高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

銀座の通りにある歩道の意味

高城未来研究所【Future Report】Vol.548(2021年12月17日発行)より

今週は、東京にいます。

年末のイルミネーションが眩しい銀座を歩くと、歩道がある道とない道があることに気がつきます。

銀座は大動脈とも言うべき晴海通りや中央通りのほか、碁盤の目のように整備された細い道が並びますが、これは、明治5年に大火災に見舞われた際、先進的な街づくりのために雇われたイギリス人建築家トーマス・ジェームス・ウォートルスが再設計した際に作られた道です。
大火災復興計画は、街路整備と煉瓦を主材料とする不燃性洋風家屋の建築の二本柱から成りましたが、これらの建設費のために当時の政府予算の約27分の1という巨額の支出が投じられるほどの大事業となりました。

こうして出来上がったグリッド状の瀟洒な銀座の内側の細い道ですが、実は道によって異なる「格式」があり、並木通りが世界的なブランド街になった理由もここに隠されています。

歩道がある細い道は、江戸時代からある古い道「表通り」で、一方、歩道がない道は前述の大火災復興時に整備された「新道」です。
歩道がある並木通りや交詢社通り、花椿通りは由緒正しい古き道のため、今日も歩道が残る一方、並木通りから一本しか違わない西五番街や金春通りは「裏道」と考えられていたことから歩道がありません。
かくありまして、出店地の価値を徹底的に調べ上げる世界的なメガメゾンは「表通り」の並木通りに集中し、近年、道幅が狭いのにもかかわらず坪単価1億円を突破。
大動脈中央通りは坪単価4億円を超え、80年代終わりのバブル期を凌駕しました。

しかし、中国不動産マネーが日本市場に流れこむのが止まり、あわせてコロナ禍でインバウンド客が激減したことから、様相が変わります。

バング&オルフセンはじめ、すでに撤退したブランドもあれば、その隙間を狙って「ハイブランドになりたい!」と思われる聞いたことがないブランドが出店したり、またこの機に古くなったビルを取り壊して新しいビルを建設する動きも活発です。
このような新陳代謝が功を奏するのかわかりませんが、かつての銀座らしさが失われていることだけは確かです。

また、先日お伝えしたように、僕自身「冬季蓄積期」に入ったことから「mTOR遺伝子」をゆっくりスイッチングしていまして、近隣の銀座のレストランを廻るのも楽しみのひとつになっています。
そんな中、歩道がない裏道に出店している店舗には「大盛り」があっても、歩道がある通りの店は「大盛りはございません」と言い切ることに気が付きました(高城調べ)。

確かに、大盛りどころか小盛りのほうが食器の上で見栄えがよく、芸術的な盛り付けができるため「小盛り」が「銀座らしさ」を演出する上でのデファクトスタンダードなのでしょうが、もし今後、表通りのレストランで「大盛り」が出るようになったなら、それこそ銀座の本質的変化の表れだと見て間違いありません。

果たして、その日はやってくるのでしょうか?

日本一路線価が高い街、銀座。
不動産業界で「最後の砦」と言われるこの街が変わったら、日本という国家ブランディングそのものの行く末が垣間見えるだろうな、と歳末で賑わう街なかで考える今週です。
個人的には、その日は遠くない(あと2-3年程度)と、街を歩きながら感じます。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.548 2021年12月17日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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