※高城未来研究所【Future Report】Vol.437(2019年11月1日発行)より
今週は、ハバナにいます。
数年ぶりにキューバへ撮影のために訪れていますが、
現在、日本からキューバへの送金が一切禁止されているため、制作費や必要経費を現金で持ち込まねばなりません。
これは米国の意向によるもので、米国財務省外国資産管理室(OFAC)は、外交政策・安全保障上の目的から、米国が指定した国・地域や特定の個人・団体などについて、取引禁止や資産凍結などの措置を行っており、こうした規制は「OFAC規制」と日本の金融機関内部で呼ばれています。
それが、この秋からはじまりました。
取引先の当事者の所在地・関係国・関係地等に、北朝鮮、イラン、キューバ、シリア、クリミア地域が含まれている場合、もしくは、米国政府により特定されているテロリスト、麻薬取引者、大量破壊兵器取引者、多国籍犯罪組織などの関与する取引先には、日本から送金ができません。
米ドル建てならわかりますが、日本円でも送金できないのは、日本の金融機関が事実上米国財務省の下部組織であることを意味しており、つまり、日本は金融において、主権を有していません。
これは、今後の有事の際に、大変参考になります。
ここで、改めてキューバと米国の関係を振り返りたいと思います。
カリブ海に浮かぶキューバは、アメリカと目と鼻の先で、直線距離で言えば東京ー静岡とほぼ同じ距離しか離れていません。
キューバは、長い間宗主国だったスペインの圧政に苦しんでいましたが、これを助け、独立を支持したのが近隣の米国でした(1898年米西戦争)。
その後、多くの米国企業がキューバに進出し、グアンタナモには米軍基地も設置。
しかし、キューバ経済は気がつくと富が米国企業に独占され、国民生活は窮乏の一途をたどりました。
なかでも、クーデターで政権の座についたバティスタは、便宜を図った米国企業からの見返りで私腹を肥やし、マフィアも暗躍。
そこで、立ち上がったのが、弁護士フィデル・カストロで、この時のゲリラ戦で活躍したのが、チェ・ゲバラです。
バティスタは国外に逃亡し、カストロが革命政権樹立を宣言(キューバ革命)。
カストロ政権は腐敗の温床となった米企業の資産を接収し、国営化します。
そこで米国の資本家は、亡命キューバ人に武器を供与し、カストロ政権打倒を企てたのですが、失敗。
資本家は米政府を動かし経済封鎖に舵を切り、米ソ核戦争一歩手前まで進んだ「キューバ危機」で、二国間の対立は決定的になりました。
なお、この混乱時に多くの富裕層が海外(主にマイアミ)に移住しました。
現在、マイアミを中心に、アメリカには100万人以上のキューバ系移民が暮らしていますが、彼らは言うまでもなく社会主義を嫌悪する「反・カストロ派」です。
彼らが共和党の大きな票田になっており、トランプは、一年後に迫った大統領選で票が欲しいために、この秋、キューバに「あらたな仕打ち」を与えているものだと思われます。
そのひとつが、「OFAC規制」です。
本年9月、米財務省は対キューバ経済封鎖(制裁)強化策を発表しました。
実は、昨年11月の国連総会で、米国の経済封鎖解除決議案に対し、加盟国193カ国のうち、189カ国が経済封鎖解除に賛成、2カ国(米国、イスラエル)が反対という圧倒的多数で可決しましたが、米国は、国際社会の意見を無視して(米大統領選の票固めのために)制裁を強化しています。
さらに今週、米運輸省はに、米国民間航空会社によるキューバ便のうち首都ハバナを除く9空港への運航を今年12月10日から禁止すると発表しました。
米国大統領選まで、あと一年。
いま、キューバは、その犠牲になっていると感じる今週です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.437 2019年11月1日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


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