高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

日本でドラッグストアが繁盛する理由

高城未来研究所【Future Report】Vol.718(3月21日)より

今週は、東京にいます。

それなりに日本で長期滞在する海外の友人に東京生活の印象を聞くと、「なぜ、どこも駅前はドラッグストアばかりなんだ?」と話します。
確かに主要駅前はドラッグストアが立ち並んでおり、新宿から新宿三丁目にかけて、わずか200メートル四方のなかに「マトモトキヨシ」だけで6軒もあり、このようなドラッグストアばかりが立ち並ぶ都市は世界で類を見ません。

この背景には、いくつもの理由があります。
まず、高額な不動産価格を支払うためには、それなりの商品単価と粗利が必要です。
小分けした不動産とも言える商品棚の占有率から考えれば、コンビニだと1本120円のドリンクと同じ面積に、ドラッグストアなら小さな一箱1200円の花粉症用目薬が10本置け、医薬品の荒利益率は40%台、化粧品は30%台という高い数値からも「良い商売」ということが理解できます。

次に訪日外国人観光客(インバウンド)需要が挙げられます。日本のドラッグストアは「手軽に高品質な商品が購入できる」ショッピング天国として外国人(特にアジア人)に人気です。
一時の勢いは無くなったとはいえ、中国からの旅行者のうち約90%が訪日時にドラッグストアで買い物しており、少ない滞在日数から遠くまで出向く暇がなく、都心で爆買いします。

そして、国内市場に目を向けると、日本の高齢化社会がドラッグストア需要を支える大きな要因になってきました。
日本では2025年には団塊世代が全て75歳以上となり、総人口の約20%近くまで高まる見通しです。
こうして高齢者が増えるほど医薬品や健康商品、および関連生活雑貨の需要は増大し、日常的に薬局・ドラッグストアを利用するシニア層が急拡大。
特に地方ではインバウンドとは違った需要がある調剤コーナーが増えています。
実際、ドラッグストア各社も「地域のかかりつけ薬局」として高齢者を支える戦略を強化しており、住民の生活圏内である住宅街や私鉄沿線駅前、病院前、商業施設内などに店舗網を張り巡らせています。

そしてなにより、日本人は薬好きです。
世界的に見ても日本人は薬やサプリメントの消費量が多い国民であり、米国に次ぐ世界第2位の市場規模があります。
OECD平均を約45%も上回り、人口あたりの消費額は世界トップなのです!
なかでも、「Over The Counter」の略であるOTC薬、つまり医師の処方箋がなくても薬局やドラッグストアで購入できる市販薬の種類の豊富さは年々高まり、こちらも市場が急拡大しているのが現状です。

ドラッグストアに限らず、調剤薬局でも高齢者一人当たりの多剤併用(ポリファーマシー)も世界ダントツで、この理由は日本では高齢社会で医師受診が習慣化していることと、駅前にあるという医療へのアクセスの良さが処方を促進していることなどが要因にあり、この市場でインキュベートされ、その後、市販薬に転用した「スイッチOTC」製品が多数見られます。

また、四季があることから、インフルエンザや夏バテ、花粉症といった季節性に特化した薬剤を市場投入しやすく、医薬品広告に対する規制が他国より緩いため、効能を強く謳わなければテレビCMをバンバン流せるのも日本特有です。
前述したように医薬品は利益率が高く、広告投資の回収が見込めるため、テレビ局にとっても上客で、「早めの対策」「ひきはじめが大事」というふわっとしたメッセージで、症状が軽いうちに薬を服用する習慣を消費者に植え付けることに見事に成功。
こうして長年繰り返されたCMにより、特定ブランドが「効く薬」の代名詞のように認知され、また成分は同じでも「病院の薬=専門的で強い薬」「市販薬=日常的な軽い薬=常用しても大丈夫」というイメージを持たせることにも成功しています。

実は、僕自身も風邪薬のCMを撮っていたことはありますので、内情はそれなりに理解しているつもです。
当時、市場調査した結果、自分が買った薬の成分を気にする人はほとんどおらず、製品選びも成分ではなくCMに出ているタレントと広告出稿量によるメジャー感で選んでいる人たちが大半で、日本の製薬CM全体の約70%にはタレントが出演していることから、大手芸能プロにとっても上客でした。

さらには、日本はいまだ軍隊スピリッツを持つ組織文化ゆえ、「薬で乗り切る」というメンタリティが日本社会全体に根強くあり、「人に迷惑をかけないように」という同調圧力もあるため、「少しでも体調が悪ければ薬で対処すべき」と当人も周囲も考えている節が見受けられます。

この時期、花粉症関連薬だけで約2300億円以上の売り上げがあり、冬の総合感冒薬市場が1500億円程度ありますので、ドラッグストア業界から見れば、冬から春先は「書き入れどき」なのです。

これらを海外の友人たち、特に欧州から来た人に話すと皆驚きまして、日本のように「とりあえず薬を飲む」という文化はスペインやドイツにはありません。
欧州では「仕事を休んで寝て直す」のが一般的です。

さらに、日本では各家庭には風邪薬・胃腸薬・鎮痛剤・目薬・湿布・栄養ドリンク等、まるで「家庭内ドラッグストア」のように一通り揃っているのが普通ですが、欧州では家庭の常備薬はせいぜい絆創膏や解熱剤程度で、これは欧州へ移住して僕自身も理解したところでもあります。

駅前の一等地に山のように陳列され、一回分ずつ小分けされた服用しやく、デザインも優しい形態で提供される「ドラッグ」は、お手軽さも含め、まるでお菓子のようだと感じる今週です。

正直、味も年々お菓子に近づいていますね。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.718 3月21日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

その他の記事

iPad Proでいろんなものをどうにかする(小寺信良)
「残らない文化」の大切さ(西田宗千佳)
「定額制コンテンツサービス」での収益還元はどうなっているのか(西田宗千佳)
代表質問(やまもといちろう)
花粉症に効く漢方薬と食養生(若林理砂)
欠落していない人生など少しも楽しくない(高城剛)
英国のシリコンバレー、エジンバラでスコットランド独立の可能性を考える(高城剛)
本当に今、自分は仕事を楽しめているだろうか?(本田雅一)
自分にあった食材を探し求める旅(高城剛)
グローバリゼーション時代のレンズ日独同盟(高城剛)
健康のために本来の時間を取り戻す(高城剛)
空港の無償wifiサービス速度が教えてくれるその国の未来(高城剛)
「海賊版サイト」対策は、旧作まんがやアニメの無料化から進めるべきでは(やまもといちろう)
ダイエットが必ず失敗する理由(名越康文)
「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか(津田大介)
高城剛のメールマガジン
「高城未来研究所「Future Report」」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回配信(第1~4金曜日配信予定。12月,1月は3回になる可能性あり)

ページのトップへ