やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

平成の終わり、そして令和の始まりに寄せて


 あまり元号に思い入れのない昭和48年生まれの私ですが、昭和が終わるときは何か世間がドタバタしていて、崩御された昭和天皇が下血で苦しんでおられるような報道が続いてものすごい陰鬱な雰囲気であったのを覚えています。まだ高校生だったかと思うのですが、あ、これは元旦まで無理矢理誰かが生かされようとしているぞ、誰かの都合で、みたいな感覚を連日のテレビ報道でぼんやりと思っていました。

 今回は、今上天皇の英断で、まだご存命、ご健康なうちにご退位されるという話ですので、国民の混乱は最低限に抑えられたという点で非常に良かったのではないかと感じます。お疲れ様でございました。

 その平成、いろんな雑誌から寄稿依頼は頂戴していたもののあまり気が乗らず… と申しますか、平成と一口に言っても31年弱あったわけで、ずっと平坦な平成であり続けたわけでもなく、多くの人々が生まれ、暮らし、そして死んでいった31年だったと思うと、時代観として平成が一枚岩な訳もないのです。

 それでも、あたらしい令和に向けてという話であれば、やはりいろんなものが行き詰まり、制度疲労を起こし、人口も頭打ちから減少に入って、衰退への道を確定させたのが平成という世の中であったと私は思います。それでも、この平成で生まれた人たちはこれからの人生があり、令和の時代にやってくる新しい命と混ざり合って新しい世の中を作っていく核となります。まさにいま31歳になる元年生まれ以降が、この国の将来を決めると言っても過言ではないぐらいの暗い閉塞感が覆っているようです。

 裏返せば、それだけ共同体としての国家、もやっとした日本社会の再定義も必要になっていく時代を迎えます。データ資本主義と言われる新たな経済体制があり、さらに日本はアメリカを中心とした西洋合理主義を中核に据える、アジアでの旧秩序の守り手のひとつであります。民主主義、資本主義、自由主義、そして人権… などなど、建前ではあるけれど、最後のところで機能すると信じられる何かを護持する日本であり続けるために、何をするのかが真剣に問われるのが令和時代であろうと思います。

 じゃあ、平成はそういうものが問われなかったのか? と言われると微妙な気もしますが、ただ何よりも昭和がアメリカとソビエト連邦の間での冷戦を超えてきた戦後の時代であったのに対し、曲がりなりにも平成は具体的な戦争にがっつりと巻き込まれることもなく、みな順調に歳を取り、高齢化社会が問題になるほどに、あるいは、若者の死因第一位が自殺であるという、平和で健康な時代を生きています。願わくば、そういう穏やかで、平和な状況が続く令和でありますように、と祈りたくもなります。

 しかしながら、平和も安定も健康も未来も、望むものは勝ち取っていかなければなりません。つまりは、旧弊を打破しつつも社会にとって大事なものを守り、改革しながら存続する社会の実現を考えていかなければならないのです。本来の保守主義である、バーク主義的志向こそが令和の時代で社会を善導する礎になると思っています。

 何が正しいのか、どうあるべきか、もっと広く議論され、多くの人たちの納得を得て大胆に改革していく。その目的は、日本という国体の、社会の、国民の権利と健康と幸福を維持するための戦いそのものです。必要なことはきちんと改廃し、研鑽し、世界と平和的に手を取り合いつつ、日本の存在感を示すことが大事だと思っています。

 そして、そのためには新しいテーゼが日本社会には必要であろうと。思想なき日本、神なき世界が、人間の傲慢で過剰な自信を戒めつつ着実な進歩をこれからも続けていけるかどうかがいま問われているのだろうと思います。それは、日本を将来どのようにしていくべきなのか、来世紀、またその先に日本が豊かで平和で安全で幸せに暮らせる場所であり続けるために、長い目を見てグランドデザインを考え、実施可能なレベルに物事を集約させていくすべての所為を、衒い無く続けていくことが肝要でしょう。

 すなわち、個人の活動とするならば、まず何よりも自身が心穏やかに、平常心の中で日々を幸福に暮らし、良く働き、家族を慈しみ、然るべき納税をして、良い人生を送ることをまず第一義とし、そのうえで重要だと思う問題に、個人個人がしっかりと声を上げ、語り合い、相互理解を推しはかりながら日本社会が一体となって問題を解決していく姿勢が大事であろうと考えます。一口に言えば、良い人生を送ろうとする際に、起き得る障害をきちんと取り除きながら前に進んでいく、良識ある日本人が増えて行けば解決するものも増えていくのでしょう。

 衰退する日本と言っても、衰退する部分と成長する部分があります。新陳代謝がある限りはすべてが老いさばらえるわけではないのです。令和の時代は、まず「良い撤退戦」の模索、そして突き詰めるべき分野の確保、奨励をどのようにやっていくのか。それは、政府、公共の役割の見直しもあり、また地域の再結合、人生設計のモデルケースの立案など、いますぐにでも手を付けるべき部分は充分に議論しつつ、社会にある様々な対立、金持ちと貧乏人、都市と地方、男性と女性、老人と若者、さまざまな立場にあるクラックのような欠落部分を知性と理性で埋めていく作業が必要になります。

 そこには、ビッグデータ、クラウド技術、IoT、人工知能(AI)など、目に見えている道具もありますが、それらを支えている人と技術に焦点を当て、善導していくことが求められます。あまり時間に猶予はありませんが、日本はもともと見定まった目標をキャッチアップするのは得意な風土を持っています。さっさと態勢を整えて復興し追いつけばいいのです。

 そういうグランドデザインをきちんと策定し、その青写真をテーマにして広めていくことが強く求められる令和の時代の幕開けは、私は決して悲観ばかりが横たわる真っ黒な世界ではないと考えています。

 まずは、我々がきちんと幸せに第一歩を笑顔で踏み出せばいいんじゃないでしょうか。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.260 平成の終わり、そして令和の始まりに寄せて語りつつ、携帯電話料金やコンビニ24時間営業問題について考えてみる回
2019年4月28日発行号 目次
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【0. 序文】『ズレずに 生き抜く』(文藝春秋)が5月15日刊行されることになりました
【1. インシデント1】政府中枢に売国奴的な国賊行為を行うスパイは存在するか
【2. インシデント2】ネット上での自由な言論や表現行為には何らかの規制が必要なのか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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