※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.032(2018年11月9日)からの抜粋です。
こんなに多くの依頼が集中したのはいつ以来だろうか。世の中でアップルの株価は下がっているようだが、テックライターとしての僕のところには、引きも切らさずアップル製品の記事依頼ばかりがやってきている。発表会はもちろんだが、ニューヨークから帰ってきた後に書いたレビューは全部で6本。3日ほどの間にすべてを書かねばならず、しかも通常の原稿も1本あったため、大変なことになってしまった。しかし、これはパソコン業界にとって、危機的状況と言えるのではないだろうか。
例えば、アップル製品の発表から発売に至るタイミングでは、(レノボグループとなって初めて)富士通から気合の入った超軽量パソコンが発売された。確かにその作り方、商品企画のアプローチは昔ながらのもので、アップルのように未来に向けて市場を牽引するエンジン役ではないかもしれない。
しかし、そうはいっても、700グラムを切る13インチモバイルノート。もっと話題になってもいいようなものだが、PC Userでのアクセスランキングトップ3は、上からiPad Pro、Mac mini、MacBook Airのレビューという結果だった。
Engadgetに上げたブログでも書いたのだが、現在、パソコンが立て続けに壊れ、これからどうしようかと悩んでいるところ。もちろん、国産のパソコンを含め、Windowsを搭載したパソコンも並行して検討はしているのだが、やはり自分の気持ちの中にアップル以外の製品が上位に入ってこない。
多くの依頼が集中した背景には、当然ながら世の中の人たちの注目がアップルの製品に集中しているからに他ならない。ネットのメディアは、どのような話題に読者が向いているのか、残酷なほどハッキリと見通せる数字を元に掲載する記事を選んでいる。
つまり、コストをかけて外部に仕事を依頼するということは、そこに読者側の興味が集中しているということなのだと思う。これを危機的状況と言わずしてなんと言おうか。
グーグルやアマゾンは消費者向けの製品を開発する会社ではあるが、収益はハードウェアで上げているわけではない。自分たちの手元で動く製品の質で勝負する会社の中に、アップルと肩を並べるようなライバルが出てこなければ、この業界はバランスを失っていくだろう。もちろん、企業や開発者などに向けた業務用の製品だけならば、現状でも問題ないのだが……と、少し、少しネガティブに考えすぎだろうか?
難しい話はともかくとして、さすがに注目が集まる製品だけあって、登場したものはいずれも素晴らしいものばかりだった。それはまさに“パーソナルなコンピューター”として、極めて真っ当な考え方のもとに設計されていたからだ。まだ不完全な部分はたくさんあるものの、アップルが目指しているパーソナルコンピューターの方向性が見えてきたように思えた。
いつものルーティンで、アップルの発表は今年はもう終わりだろうと思っていたら、まだニューヨークが残っていた。もともと、Macの新製品があることは噂に上っていたが、近年、アップルにとってMacは主力事業ではなくなっていたこともあったため、今年はもう終わりと高を括っていたことは否定しない。
しかし、いずれにしろ3泊という限られた日程でニューヨークに飛び、アップルの発表会へと臨んだ。いわゆる、ステレオタイプな“パソコン”を生み出したアップルだが、彼らが作ったiPhoneは“パソコン”を駆逐した。業務用、あるいは仕事や学習の“道具”として重要な位置にあることは変わりないが、もはやパソコンはコンシューマーが積極的に買い求める製品ではない。
パーソナルコンピューターは、本当の意味でパーソナルな製品になりかけたが、寸でのところで話題から急に消え去った。やや言い過ぎかもしれないが、極端な言い方をすれば、そういった世の中の流れ、空気感、風のようなものを感じていた。そう感じ始めていたのは、iPhoneを生み出して世の中を変えてしまったアップルでさえ、パーソナルコンピューターというジャンルで苦戦を強いられていたからだ。
ニューヨークで発表されたのは小型デスクトップコンピューターのMac mini、モバイルコンピューターのMacBook Air、タブレット型端末のiPad Proという3製品だったが、MacとiPadはいずれもアップルの業績発表時に売り上げが落ちていたジャンルである。
アップルは一貫してパーソナルコンピューターの会社であり続けているが、その事業の内訳はどんどんiPhoneへと傾いてきた。アップルでさえ、個人向けのコンピューター市場をこれ以上変えて行くことはできないのかな? と、パソコン市場から物書きの世界に入っていった僕としては、少し気分が落ちる思いだった。
(この続きは、本田雅一メールマガジン 「本田雅一の IT・ネット直球リポート」で)
本田雅一メールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」
2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。
ご購読はこちら。
その他の記事
見た目はあたらしいがアイデアは古いままの巨大開発の行く末(高城剛) | |
言われてみれば、いろいろとお騒がせしております(やまもといちろう) | |
違憲PTAは変えられるか(小寺信良) | |
信仰者の譲れない部分(甲野善紀) | |
Qualcommブースで聴いたちょこっといい話(小寺信良) | |
夏の終わりに不老不死の可能性を考える(高城剛) | |
孤独と自由との間で、私たちは生きている(西條剛央) | |
池上彰とは何者なのか 「自分の意見を言わないジャーナリズム」というありかた(津田大介) | |
3.11、iPS誤報問題で変わる、科学とのかかわり方(津田大介) | |
もし朝日新聞社が年俸制で記者がばんばん転職する会社だったら(城繁幸) | |
公職選挙法違反――選挙期間中にやってはいけない行為とは(津田大介) | |
「甘い誘惑」が多い街、東京(高城剛) | |
【疲弊】2021年衆議院選挙の総括【疲弊】(やまもといちろう) | |
岸田文雄政権の解散風問題と見極め(やまもといちろう) | |
再びサイケデリックでスイングしはじめるロンドン(高城剛) |