やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

相場乱高下の幸せとリセッションについて


 「なんかこえーなー」とビクビクしながら、かといって触らないわけにもいかない実業上の取引もあるためエイヤで相場を張っていたのですが、結果的に円安水準もアメリカのリセッション予想からの金利引き上げ一服見込みでドル独歩高が調整され、円ドルも132円台までごっそり下がりました。「どうせ決済するからまあいいや」とドルで支払い為替予約も終えたところでの円高戻りでひと安心であります。ツイててよかった。

 幸か不幸か、おそらく秋口以降はサプライチェーンで混乱をしていた半導体関連も落ち着くのではないかという見込みの価格水準に戻り始め、また、一足先に実需関連で影響の出ていた木材や一部素材関連もアホみたいな高騰からまあまあの水準に帰ってきたので、こちらもこちらで良かったなと思っておるところです。まあ、特段の需要もないのに価格だけが上がっていく相場というのは明らかにおかしいわけでして、とはいえ相場は常に正義ですのでもっていたドルをおっかなびっくり吐き出したところ天井だったので助かった、といったところでしょうか。

 ただ、身の回りで乱高下する相場にわざわざ乗り込んでいってドボンして破産寸前になってる不動産ホルダー氏がいたり、持ちこたえられず先に決済してしまって同じくドボンしそうな投資家の皆さんがブリッジローン先探しで走り回っていたりしてまして、ほんと一寸先は闇だぞと思います。私もキャッシュポジション多めでしばらく無難に回してきたわけですが、怖がりすぎと投資家仲間に笑われながらも「分からんものには踏み出さない」という主義を貫いたお陰でやらかした連中の状況を冷静に見ていられる懐事情であることは神に感謝するほかありません。

 もちろん、仕事がらみの投資で起きていることは「必要なので、仕方なく」売買するわけですけれども、そうでないもの、特に投機に関連したファンド方面についてはおおむね2つのドボンリスクがあったように思います。若干後講釈になりますけれども、投資の傾向としてざっくり解説してみます。

a. NFT、Web3関連

 昨今では、インプレス社が「いちばんやさしいWeb3の教本」でガセネタや嘘説明てんこ盛りで揉めて回収したりしてましたが、NFTは私は手を出しません。

 Web3界隈は知り合いも関係者も知人も多く投資していて、割と頻繁に勉強会をやり呼び出されたりプレゼンされたりするのですが、正直「良く分からない」ので食指が動かないんですよ。目の前の実需のない現代美術のNFTが高値で売買されていてWeb3でETHだぞと言われて「それじゃあ」と買う必要、あると思います?

 必然的に「お前、それやるんなら投資ファンド作って出資するんじゃなくて、事業として手掛けてもらえるなら軍資金貸すよ」という提案をするんですが、貸し金に乗るWeb3方面の人、少ないんですよね。だって、儲かるんなら金貸した金利以上に収益上げられるってことなんだから、お前らがお前らのリスクでやればいいじゃんと私は思います。

 で、ひとり上場企業創業経営陣の猛者がいたので株担保で2,000万ほど現金貸したんですけどさっそくオケラになってました。どうするつもりなんでしょうね。4か月で全額スッてしまうとは情けない。私が療養している間にオンラインで釈明の打ち合わせをしていましたが、私としてはカネが返ってこないなら担保で差し入れてる株式を移動してくれればそれでいいんですけどね。

 あまり公開するのも憚られるところですが、ホワイトペーパーでは凄い投資だぞ風のNFTの案件はあるものの、概ねインチキだろうと思います。インチキでも瞬間風速的に儲かるのは、自分より後から儲かると思って参入してきた人がおカネを投じるので見た目の価値が上がってるに過ぎないんですよね。

 ただ、岸田政権も自民党本部これからの成長戦略はWeb3だとか言ってしまいましたので、この手のインチキベースのバブル相場はまだ残るのかもしれませんし、詐欺師はたくさん出入りすることになるんじゃないかと思います。何というか「実績のあるWeb3起業家」って触れ込みの胡散臭い投資案件が多すぎるのはさすがに界隈からすればヤバいでしょう。正直「騙したことのある詐欺師」ぐらいの印象しか持ちません。

b. 中国系投資家・不動産界隈

 Web3界隈と並んでヤバすぎるのは最近の中華絡みです。インチキが多すぎる。

 特に日本に投資を進めたいという中国人投資家がパートナーを探しているという触れ込みで、主に京都や福岡、北海道の物件を共同投資しようってやつ、だいたいインチキだろうと思うんですよ。少し前はカジノ関連とかインバウンド関連、京都古民家リノベ関連で騙しまくった連中が、同じように騙しているプロジェクトが多いうえ、見た目はまともなコンサル会社(それもEYやアクセンチュアを名乗る)ぽい風情でやってくるけど裏を取るとOBだったとか、そういうの。しかも、いっちょ前にTK-GKスキームを持ち込んでくるので、おかしいなと思うわけですよ。だって私は日本人で、別に所有を隠す必要もないのになぜ合同会社をスキームに組み込む必要があるの?

 なもんで私は提案があっても「また次の機会に」と流してしまうわけですけど、日本に来て投資経験もたくさんこなしているはずのオーストラリア人投資家が騙されてサルベージとかしてました。何してんだよ。私もニセコの案件では痛い目に遭ったからというのもあるんですが(カネを損したというより行ったり来たりしなければならず無駄な時間を過ごした)、いま結構物件がダブついてる京都でファンドを組んで民泊まがいのコーポレートを立てるのにTK-GKでやる必要は皆無です。カラクリを知っていれば、仮に儲かる物件を組成できたとしてもそんな仕組みである意味がないんですよね。つまりは後で連中がドロンするための下ごしらえだろうという目算はつくのです。

 これも、もし日本国内で担保組めるんならカネを貸してやるから相談に来いよとやると、見事にそのあと連絡が来なくなります。世の中そんなもんです。

 また、逆のパターンとして中国本土の投資案件を香港経由で投資しませんかってやつは死ぬほど来ます。しかもワンショット20億円とか30億円とかそこそこ大きい金額で、さらに大手ヘッジファンドの関係者が組成している(調べると、本当に彼らが名前を連ねてはいる)ので、一見まともな筋合いなのかとも思うわけですよ。紹介の筋もまあ良い人たちなので、まあそんなら話は聞いてみますかというケースもまた多い。

 ところがですな、案件を一個一個広げてみてみると、この前派手にやらかした恒大集団の工事未完了物件であったり、破綻が噂されている省大手の金融機関の焦げ付き案件を固めてファンドにしましたというようなゴミ箱物件だったりするんですよ。それも、ちゃんと調べたり現地に分かってる情報提供者がいないと蓋が開かない構造になっていて、これ完全に騙しに来てますよね。中国国内の物件なのに表面利回り(どうやって日本に持って帰るの?)が年利30%台とか破格の内容もまた多くて、誰がそんなのに手を出すと思ってるのって感じではあります。

 それでも蛮勇を奮って乗り込んでいく日本人投資家も何人かいるらしく、ほとんどが地方で「ご活躍」の虎っぽい皆さんだったので勇ましく向かう背中を旗持って見送るぐらいしか私にはできないのですが、どうかご武運を祈る次第であります。

 なぜこんな話をいまメルマガに書いているのかというと、いや、これリセッションの前のダブつき案件のはめ込みという投資環境激変あるあるだからなんですよ。これが仮に草コインであれば万が一でも儲かる可能性はあるのかもしれないという極小の確率でのジャックポットは考えられるのですが、本件投資は万が一にも成功はないんです。確実に、ドブにカネが捨てられるというだけでなく、先方にも事情があって、カネをかき集めにいってるんです。飛ばすためにカネを募ってるのは間違いないのです。

 うまくいってるときの千三つではなく、うまくいかないのでどうしてもカネを必要としているレベルの話なので、まあもうどうにもなりませんね。

 もしも身の回りでそういうドボン話に捕まりそうな人がいたら、そっと浮き輪を投げてやるのが慎みある大人の振る舞いではないのかと個人的には思います。そのぐらい、これらの界隈の百鬼夜行ぶりは深刻だなあと感じるんですよね。マジで。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.375 リセッション時代到来に向けてあれこれ思うことを記しつつ、参院選の振り返りや動画サービストレンドの移り変わりに感じることなどを語る回
2022年7月30日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】相場乱高下の幸せとリセッションについて
【1. インシデント1】安倍晋三さんが凶弾に斃れた参院選、選挙の流れと振り返り
【2. インシデント2】TikTok台頭によるインフルエンサービジネスへの影響とか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

優れた組織、人材でも、業界の仕組みが違うと途端に「能無し」になってしまう話(やまもといちろう)
コロラドで感じた大都市から文化が生まれる時代の終焉(高城剛)
「キモズム」を超えていく(西田宗千佳)
カメラ・オブスクラの誕生からミラーレスデジタルまでカメラの歴史を振り返る(高城剛)
間違いだらけのボイストレーニング–日本人の「声」を変えるフースラーメソードの可能性(武田梵声)
フィンランド国民がベーシック・インカムに肯定的でない本当の理由(高城剛)
国産カメラメーカーの誕生とその歴史を振り返る(高城剛)
ITによって失ったもの(小寺信良)
アーユルヴェーダで身体をデトックスしても治らないのは……(高城剛)
スマホが売れないという香港の景気から世界の先行きを予見する(高城剛)
夕陽的とは何か?(前編)(岩崎夏海)
ガースーVS百合子、非常事態宣言を巡る争い(やまもといちろう)
「自由に生きる」ためのたったひとつの条件(岩崎夏海)
パッキングの軽量化について(高城剛)
夜間飛行が卓球DVDを出すまでの一部始終(第2回)(夜間飛行編集部)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ