やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「親子上場」アスクルを巡るヤフーとの闘い


 先般より、大株主であるヤフーとアスクルを巡る争いが世間を騒がせておりまして、微小の株式しか持っていない木っ端アスクル株主である私としても興味津々で見ています。個人的には、まだまだ成長の余地のあるいい会社だと思うんですよね、アスクル。

 大騒ぎになったのは、ヤフーによるアスクル・岩田彰一郎社長の再任反対を表明と、アスクル岩田社長側がそれに対抗する記者会見や一連の記事によるものでした。

ヤフー・アスクルの対立に見る、親子上場の問題点

 本件においては、磯山友幸さんや、大西康之さんが前に出て経済論陣を張り、記者会見では企業統治に詳しい久保利英明弁護士までついて騒ぎが広がりました。なぜかJBPressまで乗っかっていて、どことなく冨山和彦臭や中村直人先生の気配を感じる案件になってきていて興味深いわけであります。

アスクル社長「解任」騒動を招いた、あまりに雑なヤフーの対応

ヤフー・アスクル騒動で暴落、経営者・孫正義の評判内部文書入手! 「ヤフーvs.アスクル」対立の原点を検証する

 ただし、一般的な株式とガバナンスの論理で言えば、そもそも親子上場できているのが問題なわけで、久保利さんであれ日本証券取引所であれ、ソフトバンクHDがソフトバンク通信部門を新規上場させ、またヤフージャパンを実質的に子会社化して財布状態にしたうえで、さらに「親子上場どころか孫会社状態」であるアスクルについて一般的なガバナンスが通用しない状態に追い込んでいるのは日本の証券市場のある種の「緩さ」の話にすぎませんから、ここで孫会社にあたるアスクルが成長の伸び悩みで経営陣を更迭したいヤフーの意図を無視して経営陣を温存しようとするというのはいささか不自然です。

 また、冨山和彦さんは自身のFacebookの中で経済産業省の意向まで披露しているわけなんですが、上場企業の経営や株主の権限行使において何で監督官庁の意向を気にする必要があるのでしょうか。良く分かりません。

https://www.facebook.com/mammy.toyama/posts/2865544446795686
明確なCGSガイドライン違反かつこれで独立社外取締役ゼロとなるとコーポレートガバナンスコードはもちろん会社法上も重大な瑕疵のある状態に陥ります。自ら上場企業であるヤフーはもちろん、これらの規範を管理する担当官庁はどう対処するのか。これで何のおとがめも無しとなると、日本は数さえ押さえれば何でもできる野蛮なガバナンスの国とみなされ、虎視眈々と狙っている悪質なハゲ鷹ファンドが世界中から一斉に押し寄せる危険性大です。

 CGSガイドラインがあるから過半数を持った株主連合が経営不振の経営陣の交代を実施できないというのは本末転倒で、海外の投資家からの視線がといっても海外ファンドのレポートを見ていて今回のヤフーの行為について明確に反論しているファンドは見当たりません。むしろ、なんかプロキシーファイトでもあるとしても「いまの経営陣では浮上できない」と判断する投資家や海外ファンドのほうが多いんじゃないでしょうか。むしろ、少数株主権やコーポレートガバナンスを盾に経営陣が居座っているだけではないかとすら思うわけであります。

 そして、独立系ファンドのひふみ投信を率いる藤野英人さんも、正面からヤフーの方針を支持して現経営陣の更迭を促す発表をしてしまいました。もしも過半数の株式を持っている株主の影響を排除するべきで、少数株主の権限を守るべきなのだ、というのであれば、冒頭にもある通り親子上場をそもそも認めないか、過半数の株式を握られている上場企業株式は何らか強制的に売らせたりポイズンピル的な自衛策を講じさせるようにするしかないんじゃないでしょうか。

新たな少数株主が「ヤフー支持」表明 「支配株主の横暴」説くアスクルに打撃

https://www.facebook.com/hideto.fujino/posts/10158994981663438
アスクルに打撃と書いてあるけれども、アスクルは素晴らしい会社で、素晴らしいお客様がいて素晴らしい人たちが働いている会社だと思います。ただ、アスクルの現「経営陣」にノーなのであり、アスクルにノーなわけではないのです。

 ヤフーにおいては、ソフトバンクHDからの影響もあって、ある種の進駐軍的なガバナンスを強化する方針もあるのかもしれませんけれども、本件アスクルの件は本質的に経営陣がよろしくないという話に過ぎないので、ここで日本証券取引所・東証以下市場サイドが自己批判的な総括することなしにヤフーとプラスにだけ問題を押し付けているというのはさすがに問題じゃないかと思うのですが。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.267 ヤフー・アスクル騒動について、そして吉本興業のあの件について、さらに7Pay事件についてなどあれこれと考えてみる回
2019年7月30日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】「親子上場」アスクルを巡るヤフーとの闘い
【1. インシデント1】絶対に笑ってはいけない吉本興業24時など大企業不祥事に見る時代の節目
【2. インシデント2】エンドユーザー個人のリテラシ頼りだけでは解決できないITセキュリティ問題
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。サイバーインテリジェンス研究所統計技術主幹など歴任。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

「履歴」をもっと使おう(西田宗千佳)
アフリカ旅行で改めて気付く望遠レンズの価値(高城剛)
暗い気分で下す決断は百パーセント間違っている(名越康文)
ITによって失ったもの(小寺信良)
なぜ、旅人たちは賢者のような眼をしているのか–旅こそが最良のソロタイム(名越康文)
ショートショート「金曜夜、彼女のジョブ」(石田衣良)
Amazon Echoのスピーカー性能を試す(小寺信良)
ロバート・エルドリッヂの「日本の未来を考える外交ゼミナール」が2017年8月上旬にオープン!(ロバート・エルドリッヂ)
プログラミング言語「Python」が面白い(家入一真)
イベントの「行列待ち」に解決方法はあるのか(西田宗千佳)
メディアの死、死とメディア(その3/全3回)(内田樹)
『無伴奏』矢崎仁司監督インタビュー(切通理作)
人生の分水嶺は「瞬間」に宿る(名越康文)
殺人事件の容疑者になってしまった時に聴きたいジャズアルバム(福島剛)
「自然な○○」という脅し–お産と子育てにまつわる選民意識について(若林理砂)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 756円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ