高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

いまの銀座に「粋」な場所を求めて彷徨う

高城未来研究所【Future Report】Vol.544(2021年11月19日発行)より

今週も、東京にいます。

新型コロナウィルス感染拡大が一息ついたいまのうちに、久しぶりに開催された展示会(InterBEE)や身体メンテナンスに出かけておりまして、滞在している銀座周辺の人出もかなり戻ってきた様子が伺えます。

銀座をぶらぶら歩き回る「銀ぶら」という言葉が出てきたのは大正初期頃ですが、ショッピングなど特別な用事がなくても銀座を歩くことが当時は持て囃され、1970年代初頭に歩行者天国が日本ではじめて銀座で実施されるようになると、「銀ぶら」は社会現象のようになります。

幼少期の僕は、まるで都心に突如現れる公園のような銀座の歩行者天国が大好きで、毎週のように通っていた思い出がありまして、往来の真ん中にテーブルが設置され、日本初のマクドナルド銀座店がハンバーガーやジュースを毎週無料で提供。
この時以来、すっかりジャンクフードに餌付けされ、脱するまで30年以上を要するとは、当時は露ほども知らずでした。
のちに聞いた逸話によれば、この日本マクドナルド1号店は工事開始からたった39時間でオープンにこぎ着けたそうで、高度経済成長期の日本のスピード感がよくわかります(当然、持ち帰って上司に確認など行っていません)。 

当初、米国マクドナルド本社からアメリカと同様な郊外型の店舗で展開するよう指示があったそうですが、1号店として銀座にこだわった日本マクドナルドの代表藤田田が「銀座が流行の情報発信基地だ。銀座で話題になれば商売も必ず成功する」と米国を説得し、半ば強引に開店。
この創業地が、のちの日本マクドナルドのブランディングに大いに寄与します。

銀座はもともと江戸前島という、東京湾に大きく突き出した半島の先端部の低湿地帯で、日比谷入江、築地方面を埋め立てることでできたあたらしい街でした。
この地に江戸幕府が銀貨鋳造所を設置したことで賑わいを見せ、今日のデパートやブランド街に連なる呉服屋が立ち並びます。
ちなみに、当時「金座」は、日本橋にある現在の日本銀行本店に設置されていました。

その呉服屋とあわせて周囲の外食産業も勃興し、江戸前(海域ではなく漁場を示す言葉)の鮨(冷蔵庫がない時代、東京湾で採れたフレッシュな魚を提供するファストフード)が人気を博します。
黒潮の分流により、次から次へと新しい潮が流れ込む東京湾はプランクトンの宝庫で、それを追ってさまざまな種類の魚がやってきます。
その種類は400とも500ともいわれ、その約半数が食用になることから、東京湾は日本でもっとも豊富な種類の魚が集まる素晴らしい漁場でした。

当時、夏の江戸前定番ネタといえば、キス、メゴチ、ギンポ、マコガレイ、イサキ、マゴチ、アジ、マアナゴ、タチウオなどで、河口ではウナギも多く採れ、これらが千葉の醤油とあわさって、江戸四大食(鮨、天ぷら、うなぎ、そば)として定着します。
食べ方も今日の高級店とは異なり、鮨屋に入ったらパッと食べてパッと出るのが「粋」とされ、僕自身、子供の頃にせっかちな江戸っ子だった祖父や父に何度も諭されたことがあります。

この「粋」の概念を海外の友人たちに伝えるのは大変難しく、一般的には「江戸時代に庶民の生活から生じた、遊興の場での心意気や洗練された身なりや振る舞いによる美意識」と言われますが、そこには反骨精神も含まれます。
言うならば「粋」とは、ストリートのCoolさ。
現在では他の言語に全く同義の語句が見られないことから、「粋」は日本独自の美意識として位置付けられています。

いまや約1万店もの飲食店が集う食のワンダーランド銀座。
高級店は数あれど「粋」な店はどこにあるのか?

本格的に冬がくる前に、「粋」な場所を求めて銀座を彷徨う今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.544 2021年11月19日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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