小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

日本でも始まる「自動運転」

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年7月15日 Vol.090 <悪循環からの離脱号>より




7月8日、筆者は福岡市役所を訪れていた。福岡市・九州大学・NTTドコモ・DeNAが共同で展開する、「スマートモビリティ推進コンソーシアム」の設立発表会を取材するためだ。

・コンソーシアムの設立を4団体のトップが発表。背景にあるのが実験に使う自動運転車「DeNA Robot Shuttle」だ。

このコンソーシアムの目的は、九州大学伊都キャンパス内で「自動運転車」の実証実験をすることだ。最初に、DeNAはフランス・EasyMile社から自動運転車「EZ10」を調達、「DeNA Robot Shuttle」として、必要な組織へとレンタルする事業を展開する。DeNAは同様の仕組みを今年8月から千葉県・幕張のイオンモール幕張新都心でも運行するが、九州大学伊都キャンパスでの試みは、その発展系といえるものだ。EZ10は12人乗りの電動自動運転車で、内部には運転席がない。あるのは、行き先を示すタブレット端末と、緊急時に運行を止める「エマージェンシーボタン」だけだ。

・車内にあるエマージェンシーボタン。運行はすべて自動で、基本操作系はこれだけ。

まず人が運転する形で走らせ、運転経路をRobot Shuttleが覚えると、あとはGPSおよび近距離レーダーの情報を組み合わせて、定まったルートを走る。人が飛び出してきたり、他の車両が近づいてきたりすると、スピードを落として安全を確保する。Robot Shuttleは時速10から15kmの速度での走行を予定しており、「自動車」というよりも、遊園地の乗り物に近い。とはいえ、完全な閉鎖空間ではなく、人が暮らす環境で自律的な運行をすることで、得られるものは非常に多い。特に九州大学伊都キャンパスは、日本における自動運転の実験環境としてはかなり厳しいものだ。1万6000人を超える人々が暮らし、山の中でアップダウンがあり、場所によっては公道を渡る必要もある。こうした積極的な実験は、日本国内ではなかなか行われてこなかった。しかし、福岡市と九州大学が積極的に各種の問題をクリアーし、DeNAやNTTドコモが参画することで、そうした実験が行える環境を整えることができた。DeNAは自動運転車レンタルビジネスのノウハウを、NTTドコモは道と車の間のビーコン規格やオペレーションセンター運営のノウハウを得ることを狙っている。

今回の実験を指揮する、九州大学の安浦寛人理事・副学長は、「2017年には本格的なバスを運行させ、2018年には実用化したい。そして、その結果、人が運営するよりもコストが下がったら、バスの設備などは九州大学が買い取り、運営する」と説明する。伊都キャンパスは275ヘクタールに及ぶ巨大な敷地で、学内シャトルバスの運行が必須。九州大学として自動運転の実験を行いたい、という目的だけでなく、コストのかかるシャトルバスの経費を、将来的に削減する方向にもってきたい……という狙いがある。

福岡市の高島宗一郎長は「福岡市であっても、この先には人口減少フェーズが待っている。その際、赤字路線の置き換えとしての自動運転があり得るのではないか。特に、駅とコミュニティの間を、安心・安全を確保した形での運用に期待したい」と話す。すなわち、自治体の中での「足」として、自動運転車を使った低コストなバス路線の実用化が検討されているわけだ。九州で行われる実験は、2020年以降の「人口減少が続く日本」に向けた新しいビジネスを占うものとして、注目しておく必要がありそうだ。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2016年7月15日 Vol.090 <悪循環からの離脱号> 目次

01 論壇【小寺】
 「家族」というセーフティネットはどれぐらい機能するのか
02 余談【西田】
 日本でも始まる「自動運転」
03 対談【小寺・西田】
 VRおじさん・広田稔さんに聞く「バーチャルリアリティ」の今とこれから
04 過去記事【小寺】
 ノートPC時代終了? 沸き立つタブレット市場
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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筆者:西田宗千佳
フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。

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