やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

成長戦略に「ウェブスリー」を掲げる岸田官邸の何それ感


 年初から「何かしてるなあ」と思っていたのですけれども、ここにきて、参院選を控え自民党が掲げる経済政策の目玉にどういうわけか「ウェブスリー(Web3.0)」が中核に据えられるという事件が勃発しました。

 何ということでしょう。

「Web3.0」をわが国の成長戦略の柱に NFT政策検討PTが提言(案)を取りまとめ | 自由民主党

 ウェブスリーといえば、基本的に仮想通貨(暗号資産)を支えるコア技術やブロックチェーン、NFT、VR技術、メタバースなど、いかにも「それっぽい」要素技術をバズワードとしてちりばめつつ、アメリカの大手VCが好きそうなコマーシャルベースの新機軸でGoogleやAmazonなどビッグテックに対抗して分散的なネット環境を実現するのだ的な話になってきています。

 「日本もそれに乗り遅れるな!」という意味において、珍妙な議論もかなり混ざっている印象があります。先日も、日経がメタバースの悪口を掲載したところ、これらの仕事で飯を食おうとしている人たちがこぞって「NFTについて理解していない」「メタバースは今後の世界のコンピューティングを先導するものだ」というような批判を書き募っていたのが印象的でした。

メタバースは「ただの面白い技術群」で終わるのか、市場発展へ克服すべき課題

 ではメタバースであれNFTであれどういう目論見で何が起きているのかといえば、もちろん要素技術としては画期的なものがあり普及すると面白いなという面は多々あれども、では具体的なアプリケーションとしてどういうものがあって、それがいかなるお金の稼ぎ方になり、社会がどう便利になるのかと問われると、具体論になればなるほど尻すぼみになっていっているのもまた事実です。

 最近では、たまに政策分野でも「ブロックチェーンで地域通貨振興を」というお題目を誰に吹き込まれたのか知事室が持ち込んでくるケースがあります。いや、ブロックチェーンは単なるデータ構造のことですから、仮に地域通貨を発行する話があったとしてもブロックチェーンである必要ありませんよ。

 で、自民党がこれらのウェブスリー戦略のホワイトペーパーを出してきました。掲載元は、自民党のNFT推進役の一人である平将明さんのサイトに掲載されていたのですが、NFTの話のはずなのになぜかデジタル通貨を発行するよ、それで地域振興だよという話になっていて、そもそもNFTである必要ないじゃないかという話になりはしないか心配です。

デジタル・ニッポン 2022 〜デジタルによる新しい資本主義への挑戦〜

 そもそも論で言えば、先日NFTの「左ききのエレン」で起きた問題と全く同じことが自民党で発生していたようで、別段NFTとブロックチェーン技術の組み合わせというのは必ずしも分散型自立組織を作るうえで必要不可欠な技術というわけでもありません。あればいいなぐらいの程度であるだけでなく、むしろ誰かが勝手に地域通貨を名乗ってNFTでトークンを発行されたら面倒くさいほうになる代物です。いわば、ブロックチェーンにはそんな機能は備わっていないし、NFTを利用しても堅牢で使い勝手の良い地域通貨が流通させられる保証もありません。

左ききのエレンNFT漫画事件簿【NFTアートの正しい理解に向けて】

 むしろ家電量販店や薬局チェーンみたいに紙(レシート)の割引券とスマホアプリの併用でポイントサービスをやったほうがNFTを利活用するよりもはるかに利便性が高くて有用であって、ウェブスリーの利活用という観点ではかえって「そっちじゃない」という話になるだろうと思います。

 そうこうしているうちに、今度は参院選の公示を6月22日に控えた官邸が、自民党からの提案を受けて政府骨太の方針に「Web3.0」を明記するよって話になってしまいました。なんてことをしてくれてるんだと思いましたが、この辺の座長はあの平井卓也さんであります。パワハラ問題や豆蔵ホールディングスの株式保有問題などもあって小選挙区で落ち初代デジタル大臣を一か月で追われる羽目になったわけですが、ウェイティングサークルで重要閣僚待ちをしている岸田派中堅であることには変わりなく、官邸としても「イノベーションにも目を配ってますよ」という旗頭としてウェブスリーをやるぞと言うのはもってこいだということであっさり採用されてしまいました。

<独自>政府骨太に「ウェブ3・0」環境整備を明記へ

 これへの環境整備をするということで、閣議決定をされる運びとなるわけですけれども、先に挙げた概要版「デジタル・ニッポン 2022」にも記されているようにむしろ課題山積で、特に社会的法益に資さないので、資するようにしようと問題点が書かれている時点で「必要とされていない技術じゃないのか」というのは容易に理解できるところです。もうちょっとやりようがあると思うんですよね。

 逆に言えば、ここで出ている有識者は例えば森・濱田松本法律事務所で金融庁でも出向経験のある弁護士の増田雅史さんが入っていて、技術的には正しいんですよ。ただ、法的にはハードルが大きく、何をするためのウェブスリーなのかは全く不明です。単に、ビッグテックに対抗するには分散型のウェブスリーだぞという観念論以上の何かが特にないという点で、情報銀行構想と大差ないだろうというのが実感です。

 NFTもブロックチェーンも必要だし面白い技術だと思いますが、私たちの社会や経済が一変するような凄いものではないし、これらの技術が十全に利活用できるような社会インフラが法改正も含めて組まれるのだとなれば、べらぼうな量の法改正が必要となる怖れがあります。

 すべてがダメだ、おかしい、悪いという話ではありませんが、正直「大丈夫なのかなあ…」と生暖かい視線を送るような代物になっているように感じられます。どうにかなりませんかね。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.371 ウェブスリーに成長戦略を託す我が国は大丈夫なのかと憂えつつ、驕れるビッグテックや三浦瑠麗さんのこれからをなんとなく考えてみる回
2022年5月31日発行号 目次
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【0. 序文】成長戦略に「ウェブスリー」を掲げる岸田官邸の何それ感
【1. インシデント1】広告収益モデルに頼るビッグテックの命運はどこへ向かうのか
【2. インシデント2】三浦瑠麗さんどうしよう問題
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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