うーん、またぞろSNS界隈がくだらないことで盛り上がってるみたいですね。
今回は「財務省解体デモ」なるお祭り騒ぎが話題らしいんですが、さすがにちょっと抜き差しならない状態になり触れざるを得なくなってきまして…。これがまた見事なまでにデマと陰謀論の坩堝で、見てるこっちが恥ずかしくなるレベルです。財務省が何か特別悪いことしてるわけでもないのに、「財務省さえなくなれば俺たちの人生バラ色!」とか本気で信じ込んでる連中が霞が関に集まって叫んでるらしいのです。で、私も財務省の前で移動規制に引っ掛けられ、結局割と大事な打ち合わせを10分ぐらい遅刻させられました。大迷惑!
そこに便乗して日本人インフルエンサーのヒカルだの三崎雄太(青汁王子)だの西村博之(ひろゆき)だのが、揃いも揃って「賢さとは縁遠いファン層」を引き連れて加担してるっていうんだから、笑うしかないんです。明らかにSNSで拡散されたデマが火種になってる話なのに、このままじゃさすがにマズいんじゃないの? なんで放置しとるんや? って思うわけですよ。
まず、この「財務省解体デモ」の前提からしてズレまくってる。解説するのも気が引けるぐらい、何でこんなの信じてるのって水準のものです。しかし、大真面目な参加者たちは「財務省が日本の貧困や増税の元凶だ!」とか本気で息巻いてるらしいけど、ちょっと待てと。財務省ってのは国の予算を管理する経理部長みたいなもんであって、最終的な予算決定権は国会にあるんだよ。増税だって、政治家が決めて国会で承認してる話。財務省が勝手に「国民から搾り取ってやろうぜ」とかやってるわけじゃない。ましてや、120兆円の裏金を財務省が、ってのが普通に語られていてビックリ。本気で信じてるのかよそんなの。いやー、さすがにないでしょ。なのに、「財務省がなくなれば減税されて俺たちの生活が楽になる!」とかこれも本気で思ってるらしいんだから、呆れるしかないのです。現実見えてないにもほどがある。
そもそも、このデモが2月21日に霞が関で起きて、Xでトレンド入りしたって話だけど、大手メディアで取り上げたのはテレ東くらい。もちろん、報じる価値はあるとは思いますよ。これだけ馬鹿が一堂に会してるんだから。そして、あとはYouTubeやTikTokで「財務省が国民を苦しめてる!」みたいな動画がインフルエンサー周辺で信者相手にバズってるだけ。で、そういう動画に釣られて「そうか、財務省が諸悪の根源だったのか!」って気づいた気になってる人たちが、デモに参加してるわけですよ。いやいや、君たち、財務省の役割とか予算編成の仕組みとか、小学生レベルの公民でも習うような基礎知識すらないの? そりゃインフルエンサーに扇動されるわけだわ。
そこへ、「ザイム真理教」とかいう中二病丸出しの陰謀論がすんごい流通しております。ある意味で、このデモの背後を読み解くキーワードになっていて、私たちの生活が貧しく、世の中が上手くいっていないのは財務省の責任であると。いやいや、あなたの頭が悪かったり、真面目に働かなかったりして、稼ぎが悪いのが原因でしょう。そりゃ「ザイム真理教」なんて信じるような脳みその持ち主だからこそ、稼ぎが悪いのではないでしょうか。先般亡くなった経済評論家の森永卓郎さんが2023年に出した本のタイトルで、「財務省がカルトみたいに財政健全化に固執して国民を苦しめてる」っていう主張を揶揄ったものが元ネタになっておるわけですが、これがSNSで独り歩きして「財務省=悪の秘密結社」みたいに祭り上げられてしまっております。TikTokやYouTubeで「財務省の陰謀を暴く!」とか銘打った動画が量産されて、再生回数を稼いでるわけだ。要は、馬鹿を騙して再生回数を回す、情弱商売の成れの果てがザイム真理教ってことでしょう。
こういう陰謀論って、シンプルで分かりやすいストーリーがウケるわけです。仮想の敵を作って、大きい存在であるソイツを倒す、俺たちは強大な敵と戦っているんだ、と煽るわけです。レイジベイティングという詭弁・ダークパターンの典型と言えます。単純に「複雑な経済政策のせいで生活が苦しい」じゃなくて、「財務省っていう悪者が国民を搾取してる!」の方が感情に刺さるし、頭使わなくていいから。で、そういう動画に「目からウロコ落ちました!」「財務省マジでヤバいね!」とかコメントしてるのが、いわゆる情弱層ってやつ。まともなソースも検証もしないで、「なんかスゴいこと言ってる!」ってだけで信じちゃう。そりゃ、信者増えるわな。だって考えるの面倒だし、敵が分かりやすい方が楽だもん。ただ、世間を知らない馬鹿しか騙せないから、SNSで馬鹿専用とされるTikTokやYouTubeで流行るのもうなずけます。
冷静に考えれば、財務省がそんなに国民を苦しめる秘密結社なら、給料だって馬鹿高いはずなんですよね。ところが公務員の給与体系って決まってて、民間企業の大手と比べりゃむしろ安いくらいで、そんな強大な権力を持っているはずなのになんか可哀想です。「財務省が甘い汁吸ってる」って言うけど、裏金やら賄賂やら天下りやらが簡単に横行する時代でもない。監査もあるし、公務員倫理法もあるし、そんなリスク冒してまで国民から搾取する意味あるんでしょうか? それに、どうやってそれを実施するかは、陰謀論者は答えることができない。陰謀論者って、そういう現実的な反論には目をつぶって、「いやでもなんかヤバい雰囲気あるし!」で押し切るからタチ悪いんですよね。何の根拠もないことで怒ってるだけだ、そういうダサい存在が自分だと思われたくないんじゃないかと思うんですが。
で、ここにきて火に油を注いでるのが、例のインフルエンサー連中ですよ。ヒカル、三崎優太、西村博之とか、そういう諸氏。名前聞くだけで「またお前らか」ってなるいつものメンツが揃っております。まあ、商売だから頑張っているのか、本気でザイム真理教があるから許せんと思ってるのか外側からはよく分かりませんが、ヒカル氏に至っては、2月23日に「マスコミが財務省解体デモを報じないから俺が広める!」とか言って動画出して、公開2日で160万再生超え。コメント欄見りゃ「ヒカルさんありがとう!」「日本を変えてください!」とか、信者が熱狂してるのが… なんつーか、馬鹿の集まりだなあと思うわけですよ。
いやいや、ヒカル氏が何をどうやって日本を変えるって話なんですか。急に正義の味方気取りで「財務省が悪い!」とか言い出しても、さすがにこれは薄っぺらいことこの上ないわけです、おそらくは何も知らん人でしょう。三崎優太氏だって、「国民のための戦い」とか言ってデモ煽ってるらしいけど、脱税で捕まった過去はどうしたんだって話で、盛り上がっているから喰いついてきているだけでしょう、これは。
で、西村博之氏もまあ、毎回もうお馴染みの「論破王」キャラで、「財務省の財政健全化路線はおかしい」とかしたり顔でコメントしてるらしい。これもう聞きかじりどころか気分でネタ喋ってるよね、煽る馬鹿向けに。財務省に限らず財源問題を気にして各政党が財政健全化にこだわるのは、国の借金がGDP比で200%超えてる現実があるからで、それを無視して「減税すれば全部解決!」とか言うのは、さすがに現実逃避が過ぎるわけですよ。彼らのファン層が理解できそうな内容とは程遠く、難しい話は苦手だけど「なんかスゴい人が言ってるから正しい!」って飛びつくタイプが多いから、こういうデマが広がる土壌ができちゃってるから困るんです。
突き詰めれば、このインフルエンサー連中がやってることって、要は再生回数稼ぎと自己ブランディングのためならガセネタで盛り上がっている界隈にすら迎合してしまうという問題だと思うわけです。ファン層の顔色を見ながら「俺たちは庶民の味方!」ってポーズ取って、いかれたデモに参加する情弱層を取り込んで、影響力と金を増やそうって魂胆が見え見えなのが困ります。仕事だし仕方なくヒカル氏の動画だってちゃんと観るけど、元からたいした知識がないこともあって事実検証してる形跡ゼロだし、三崎氏に至っては「財務省なくなれば税金下がる!」とか根拠ゼロの煽り文句で信者を釣ってるだけ。ひろゆき氏もまあ「財務省のやり方がおかしい」とか抽象的な批判で煙に巻いて、具体的な解決策は一切出さない。雰囲気で断定して、反論してこない相手を叩く、いつもの手口ですね。
そもそも、この財務省解体デモがここまで燃えたのって、SNSの拡散力がデカい。Xで「#財務省解体」がトレンド入りして、TikTokじゃ「財務省の陰謀」系のショート動画が何十万再生もされてる。で、そういう投稿に飛びつくのが、普段から情報リテラシー皆無な層なんだよ。「日本の借金1000兆円は財務省のせい!」とか、「消費税は財務省が国民から搾取するために作った!」とか、耳障りのいいデマがバンバン流れて、それに「いいね」や「リツイート」がついて拡散されていき、デマが再拡大していくんです。
SNSってのは、感情に訴えるコンテンツが強いので、仕方がない面はあります。データや論理で淡々と説明するより、「財務省が悪い!」「国民が苦しんでる!」って怒りを煽る方がバズる。明らかにダークパターンを突いたやり方で、良い加減規制するべきなのではないか、と言われても仕方がない面はあります。で、そういう投稿に釣られて「ほんと財務省ムカつくわ」「デモ行こうぜ!」ってなる連中が出てくるわけでしょう。実際、2月21日のデモに参加した人たちのインタビュー見てると、「YouTubeで真実を知った」「財務省が日本をダメにしてるって友達が言ってた」みたいな声ばっかりで、これもうアメリカ議会を襲撃した第一次トランプ政権の陰謀論者を笑えません。
問題は、この手のデマが一度広がると、収拾つけるのがめっちゃ難しいってこと。財務省が「いや、俺らそんな悪者じゃないよ」って公式に反論しても、「どうせ隠してるだけだろ!」って逆に燃料投下されるだけだし、当然相手にしないという行動をとるから、反論をしてこないサンドバッグ状態になって、どんどんデマが加速してしまいます。この問題についてマスコミがちゃんと報道しようにも「マスゴミは財務省の手先!」って陰謀論がさらに加速する。民主主義の脆弱性、認知戦というのは、こういう分断を煽る文言に基本的に弱いというのが最大のジレンマなのでありましょう。これはもう、負のスパイラルです。で、最終的に損するのは、こういうデマに振り回されて現実的な政策議論ができなくなる国民自身なのでしょう。
もちろん、財務省が完璧かっていうと、そんなわけないけれども「財務省が悪の秘密結社だからだ!」って陰謀論に飛躍させるのは、あまりにも頭悪すぎる。ただ、そういう頭の悪いやつが一定の割合いるのも事実であって、そういうのが徒党を組めば議会襲撃ぐらいできちゃう世の中だから、万が一、財務省の職員さんが襲われる、なんてことのないようにしていかなければならない。
デモ参加者やインフルエンサーの信者たちに言わなければならないのは、「お前ら、もうちょっと現実見ろよ」ってこと。財務省がなくなれば税金ゼロになって生活楽になる、なんて夢物語はない。フリーランチはないのだ、頑張って働く以外、お前の生活を良くすることはできないのだ、国家がお前の頭の上に札束を降らせるようなことは絶対にないんだ、そういうことを理解して、自分の足で歩けってことなんですよね。国の運営には金がかかるし、その金は税金から出てる。その税金だって、基本的には働いた人たちや会社が利益を出して納めた、有限のカネです。減税やばら撒きをやりすぎれば、ハイパーインフレか国家破綻の二択になってしまうのは当然です。アルゼンチンとかジンバブエの例でも見て勉強しろって話ですが、そういう勉強をしないからザイム真理教を信じることになるのです。YouTubeやTikTokで出所不明のデマ情報を観て「真実を知った!」とかドヤ顔してる暇あったら、せめて財務省のサイトで予算の概要くらい読んだほうが良いと思うんですよ。陰謀論なんかよりよっぽど面白くて現実的な話が書いてあるから。
で、この状況見てて思うのが、何度も書いてますが「さすがにマズいんじゃないの?」ってことです。まあ、割とみんなそう思っているとは思いますが。SNSでデマが拡散して、それに煽られた人たちがリアルでデモ起こして、インフルエンサーがさらに煽って…って、もうコントだろ。笑いものならいいけど、これが政治的な圧力になって、実際に財務省が弱体化したり予算編成に影響出たりしたら、洒落にならない。国の財政がガタガタになったら、一番苦しむのは「財務省なくなれば楽になる!」って信じてる庶民なんだよ。皮肉だよね。むしろ、庶民のために財務省が無駄なおカネを使わないよう見張っていてくれているんだから…。
インフルエンサー連中は、責任取る気ゼロで煽ってるだけだから始末が悪い。でも、デマに踊らされてる人たちは、そうはいかない。現実的な経済政策が歪められて、生活がさらに苦しくなるリスクを背負うのは、結局こいつらなんだから。それに、何で平日昼間に普通にデモとかやってるの。仕事をしてないんですかね、普通の。
結局、この財務省解体デモ騒ぎって、SNS時代にありがちな「情弱がデマに踊らされて搾取される」典型例でしょう。財務省を悪者に仕立てて溜飲下げてる間に、インフルエンサーは金稼いで、国の運営は混乱して、誰も幸せにならない。デモ参加者たちは「俺たちは戦ってる!」って満足感得てるかもしれないけど、実態はインフルエンサーの養分になってるだけ。悲しいけど、自業自得だよね。
まともな情報リテラシー持とう、というのは割と大変なことです。ただ、少なくとも正しいと思われる一次情報を得る努力をし、それなりに学んで知見を得て、そこで得た物差しで物事を見極める。そういう自分で考えて行動できる人が増えない限り、こういう茶番はなくならないでしょうし、繰り返しになりますがトランプ政権を笑えません。財務省がどうこうより、まずはお前らの頭の中を「解体」して、まともな思考回路入れ直した方がいいんじゃない? ってのが、この騒動見てての正直な感想です。困ったもんですなあ。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.468 財務省解体デモとかいう茶番のどうしようもなさに嘆息しつつ、教育データ利活用やクラウドデータ暗号化の微妙な行方を案じる回
2025年2月27日発行号 目次
【0-1. 序文】財務省解体デモとかいう茶番と、それに群がる情弱インフルエンサー連中の滑稽さについて
【0-2. 告知】2月28日、JILISコロキウムにて金融犯罪について語るよ
【1. インシデント1】教育データ関連がようやく動き出したので興味を持ってずっと見ている
【2. インシデント2】クラウドデータ暗号化を巡る英国政府とAppleの諍いが英国政府の勝利に終わった件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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