした「漫画村」や関連サイトについては、「miomio」や「anitube」など政府が指定した特定の海賊版サイトだけが問題視される傾向が強いわけですが、実際には運営母体は複数のアダルトサイトや海賊版サイトを運営しており、運営者は………


(この続きは、やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」で)

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.222 山本一郎という一人メディア、漫画村関係者の実名リスト、経産省キャッシュレス・ビジョン、それぞれについてを語る回
2018年4月18日発行号 目次
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【0. 序文】個人の情報発信で考えていること
【1. インシデント1】海賊版サイト「漫画村」はアドテク全盛時代の仇花か――漫画村本体および関連会社の全取引リストを見る
【2. インシデント2】経産省が唱えるキャッシュレス・ビジョンに感じるもの
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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