結論を先に書くと「必ずしも総理・岸田文雄さんだけのせいで株価が下落しているわけではない」のですが、とにかく資本家界隈からは岸田さんの打ち立てる新しい資本主義の評判が悪くてどうにもならないわけですよ。
いや、評判が悪いと言うより、何をしたいのかがイマイチよく分からない、と言うのが本音でしょう。
もちろん、いままでじゃぶじゃぶの資金供給と低金利で頑張ってきて、そこから世界的な経済情勢をみながら日本の金融政策を見直していこうと言う話なら(賛同するかどうかは別として)理解はできます。野田佳彦政権以降の税と社会保障の一体改革もおざなりになって、これからますます社会保障費の負担が大きくなるところで金融政策一本槍の景気刺激策では限界があるのは当然ですから、適切な財政出動や規制緩和とセットで生産性を高めてイノベーションを促し、脱炭素社会に舵を切ろうという考えがあるのならまあ分かります。
しかしながら、岸田総理官邸から漏れ伝わる話というのは、良くも悪くも穏当な話ばかりで、あまりこれといった政策の軸があるわけでもない中で、いろんな人の話を聞いて右に左に揺れながら、とてつもない中庸策を取ろうとして決められず、優柔不断になっている岸田さんの有り様(ありよう)ばかりが見えてきます。
無難なんだけど、何も決まらない感じがとても強いわけですよ。
そして、いまや霞ヶ関も本来は人事権を握っている官邸やその周辺を見るよりも、自民党の中を気にするようになり、幹事長の茂木敏充さんや政調会長の高市早苗さんのほうが下手すると官房長官よりも政策的な注目度が上がってしまうという不思議な事態になっています。
理由は単純で、岸田官邸から何か政策が発信されることが少ないので、先に政策面で騒いでいる党内議論のほうが官邸より先行し、また、役者も揃っているものだから推進力が強いわけです。
そこにきて、岸田さんからすれば全く知見もなければ興味もないロシアのウクライナ侵攻騒ぎと、それと併せて世界的な資源高&エネルギー問題が出てきたものだから、たぶん「よし、様子を見よう」となっているんじゃないかと思うわけですよ。
先日も偉い参与や党幹部の人に呼ばれてあれこれ話はしましたが、特定の問題について「どう思う?」という話ばかりで、そのお使い役になっている中堅議員が文字通り使い走りになってしまっているのを見ると、やろうと思えば全権を握るはずの官邸がおとなしすぎて注目されなくなるのも仕方がないのかなと。
一方の野党は重要法案が審議されないままそのまま通常国会は延期なく終わってしまうことへの抗弁ぐらいするかと思いきや、今更になって立憲民主党泉健太執行部への不満が噴出して、党が割れるほどではないにせよ一枚岩には程遠い状況となり、また、国民民主党はなぜか都民ファーストとの合流が視野に入り、さらに野党の左右に位置する維新の会と立憲が口喧嘩を始める始末です。
よろしくないのは株安は必ずしも日本の問題だけでなく、アジアやエマージング全体にカネが回らなくなってきているという別の現実を示しています。バイデン大統領もガソリン価格高騰でアメリカ人からの支持を失い、中間選挙では負け必須のなか内向きの政策を取るようになり、ますます日本は独自の動きのできるフリーハンドを逆に持て余すような状態になっているのは残念なことです。
それでも、コロナ禍オミクロン株の世情もあって、何もしないはずの岸田さんが何もしないが故に安心感を持って迎えられ、野党の低迷もあって支持率は堅調であり、また、いわゆる消極的支持よりも本格的に「他の人よりも岸田さんが良い」という無党派層が増えたというのは驚きです。正直どこが良いのかと思う有識者や市場関係者も多い一方で「日本の政治はこれで良いんだよ」という日本の有権者の和をもって尊しの気風が出ているのかなと感じます。まあ、安倍晋三さん、菅義偉さんときて、コロナもあって、薄味のものを求める雰囲気なのかもしれませんが。
いずれにせよ、私の周辺で言えば教育データからFATF勧告対応の犯罪収益移転防止法まで、さまざまな問題が先延ばしになってしまい、まあじっくり議論できるから良いじゃないかと思いつつもこれで良いのかと思ってしまう、2022年序盤の一ヶ月でした。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.357 岸田総理が導く日本の行方を案じつつ、再生エネルギーバブルの敗戦処理やNFTにまつわる不都合な話を語る回
2022年1月31日発行号 目次
【0. 序文】「岸田文雄ショック」に見る日本株の黄昏
【1. インシデント1】メガソーラー関連で囁かれる再生エネルギーバブルの敗戦処理
【2. インシデント2】NFT人気にまつわる不都合な真実的あれこれ
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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