高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

日本が観光立国になり得るかどうかの試金石はVIPサービスにあり

高城未来研究所【Future Report】Vol.347(2018年2月9日発行)より


今週は、沖縄の今帰仁にいます。

2017年の沖縄県入域観光客数が、ハワイの観光客数を初めて上回りました!
これは、2000年代初頭、沖縄ブーム創出に関わった人々の悲願であり、ついに、国際的な観光地として、あたらしいステージに立てたことを意味します。
数日前に、正式な数字が発表され、当時、僕と共に仕事をしていた沖縄のスタッフから、歓喜の報告をいただきました。
実に感慨深いものがあります。

2001年9月11日に起きた米国同時多発テロの影響により、多くの在日米軍がある沖縄本島の観光業は壊滅しました。
一般観光客はもとより、修学旅行生も訪れることがなくなってしまった閑散とした観光地だったのです。
そこで、2002年から数年かけて沖縄ブーム創出(および県内人材育成)をミッションに、県庁内に作られた特別プロジェクトチームの総合プロデューサーの任についた僕は、東京から自分の愛車を沖縄に船で持ち込み、離島まで含めて隅々まで県内を訪れ、いままでにない観光戦略をを練りました。
綿密なセグメント・マーケティングとヴァーティカル・マーケティングは、幸いにも早々に良い数字と叩き出し、地域振興の成功例として海外でも幾度となくプレゼンテーションを行いました。
その沖縄観観光のゴールが、「ハワイを超える」ことだったのです。
達成するまで、まるまる14年かかったことになります。

しかし沖縄は、いまだ平均滞在時間や消費額では、依然としてハワイに及んでいません。
入域観光客数は、2016年比で9%増の過去最高を更新し、なかでも海外ゲストが22%増と伸びは顕著なのですが、財布の紐を緩めることは成功していません。
最近の沖縄を僕が見ても、大きなお金を落とす場所がなかなか見つからないのが、正直なところです。
今時、風光明媚とショッピングだけでは、ゲストは旅を楽しめません。
商品でもサービスでも、海外ゲストに高額な支払いを求め、その対価に満足させられるかどうかが、次のステップの鍵となるでしょう。
簡単に言えば、VIPサービスに対応できる人材が、沖縄では不足しているのです。

世界の主だった観光地、特に沖縄同様のリゾート地には、必ずVIPサービスと呼ばれる特別な観光業者が存在します。
このVIPサービスは、イビサやサントロペ、マイアミ、そしてハワイなど著名観光地には必ずあり、これらのリゾート地では、1日数万円程度散財する一般ゲストとは別に、1日数千万円使うVIPゲストが、数多く訪れます。
このVIPゲストをアテンドするのが、VIPサービスと呼ばれる人材です。

例えば、沖縄であれば、慶良間諸島の無人島に、一週間だけ、特別なコテージを立てる許可を県に申請し、それを実行します。
もちろん、簡易的なコテージになるのでしょうが(すぐに撤去可能な構造物として許可を得るのでしょうが)、コストは数千万円に上るのは間違いありません。
それでも、一週間だけ無人島に立てられた特別な場所とサービスに、数千万円支払う人たちが、世界中にいるのです。

このような人たち(つまり、本当のVIP)が世界には多数存在し、また、このような人たちが真に望むものを理解できなければ、VIPサービスは提供できません。

世界の成功している観光地でお金を落とす人たちを分析すると、VIPサービスが、平均消費額を押し上げています。
1日1000人各3万円使ってくれる人たちに対応するには、それなりの人数が必要となりますが、数人で3000万円使ってくれる人たちに対応するのは、そこまでの人数は必要ありません。
結果的にサービスの利幅も大きくなり、いままでにない顧客を獲得できることにつながります。
沖縄観光の次の課題は、ここにあるように見えます。
そうしなければ、ゲストが増え続け、どこかで観光パニックに陥るでしょう。

かつては、社会主義下で「贅沢は敵だ」と教えられていた中国人が、いまや日本より強烈な競争社会化で、人々はしのぎを削っています。

一方、日本では一億総中間層といった「過去の価値観」を脱することができず、また、長らく続くデフレによって、VIPサービスなどの「あたらしい価値観」を、理解できません。
そのため、常に平均値で物事を考えるような思考が、あらゆる場面で横行し、問題や本質を見抜くことができなくなっていることが多々あります。

もし、沖縄の様々な問題が日本の縮図だとしたら、観光業に限らず、世界のVIPに対する商品やコンテンツを提供するのは、まだまだ難しいのかもしれません。

果たして、この数年のうちに、沖縄にVIPサービスが登場するのでしょうか?

これが、本当の観光立国に日本がなり得るかどうかの試金石に思う今週です。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.347 2018年2月9日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 未来放談
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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