高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

AIやロボットによってもたらされる不確実性時代の雲行き

高城未来研究所【Future Report】Vol.736(7月25日)より

今週は、バルセロナにいます。

ノマドアカデミー・バルセロナ校にご参加なさる多くの方々から、日々AIについてご質問を頂戴します。
特に、AIが人間の労働を置き換える「人員削減」の問題は、世界中の専門家や企業が注目するテーマであり、多くの方々の関心は、いったいどのような職種がどのような速度でAIにとって変わられてしまうのか、といった点に尽きるご様子です。

まず、AIによる人員削減の全体像を把握するために、現在の予測データを振り返ります。
マッキンゼーの報告によりますと、2030年までに米国だけで約1200万件の職業シフトが発生し、ゴールドマン・サックスの分析では、グローバルで約3億件の仕事がAIの影響を受け、これは全体のおよそ20%に相当します。これらの数字は、もはやAIが単なるツールではなく、労働力の代替として機能することを示唆しています。

また、Forbesの記事では、2030年までに米国の仕事の30%が自動化され、60%がAIによって大幅に変化すると予測されています。AnthropicのCEOであるダリオ・アモーデイは、AIが5年以内にホワイトカラー職の半分を回収し、失業率を20%引き上げる可能性を警告しています。
こう考えると、今後5年間でホワイトカラー仕事は少なくとも20%、多いと40%がAIに起き変わります。
個人的な体感と僕の仕事では、次の5年で80%以上が自動化できると考えています。

さらに無人化の未来では、労働市場の半数以上がAIやロボットに依存する「無人経済」が実現するかもしれません。
つまり、人間の労働が最小限に抑えられ、AIが24時間稼働する社会の到来です。

現在、ロボットが荷物の仕分けを1時間でこなすコストが1時間あたり1ドル未満に低下し、今後グローバルで数千万人の倉庫作業員や工場労働者が失業すると見込まれています。
Oxford Economicsの報告では、2030年までに20万人の製造業職が消失し、ロボット密度が急増すると予測されており、無人化の極端なシナリオでは、工場が完全にAI管理下に入り、人間はメンテナンスのみに限定されます。
この結果、中国や東南アジアの低賃金労働者が安価なAIロボットに代替され、経済格差がますます拡大します。

サービス業では、カスタマーサポートがAIチャットボットや仮想アシスタントに置き換わります。
Pew Research Centerの予測では、2028年までに顧客サービスの多くがAIにシフトし、人間との会話が区別しにくくなるとレポート。2030年までに、コールセンターや小売店の従業員の80%がAIに取って代わられる可能性が高く、グローバルで数億人の雇用が脅かされます。いまでも年々増え続ける無人店舗や自動チェックアウトが標準化し、人間の販売員は高級品の象徴として残るだけとなるでしょう。

輸送業界は、自律走行車が革命を起こします。
WaymoのようなAIが運転手を置き換え、グローバルで数億人のタクシーやトラック運転手が失業します。
米国では2030年までに輸送の60%〜95%がAI制御され、無人ドローンが配送を担います。
これにより、物流が効率化され、人間の仕事はほぼゼロに年々近づきます。

教育とメディアでは、AIが教師やジャーナリストを脅かします。
Pewの調査で、AIが教師の仕事の43%を減らす可能性を示唆。オンライン授業がAI講師にシフトし、ジャーナリストの60%がAI生成コンテンツに置き換えられます。無人化では、仮想教室が主流で、人間はエリート教育のみ。

これらの業界影響を合計すると、5年後の2030年までにグローバル失業率が20-30%に達する予測が立ちますが、実はここまでが序章です。

おそらく2030年代には、AIによる起業が続出します。
これは、誰かがAIを利用するスタートアップのような古い仕組みではなく、AIによるAI企業が誕生することを意味します。AIエージェントがプロダクト設計から顧客対応、資金運用までを自動化し、ガバナンスはトークン保有者がスマートコントラクトで行うという構図です。企業としては、DAO型。

こうして法人格を得た「AI DAO」は、株式上場やM&Aすら視野に入れ、資本市場と完全に接続されると推測します。

一方、人々の暮らしは、どのようになっていくのでしょうか? 

世界不平等データベースによれば、2000年に40%だった上位10%の所得シェアは、2023年におよそ1.5倍の58%へと急上昇しましたが、おそらく2035年には75%~80%へと急拡大します。

このような数年後を市場の消費という観点から見れば、現在の米国でもすでに上位10%が個人消費の約半分を占めている現状を鑑み、パレートの法則に従って20%が消費の80%を占める時代になると思われます。
IMF は「AIが高技能労働を強力に補完し、資本収益率を押し上げることで、所得・資産格差がさらに拡大する」と繰り返し警告しており、年々この傾向が高まっています。

今後、ロボット税やAI税(データ税)などもはじまるのでしょうが、おそらく社会システムは変化のスピードに対応できず、素早く変化できた者だけが上昇気流に乗れるK型分岐深化=超二極化は、この先数年で本格化するだろうな、と日々お目にかかった方々と考えるところです。

今週、この2ヶ月で初めてバルセロナに雨が降りました。
まるで、不確実性時代の雲行きのように感じます。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.736 7月25日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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