やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

おとぎの国の総裁選前倒し これはちょっとどうにかなりませんかね


 思い返せば一か月も前の8月8日に前線指揮官に過ぎないワイちゃんが総括しておったのが今回の参院選であります。

【号外】『明るい話が特にない』前線指揮官から見た敗戦の総括

【号外】『明るい話が特にない』前線指揮官から見た敗戦の総括

 あまり言いたくはありませんが「今回の参院選はちゃんとやれば勝てる選挙だった」と思っていて、いろいろ事情もあってやるべきことが上手く段取りできず、低く抑えたはずの勝利条件さえもクリアできないどころか国民民主党や参政党にかねて自由民主党の旗頭であった保守系支持者をごっそりと奪われての敗戦となったわけですから、そりゃあまあ党としても総括しないわけにはいかないでしょう。

 それは、そもそもの石破茂政権成立の条件であった幹事長・森山裕さん就任にあたり、早期の解散総選挙の強行が条件となっていたことから、それまで「7条解散(解散権行使)に対して批判的」としていていた石破さんも曲げて解散してみたら、幹事長として未記載(裏金)議員の公認をして公明党さんに迷惑はかけるわ、不要不急の2,000万を各支部に支給して大アゲンストになるわで、石破茂デビュー戦はさんざんな状態になってしまったわけです。

 その後の都議会選挙も、まあ個人的にはいろいろありました。言いたいことはたくさんありますが、結果的に、参院選の前哨戦として都市型選挙区での自民党の衰亡をそのまま示すような惨敗となり、2敗目。そして、今回の参院選で3敗目ですから、スリーアウトチェンジだ、総裁としての責任を取れという話もダイレクトな説得力がございます。そりゃそうよね。

 他方で、ご承知の通り「政治とカネの問題含みで自民党に対する期待感が剥げ落ちているので負けたのに、石破茂さんに『だけ』責任をおっ被せて党改革をおざなりにするのは単なる権力闘争の石破おろしに過ぎないのではないか」という、ある意味で選挙互助会自民党批判が亡霊のように立ち返ってきて党内でも批判合戦となります。さらには、野党陣営や野党支持者も自民党や石破茂さんには投票しっこないのに「石破やめるな」の大合唱となり、これが割と日本の有権者の心情にヒットして石破茂政権支持率が8月から9月上旬にかけて急上昇してしまうという状態になるわけでございます。

 組織内でも両院懇談会での総裁選前倒し実施についてはかなり議論になり、この辺は報道でも繰り返し行われてきた通りです。結果的に、夏休みを取っていた逢沢一郎さんが一年越しに再起動する形で総裁選選挙管理委員会が再び立ち上がり、しかも3名を残して委員総入れ替え、さらに6条4項に基づいて行う実質的な『総裁リコール』関しては前倒し賛成の署名を実名明記の上で持参せよという謎裁定まで発生してしまいます。そこは法務政務官の神田潤一さんや環境副大臣の小林史明さんなど立ち上がる人はちゃんと立ち上がって、べき論を堂々とぶって突破していった経緯はあります。ありがとう神田潤一、ありがとう小林史明。

 他方で、石破体制への造反においては総理『周辺』から党・内閣役職だけでなく公認にまで影響するぞという脅し迄あったりしたわけで、そりゃまあみんな怒るよね。横で見ていたワイも「それを言ったら党分裂を促すとまではいわないけど心ある人ほど反発するし、まったく駄目なんじゃないか」と思ったものです(遠い目)。かくして、よく分からないけど「石破おろし」の文脈は由緒正しい権力闘争の一環としてすっげえ禍根を残す方向で話が進んで行ってしまっている、というのが現状であります。

 裏を返せば、両院懇談会で総裁選前倒しの議論があって、開催はするとなった段階でスパッと森山裕さんと木原誠二さんがすでに表明している辞意(らしきもの)を書面にして出しちゃって期日決めて退陣するという形だけでもつけていれば、現在のようにいまになって4役そろい踏みで辞意表明って微妙な話に追い込まれることもなかったんじゃないかと思うわけですよ。つい最近まで、総裁周辺では鈴木俊一さんも小野寺五典さんも役職を退く意向がある話を察知できていませんでしたし、参院選総括の懇談会時点で森山さんが辞めていれば鈴木さんも小野寺さんも降りなかったでしょう。つまりは、どうせ降りることになる森山さんと木原さんは序盤にさっさとナシをつけて責任を取りますと言って辞任していればこうはなっていないわけです。

 思い返せば、24年衆院選の敗戦総括においても、総括をやるのかやらんのかよく分からんうちに早々に選挙対策委員長のポジションを自らパッと辞任した小泉進次郎さんは、その人気もバックに江藤拓さんの失言(そこまで酷いものでもないと思ったけど)で辞任に追い込まれた後任に抜擢されてコメ価格高騰の切り札として政権の支持率浮揚に役立ったことを考えれば、負けは負けでしかたないけど責任は取るべきときにサッと取らないと後から文句を言われて結局辞任に追い込まれてしまうという点でタイミングをちゃんと考えてやんなさいよということなんじゃないかと思います。さらに、あそこで小泉さんが降りたことで、結果的に総裁選就任即解散総選挙で負けた責任を石破茂さんや森山裕さんは直接取らされることなくここまでやってこれた、というのも忘れてはいけないポイントです。当時は私は党を見ておりませんでしたが、あのときは戦後最短宰相のランキングに石破茂の名前が刻まれてしまうのではないかとハラハラしたものでした。

 結果的に、前倒し総裁選をやるのかやらないのかという騒ぎが今日2日朝から晩まで怒号と共にやり取りされてきたわけですけれども、結局のところ、票読みがどの陣営(というべきか?)もはっきりと見極め切れていないので、みんな宙ぶらりんで締め切りである8日まで最も長い場合は引っ張られることになります。前倒し総裁選の記名での賛同については、選管委員も見通しを話してくれる場合もあるでしょうから、もっと早く前倒し総裁選が「ある」と判明するかもしれませんが。ただ、辞意を表明した幹事長、総務会長、政調会長に関してはその後任が固まることなく少なくとも9月末までは引っ張れるので、8日は人事改造の結果を見せないままの着地となるわけです。

 ここでだいたいいくつかルートが分かれるのですが「8日までに6条総裁選を行うことが決まる/行わない」→行われる場合は総裁選がどうなるかまだ良く分からない、「総裁選を行わず石破政権の存続に進む場合、後継人事が組めないor総務会で了承されない→党内事情で行き詰まって石破茂さんが辞意」→人事が固まらなくても石破さんが辞めへんでとなる可能性が濃厚ということで、結局非常に流動的なまま8日まで待たなければならないというのがいまの政治状況になっています。

 なんかこう、石破派(水月会)が崩壊したときに齋藤健さんや田村憲久さん、山下貴司さんらが石破さんに酷いことを言って蹴り出た話と近い状況であって、石破さんってのはこうなるともう不動の人になって、見かねた周りが収拾してどうにかしてくれるのを待つ的な流れになりそうな気がする、という点でデジャブというか、人は同じ成功と過ちを繰り返す生き物なのだと思わずにはいられません。人間の本質はそうは簡単には変わらないのでしょう。

 また、ここでマスコミが「総理周辺」と言っているのは誰やねんというのはあります。

 というか、いま総理(総裁)が周辺で細かく何かやり取りしている人は、見る限りひとりもいらっしゃらないのではないかと思うんですよ。なので、単に役付きの人が総理がそう仰ったという話を勝手に吹聴して回っている形になっていて、それもあるので、番記者も刺さっているようでまったく情報が取れていなかったり、下手するとこの前の読売新聞のように「石破総理、月内辞任へ」とか大誤報を打ってしまったり、そういうとても分かりにくい情勢になっているのではないかなあと思います。

 ただ、石破茂政権の存続なのか次の総裁にスイッチなのか、どっち転んでも挙党体制ってどうやって組むんでしょうかねって話で…

〇総裁選やらない場合

 もちろん石破茂政権が存続します。挙党体制でやるなら、高市早苗さんに幹事長をお願いするという話しか残されていないが、石破さんが頭を下げられるのかどうか。

 無理なら小泉進次郎さんの幹事長スライドをって話が出るかもしれませんが、これも未知数で、そうであるならば、林芳正さんを幹事長に小泉さんを官房長官にとかいう大トレードをやることになりますけど、これも本人たちが請けてくれるのかどうか。

 それが無理だとなれば、外務大臣としては使い物にならなかったが石破政権以外では浮きどころのない岩屋毅さんを忠臣・論功行賞として幹事長に据え、外務大臣に赤沢亮正さんを置く話はあるかもしれません。どっちにしろ社会保障改革はやらないといけないので(維新と組む前提でなくても)福岡資麿さんを厚生労働大臣から外して別の人をとなっても受け手がいるのかどうかよく分からない。

〇総裁選の場合

 これもちょっと良く分からないのですが、都道府県連や議員各氏との連絡をする限りにおいては、石破茂さんを支えようというところが割とあって、対抗馬如何では石破さん再選という話もあり得ます。その場合、保守派は党を割るんじゃないかとか、そういう話になる恐れもありますが、一番の問題は「石破おろし」の風を吹かせてはみたものの、じゃあ誰を次の総裁に担ぐつもりでおろしているのかと言われると高市早苗さんや小林鷹之さん茂木敏充さんぐらいしか見当たらない、というのが現状です。あんまピンとこなくない?

 で、石破さんは総裁選になっても降りることは無く出馬すると仰っているので、その場合は概ね自動的に林芳正さん小泉進次郎さん加藤勝信さんは出馬見送りでしょうからフルスクラッチ総裁選をやるなら割と石破さん強いんじゃないか? という感じもします。何より、今回の石破おろしに関しては、ロジックとして「3連敗した石破茂はちゃんと責任を取れというすじ論」と「支持率が低迷している石破さんでは勝てない」という話があるかと思うんですが、どっちも支持率が回復している現状で次も明確にならないうちから降ろしていいのかという稲田朋美さんらの話もまあそうなのかねとなる流れも考えられます。

 ……自分で書いていて悲しくなってくる展開ではございますが、概ねそんな感じなのでいろいろ厳しいなあと思います。ただ、忘れてはいけないのは「石破茂さんは自分から降りると言わないかぎり、今回の話を凌ぎきったら国勢選挙はあとまるまる3年以上やらなくて済む」ことです。岸田文雄政権もそうでしたが、支持率や抱えられる党内・政権基盤はともかく3年は割と長い。いろんなことができないわけではない、というのもポイントです。

 繰り返しいろんなところで話したり書いたりしてきましたが、石破茂さんというのは普通ではないので、本来ならば辞めるだろうというような障害があっても「これは神から与えられた試練なのだ」とか思って喜んじゃう面があります。また、水月会と同じように、本当に苦しいときには次々と策を弄するよりも閉じこもっちゃうお人柄なので、回りがいくら騒いでも無駄という面もあります。

 良くも悪くもビジョンを掲げてお前らついてこいというタイプではまったく無く、自分が信じる原理原則に対して忠実に、正直にあろうとし、しかし状況が許さないと結果的にあれだけ吐いてきた正論とは逆の行動をとらなければならなくなった結果、自分に対する最大の敵は正論を言い続けてきた過去の自分ということにもなります。なかなかむつかしいなあと感じるところもありますが、私の役割的には最後の一分一秒までお支えする前提でありつつ自分にできることは現段階ではもはや何もないのも事実で、とりあえず静かに8日の決着までは様子を見守ってまいりたいと考えております。はい。

・蛇足

 高市早苗さんが総裁になった場合に、公明党さんが連立から離脱して選挙協力が得られなくなることのほうが、石破茂さんのまま政権を存続させることよりもダメージが大きくなるので、公明党さんの話をもう少しよく聞いて前後判断したほうがいいよというのは強く感じるところです。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.488 自民党総裁選を巡る混乱に憔悴しつつ、経営破綻寸前な東電HDや著作権侵害で叩かれまくりなPerplexityについて触れる回
2025年9月3日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】おとぎの国の総裁選前倒し これはちょっとどうにかなりませんかね
【1. インシデント1】政治大混乱の横でひっそりと破綻に向かっている東京電力HDを助けて
【2. インシデント2】国内新聞3社が米Perplexityを著作権侵害で提訴した件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

メガブランドの盛衰からトレンドの流れを考える(高城剛)
「今の技術」はすぐそこにある(西田宗千佳)
私事ながら、第4子になる長女に恵まれました(やまもといちろう)
幻の絶滅鳥類ドードーが「17世紀の日本に来ていた」という説は本当なのか(川端裕人)
揺れる情報商材 違法化、摘発への流れが強まる(やまもといちろう)
2017年、バブルの時代に(やまもといちろう)
これから10年で大きく変わる「街」という概念(高城剛)
嗤ってりゃいいじゃない、って話(やまもといちろう)
miHoYo『原神』があまりにもヤバい件(やまもといちろう)
メルカリなどCtoCプラットフォームを揺るがす「隠れB」問題(やまもといちろう)
寂しい気持ちとの付き合い方(家入一真)
貧富の差がなくなっても人は幸せにはなれない(家入一真)
フィンランド国民がベーシック・インカムに肯定的でない本当の理由(高城剛)
夏の帰省に強い味方! かんたん水やりタイマーセット「G216」(小寺信良)
今年は「動画ゼロレーティング」に動きアリ(西田宗千佳)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ