※高城未来研究所【Future Report】Vol.579(7月22日)より
今週は、屋久島にいます。
小説「浮雲」で「屋久島はひと月に35日雨が降る」と表現した林芙美子の言葉通り、ほぼ毎日雨が降ります。
それもそのはず、この島は九州最高峰の宮之浦岳(1936m)をはじめ1000m以上の山が45座並ぶ山岳島で、別名「洋上のアルプス」とも呼ばれる独特の地形が雨を降らします。
年間平均降水量は平地で約4500mm(山間部は8000〜10000mm)と、日本の年間平均降水量の2倍をはるかに超える量が降り、その半分近くが5月から8月に集中しています。
しかし、なんとも言えない魅力がある島です。
事実、この雨ばかりの島はコロナ禍でも大人気の観光地。
昨年「Booking.com」が、ユーザーの口コミを基に授与した「Traveller Review Awards 2021」でも、「日本で最も居心地の良い場所」ランキングで第一位に輝きました。
なかでも一番人気の観光スポットが「縄文杉」。
樹齢1000年以上の杉を「屋久杉」と言いますが、そのなかでも一番古く大きいのが「縄文杉」です。
ただし、樹齢は極めて怪しく、2000年とも7000年とも言われており、その上、発見されてから50年ほどしか経っておらず、あまり調査もしていません。
発見当時、単に「大岩杉」と呼ばれていましたが、それでは島を代表するアイコンとして弱いということから、「縄文時代に芽を出した(可能性が高い)」ので、「縄文杉」と名付けられました。
つまり、ブランディングなのです。
実は近年、樹高が25.3mの「縄文杉」を遥かに超える45mの杉が発見されましたが、せっかく築き上げた観光ルートやブランディングが崩れてしまうことから、その場所は秘密にされています。
かくありまして、屋久島では宿屋から水まで「縄文」の名を冠した商品やサービスが後を絶ちませんが、縄文杉が縄文時代となんら関係がないことから、これらの商品やサービスも縄文時代と無縁なのが実態です。
では、いったい「縄文杉」は、なぜここまで有名になったのでしょうか?
それは、80年代に環境省が行ったキャンペーンで、屋久島の「縄文杉」の前に制服の女子高生を立たせた広告が話題になったからに他なりません。
広告コピーは「7200歳です。」
これより屋久島へ観光客が殺到し、縄文杉は一躍「スター」になったのです。
その後、林野庁が放射性炭素年代測定法で「縄文杉」を調査すると、結果は「2170歳」以下だったことが判明しています。
また、「仏陀杉」はじめとする樹齢数千年を誇る屋久島の木々も、放射性炭素年代測定法で調べた結果ではなく、目見当で年代を公表しているのが実態です。
果たして屋久島が守っているのは生態系なのか、ブランディングなのか?
夏休みに入った今週、屋久島の主だったホテルはどこも満室です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.579 7月22日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
その他の記事
「こんな死に方もありますよ」と、そっと差し出す映画です ~『痛くない死に方』監督高橋伴明×出演下元史朗インタビュー(切通理作) | |
川上量生さん、KADOKAWA社長時代に高橋治之さんへの資金注入ファインプレー(やまもといちろう) | |
誰がiPodを殺したのか(西田宗千佳) | |
近頃人気があるらしいコンサルタントという仕事の現実とか(やまもといちろう) | |
言語を問うことの意味(甲野善紀) | |
勢いと熱が止まらないマレーシアの経済成長(高城剛) | |
リベラルの自家撞着と立憲民主党の相克(やまもといちろう) | |
選挙の行方はカネとネットの話がほぼすべてという時代における公職選挙法整備のむつかしさ(やまもといちろう) | |
野菜はヘルシーフードどころか真逆の毒の塊?(高城剛) | |
新興国におけるエンジンは中国(高城剛) | |
実力者が往々にして忘れがちな「フリーランチはない」 という鉄則(やまもといちろう) | |
ヘヤカツで本当に人生は変わるか?(夜間飛行編集部) | |
武術研究者の視点—アメフト違法タックル問題とは? そこから何かを学ぶか(甲野善紀) | |
フェイクと本物の自然を足早に行き来する(高城剛) | |
たまにつかうならこんな「ショートカット」(西田宗千佳) |