やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

自民党、まさかの派閥解消からの安倍派処分の強硬手段で政治資金ネタを有耶無耶にしてしまう


 国民からの支持に繋がるかや、本当に政治資金問題で解決に導けるかそっちのけで、自民党が大揺れに揺れております。一緒に私も揺れております。どうしたものでしょうか、今週から。

 というのも、実のところ検察当局筋からは年初早々、割と距離感の近しいところには総じて「国会開会前には大物の逮捕も見据えて立憲作業大詰め」という情報がリークされてきています。今回独走した朝日新聞が、一連の報道の中で「検察庁、安倍派幹部の立件見送り」の一報を最後まで見送ってきたのも、実は検察庁は最後の最後で乾坤一擲の返し技を隠し持っているのではないかと疑っていたからなんじゃないかと思うんですよ。

 結果的に、本当に見送られちゃってビックリなんですが、ここでいう安倍派幹部とは誰だったのかで紐解きますと、これはもう事務総長経験者であり会計責任者に直接派閥資金の繰り入れを指示していたとみられる塩谷立(しおのやりゅう)さん、世耕弘成さんと西村康稔さんのうち、誰かか全員かではないかと見られていたわけです。年初に立件見送りを聞かされていたらしい高木毅さんはのんびり党本部近くの料亭で麻雀を打っていたという証言もあるぐらいのんびりしたものでしたが、国会開会が1月15日を見込んで仕込んでいたところ、能登半島地震対応もあって22日になり、26日になって、捜査当局も最終的な立件見送りの報道を出すのが間延びしてしまい、結果的に政局というか政争になるキッカケになってしまったのは残念というか塞翁が馬というか。

 そんな中で、岸田文雄さんがなかば笑みを湛えつつあっさり宏池会の解散を決め、事前に話を聞かされていなかった副総裁・麻生太郎さんと幹事長・茂木敏充さんも不快そうにしていましたが、これが起死回生の動きになるのかどうか、安倍派も二階派も森山派も、また今回無関係の菅義偉さんのガネーシャの会も解散の見込みになってしまいます。

 さらには、総理を目指す茂木敏充さんからすれば致命傷とも言える、小渕優子さんや参院要人が集団離脱する見込みとなった経世会・茂木派は、10名以上の離脱となって半壊となります。麻生派も、あまり無事盤石とは言えない展開となるでしょう。

 派閥と自民党政治の話はカネとヒトの問題であることは各所で繰り返し解説が為されているので多くはここでは書きませんが、ただ派閥というのはやはり選挙互助会的側面と併せて重要ポストの配分のための推薦を担う仕組みに他なりません。派閥による自民党政治が結果的に野党との政見取り合いではなく自民党内の派閥内の権力変遷で疑似的な政権交代が行われ、政権ごとに担うワンイシューで物事が決まってきた戦後政治のありようからどう脱却するのかは焦点とも言えます。

 しかしながら、国民からは派閥というのはそこまで大事なことなのか、これを解消すれば政治資金の透明化という点で決定的に意味があるものだという認識は、実はそんなにないのも事実だと思うんですよ。もちろん、永田町の力学としては「えっ、派閥を解消しちゃうの」ってことで、みんな相当ショックを受け、血相を変えて岸田やめろと真顔で言う関係者も出てきてしまうのも事実ですが、国民からすれば「何にそんなに騒いでるの」って感じじゃないかと。

 どのみち、政治資金規正法をしっかりと改正して、問題のあった会計があった場合は当の政治家の指示があろうとなかろうと連座させるべきだという議論にならざるを得ず、また、政治団体同士の資金移動に関しては無制限であることへの批判も大きいでしょうから、そこはどうにかしないと政治不信に歯止めは効かなかろうと思います。それもこれも、良く分からない理由でハードルが4,000万円になっている(他の事案と比べて公平な金額以上の不記載で起訴とする)話は問題であって、そんなものは当然に国民からすればふざけるなであるし、法律にそんなことは書いてませんから条文通りちゃんとやれやということで、検察審査会で蒸し返し起訴相当となったときにもうひと悶着あるのでは、と思っています。

 そして、今回のケースでは年末に次期常会までに結論を出すのだという、検察側の人事猶予も含めてかなり焦って立件するしないを捜査していた感は否めません。そもそも、不記載と会計責任者の共謀のところでしか捜査してないのであって、派閥にカネを入れずにごちそうさました議員や、派閥の会計責任者が「独断で」この議員にはこれだけのキックバックをするのだと決めていたのか、さらには未記載で浮いた現金収入を果たして本当に金庫に現金のまま取っておいたのか、実際に使った先はどこなのかといったところはほとんど詳らかになっていないあたりは随分検察も(証拠固めがむつかしいという面も含め)焦ったのではないかなと感じる面はあります。そもそも人事の束縛が無ければ今回の常会前にリークを駆使しながら世情を煽って立件に持ち込もうというアプローチはどうだったのかという話にもなります。

 そのあたりも踏まえて、立件されなかったから法的に許されたのだと誤認し、離党勧告や議員辞職のようなけじめを誰一人、安倍派元幹部がつけることなく進んでいっていいのかというのは一度ちゃんと立ち止まって考えるべきことであり、筋論として、コロナ下で銀座に飲みに行ったのがバレただけで離党勧告をしたのは、元国対委員長代理だった松本純さんら銀座3兄弟でありました。それに比べて、政治資金をごまかしたのは党務の流れとして罪が軽かったと言えるのかどうか。

 諸事悩ましいところではありますが、思い出したころに素人が集まって裁断を下す検察審査会で起訴相当となった場合に、実は政治資金絡みを額面で不起訴にするのは不適切とする判断が下る場合には略式起訴、公民権停止3年から5年になることを鑑みれば、どういう着地にするべきなのかは予断を持たずに考えていきたいと願うところです。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.430 どうする自民党とあれこれ思案しつつ、逃亡していた桐島聡さんの件や生成AIと知財でいろいろ面倒になってきたことを語る回
2024年1月29日発行号 目次
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【0. 序文】自民党、まさかの派閥解消からの安倍派処分の強硬手段で政治資金ネタを有耶無耶にしてしまう
【1. インシデント1】逃亡していた桐島聡さんの件でいろいろ突っ込んでいたら面倒なことになった
【2. インシデント2】生成AIと知財の面倒な関係
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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