そんなわけで、大騒ぎになっておりました。
まあ当然ですね、これはインシデントです。
その前にも、24年に横須賀にドローンが飛来して騒ぎになっておりましたので、まあ要するに無防備だよねという話でシャンシャンになりかねない運びになっています。
これらの事案が示しているのは、現代の日本が直面する新たな安全保障上の課題です。本件が、単なるいたずらにすぎないものなのか、他国が強行的な威力偵察のようにやってみたものなのか、はたまたなんかのデモンストレーションなのか――意図はあまり問題にはなりません。ヤベェことになってるぞという寒い心境が共有できたならば、それで良いのです。つまりは、従来の軍事的脅威とは異なり、小型で安価なドローンが持つ破壊力と侵入能力は、私たちの想像を超える深刻な問題を引き起こす可能性があります。
実際に紛争を起こしているウクライナとロシアにおいては、最近は特にドローンにまつわる衝撃的な記事が複数出てきています。
ひとつは、6月4日に刊行されたウクライナ側の「大戦果」として報じられたロシア空軍基地に対するドローン攻撃作戦で、長距離爆撃機など重要なロシア空軍の機体を複数破壊したこと。
もうひとつは、前線でのドローン対策に漁網というローテクだが効果的な方法が実際に使われていること。
この二つの記事は、まさにドローン攻撃は攻撃側優勢であり、守る側はどう守っていいか分かんないこともさることながら、そのようなドローンによる攻撃を受けないために何ができるかいまから考えないと何かあったときに対処不能であることを指し示すわけですよ。
最も懸念されるシナリオは、台湾や尖閣諸島などで有事が発生した際の対応です。そうした事態において、日本から出動する自衛隊の軍艦や航空機に対して、ドローンによる攻撃が仕掛けられる可能性は十分に考えられます。まあ、当たり前だけどやるよな。で、ご承知の通り現代のドローン技術は急速に進歩しており、群れを成して飛行し、精密な攻撃を行う能力を備えています。単機での攻撃であっても、艦船や航空機の重要部分に損傷を与えることができれば、作戦行動に大きな支障をきたすことは間違いありません。
さらに深刻なのは、国内の重要インフラが標的となる可能性です。原子力発電所への攻撃は最も恐ろしいシナリオの一つですが、そういう誰もが想定したら真っ青になる標的だけが問題ではありません。取水場や浄水場といった水道インフラ、医薬品を保管する倉庫、電力供給の要となる変電所など、日常生活に不可欠でありながら防御が困難な施設は数多く存在します。
これらの施設の多くは、従来の軍事的脅威を想定した防御体制しか整備されていません。しかし、ドローンは空中から侵入し、警備員や監視カメラでは発見が困難な場合があります。特に夜間や悪天候時には、その発見はさらに困難になります。小型のドローンであれば、爆発物や化学物質を搭載して施設内部に侵入し、甚大な被害をもたらすことも技術的には可能です。
破壊的な兵器を搭載したドローンが大量に編隊を組んで標的に向かい大打撃を与える可能性がある、というのは悪夢ですが、いまの日本で、軍事基地周辺やその他土地にドローンを忍ばせることはそうむつかしいことではないし、ましてや、それを然るべきときに運用しようとするときどういうアクションを取られる可能性があるのかは、やっぱり想定して対策を打っておく必要はあるでしょう。他国がそういう作戦を日本国内でやるときに、作戦を遂行可能な人材や設備、ドローンを隠し置く場所など、組織的な破壊作戦への対処をする準備は考えておく必要があるのではないでしょうか。
なにより、日本国内で工作活動を行う場合、準備期間を十分に確保できるという点も見逃せません。平時であれば、標的となる施設の周辺で長期間にわたって偵察活動を行い、警備体制の穴や最適な攻撃ルートを特定することができます。また、必要な機材や人員を徐々に配置し、完璧なタイミングで攻撃を実行することも可能でしょう。今回のドローン3機は、みすみすどこかに回収されたと見積もられますが、推定される機体から逆算してどうも玄海原発周辺2km以内で規格外の出力の電波を使い作戦が実行されたのではないかと目されます。当たり前のことですが、総務省が言うような2.4GHz帯で許される電波出力でおとなしく運用するとは思えず、うっかりすれば運転席にいる人物の健康さえも損ねかねないような強い電波で作戦を遂行してくる可能性だってあるわけです。
しかも、先にも書きましたようにこのような脅威に対する対策は決して容易ではありません。まず技術的な課題として、小型ドローンの探知技術があります。レーダーでは捕捉が困難な小型機体を確実に発見し、識別する技術の開発が急務です。一部では、原子力発電所など重要設備には飛来する物体を察知するレーダー的なものがあると言われていますが、しかし、今回は「ドローンのような光」という非常にあいまいな発表に留まっていることは留意する必要があります。また同時に、発見したドローンに対する無力化手段も重要です。電波妨害、ネット射出、レーザー照射など、様々な手法が研究されていますが、それぞれに長所と短所があります。
法的な整備や、対策を実現せしめる充分な予算と監視体制も必要です。現在の航空法や電波法では、悪意のあるドローンに対する迅速な対応が困難な場合があります。緊急時における強制的な無力化や、疑わしいドローンの撃墜権限について、明確な法的根拠を整備する必要があります。
運用面では、重要施設周辺での常時監視体制の確立が求められます。しかし、全ての重要施設に高度な防空システムを配備することは現実的ではありません。優先順位を明確にし、段階的な防御体制の構築が必要でしょう。
国際的な協力も欠かせません。ドローンテロは日本だけの問題ではなく、世界各国が直面している共通の課題です。探知技術や対処法について、同盟国との情報共有と技術協力を進めることが重要です。日本がウクライナと共同歩調をとるにあたって、単に隣国対策や武力による現状変更を認めないという国際政治的な文脈もさることながら、具体的な作戦に対してどう脅威を察知し、いかなる対処をしていくのかというアクションプランまで踏み込んで話を聞いていくしかないんじゃないかと思います。もっとも、ウクライナはそれどころじゃないかもしれませんが。
私なんかは、武力対応を損ねるぐらいに多くのドローンを同時に運用しようとするからには、ドローンの機体本体だけでなく、爆発物や強い出力の出る車両など、複数の設備を技術のある人物らによって運用されなければ作戦が成立しないところに着眼する必要があるんじゃないかとも思います。要は、そういう問題のある施設の周辺ででかい電波が飛び交い始めたらなんかの作戦が実施されようとしているのかもしれないと判断し、その出元を特定するため武装した要員が急行するといった対処案などは当然に考えつきます。
どっちに転んでもドローンへの対処は極めて困難であることを理解したうえで、技術の進歩によりドローンの脅威そのものが今後さらに深刻化することが予想されます。人工知能の発達により、より自律的で精密な攻撃が可能になるでしょう。私たちは、この新たな脅威に対して真剣に向き合い、包括的な対策を講じる必要があります。それは単に技術的な解決策だけでなく、法制度、運用体制、国際協力など、多角的なアプローチが求められる複雑な課題なのです。
まあ面倒くさい話ではあるんですが、むしろ飛来してくれてよかったんじゃね? と思います。当局の皆さんのビビり方、尋常ではないので。それも、そのビビり方は正しいと感じますし。ええ。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.485 我が国でも無視できなくなったドローンの脅威に憂えつつ、中国経済やAIコンパニオンにまつわるあまり明るくない話を取り上げる回
2025年7月31日発行号 目次
【0. 序文】原発にドローン3機が飛来で大騒ぎに
【1. インシデント1】中国経済の超大減速にどう備えるか
【2. インシデント2】いつの間にかAIが人類にとって一番のコンパニオンになっているかもという怖い話
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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