※高城未来研究所【Future Report】Vol.520(2021年6月4日発行)より
今週は、滋賀、京都、金沢、東京、鹿児島と(陰性証明を持って)移動しています。
二年前に大混雑だった観光地を巡ると、インバウンド(中国人)バブルの終焉を実感せざるを得ませんが、静寂が戻った京都の祇園で蛍が見られるなど、自然と一体になった本当の「日本の美」を再発見できる驚きもあります。
僕が子供の頃に街中で見た蛍や蝶などの虫は、いつしか見かけることはなくなりました。
本来は自然と共に考えられていた「街並み」ですが、利便性と「間違った清潔さ」だけを追求したことにより、「なにか」を失いました。
いま、その反動が押し寄せるとともに、「街並み」や「自然との関係性」を誰もが再考する機会を与えられているようにも想う日々です。
さて、今週のカメラとレンズのお話しは、いよいよスマートフォンについて。
一眼レフ構造を持つカメラを駆逐した家電メーカーが作り出したミラーレスカメラの一般化により、大日本帝海軍の潜望鏡技術を持つニコンは、息絶え絶えになりました。
まさに、敗戦です。
この理由は、デジタル化に乗り遅れたことが要因であると言われますが、実際は新しいものを受け入れることができなかった「日本帝国軍体制」にあったのは、間違いありません。
ミラーレスを「所詮オモチャ」とバカにしながら、かつての栄光に甘んじ、胡座をかいて時代の趨勢を読めなかった典型的な企業ニコン。
こうしてカメラ市場は、フルサイズ・ミラーレスに注力するソニーが席巻していきました。
しかし、時代は大きく揺れ動きます。
スマートフォンの登場です。
実は、世界初のケータイカメラは、1999年に日本で誕生しました。
当初は、テレビ電話用に開発されたため、カメラのレンズが内側だけにしかなかったことから、自分しか撮ることができませんでしたが、2000年11月に登場したJ-フォン(現ソフトバンクモバイル)のシャープ製端末が先陣を切ります。
当時、三種の神器として多くの若者が日々持ち歩いていた「携帯電話、ヘッドフォンステレオ、使い捨てカメラ」を合わせた商品を作るという発想から本格的なケータイカメラが生まれ、見事にヒット。
そして7年後、このコンセプトを継承し、「携帯電話、ヘッドフォンステレオ、インターネット端末」を合わせた製品が誕生します。
それが、iPhoneです。
2007年に発表されたiPhoneは、当初は「ガラケー」と呼ばれる端末ユーザーから、見向きもされませんでした。
その大きな理由のひとつが、カメラ機能でした。
当時のiPhoneは、画素が15万画素程度しかありませんでしたが、日本で人気だったシャープの端末は1400万画素もあり、「ガラケー」には1000万画素超のカメラが内蔵されているのが当たり前の時代でした。
この画素にAppleが追いつくのは、iPhone 6まで待たねばなりません。
iPhone 5から4GやLTEに対応したことにより、Wi-Fi環境がない人でも回線速度を気にせずに誰でもインターネットを使えるようになり、IPベースで大画面を持つiPhoneが一気に普及。
続いて2014年に登場した高画素カメラを搭載したiPhone 6は、撮った写真を大画面で確認でき(特に自撮り)、その場から多くの人に写真を見せることができる「新ライフスタイル」を意味する端末でした。
この商機、つまりカメラの「あたらしい民主化」をAppleは、見逃しません。
Appleは、優れたカメラとしてのiPhoneを理解してもらうため、「iPhoneで撮影」と名打った広告キャンペーンを大々的に開催。広告代理店TBWAが、関連会社であるMedia Arts Labを通じてiPhoneを使って写真を撮ってSNSで公開している人々に接触し、世界中のビルボードをギャラリーと見立て、26カ国85都市に1000億円を超えるキャンペーン費用を投入します。
その結果、「ガラケー」を完全に追いやるだけでなく、ミラーレスをはじめとする「デジタルカメラ」の全市場を駆逐しはじめたのです。
(次号に続きます)
高城未来研究所「Future Report」
Vol.520 2021年6月4日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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