やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

Googleの退職エントリーラッシュに見る、多国籍企業のフリーライド感


 このところ、Googleなど海外の多国籍企業の人たちが辞めるにあたり、その労働環境が如何によかったか、また、働き手として恵まれた報酬を得ていたのかを披露するエントリーが立て続けに出て、またそれを日本企業と見比べるという連鎖が起きていて興味深いです。

 非常に優れた人がより働きやすい環境を求めてGoogleなどの事業者の門を叩くのは自然なことで、そこを退職するにあたり本人が本当にそう感じたことをきちんとブログなどにまとめて対外的に発信することは貴重で、読んでいて「なるほど、きちんと技術者を遇するというのはこういうことなのだな」と思います。

 一方で、NTTコミュニケーションズでは開発現場にラグビーボールが飛び交うという謎のPR記事が出て、それを現職NTTC社員が技術者の立場からそのような経験はなかったと否定し、それを見た界隈がNTTCも否定した社員もみんな叩きに行くのを見ると修羅だなとも思うわけであります。なぜそこで叩いたり煽ったりする必要があるのでしょう。日々まったく煽ることのない私からしますと全く理解できません。

 Googleの転職話においては、幾つか興味深かった記事を例示するのですが、結構しれっと当たり前のように海外からの報酬が混ざっている記述があり、働いている当人からすれば当然すぎて書いちゃっているのが印象的です。

Google退職します|eqsan @xanxys_|note(ノート)

面白い要素として、給与の何割かはAlphabet社の制限付き株式ユニットなのですが、USの証券会社の口座に付与される(=源泉徴収されていない)ので否応なく確定申告する必要が出てきます。

 

Google を退職しました。そして Graffity という拡張現実の世界へ。

いかにしてわたしは Google に入社し、そして退職したか

★NTTを退職してGOOGLEに転職した若者の退職エントリについて思ふこと★

 これは海外での報酬を現物株式付与(RSU)にして取得すると、日本の各種社会保険料が調整されず、その分だけ報酬がかさ上げされる、という仕組みです。RSUってなんやねん、という読者の方は、それこそレッツGoogle。

 いろんな意見を見ていると、つまりはシリコンバレーの相場に近い形で日本人技術者が雇われ、ワールドワイドのGoogle基準での職場環境が作られているということで、技術者にとってもハッピーなのは間違いないでしょう。ただ、これらの話は総じて「Googleだから可能なこと」でもあり、つまりは日本ではきちんとした責任ある経営母体を設立せず合同会社として設立され、日本の健康保険や失業保険の一部を払わないAlphabet制限付き株式オプションで給料が払われていて、さらに源泉徴収の対象ではないので正確な収入が日本政府税務部門においては捕捉しづらい仕組みにしてあります。もしも、2,000万円に相当する報酬が支払われているのであれば、相応の社会保険料も含めた納付を行わなければならず、多国籍企業はそういうものを一切日本社会に支払わず、いいところだけ日本人を雇用して見た目の給料を引き上げている、という批判も出てくることでしょう。

 また、企業実務の世界では、政府のGAFA対策が花盛りになりつつありますが、公正取引委員会にせよ与党・自由民主党にせよ、きちんとした対策を打てるほどGoogleなど海外事業者との情報連携ができているようには見えません。説明しに来てほしいと言っても来ないのですから当然と言えばそれまでなのですが、ある意味で日本の裁判所の決定にも従わない場合もある海外勢からすれば日本政府の言うことなんて聞いていられるかという態度が見え隠れするのは非常に気になるところです。

 GAFA規制においては、画一的な法制化をうっかり行い規制を強化すると、このメルマガでも重ねて書いてきた通り罰則付きの規制をもろに被り、真面目に守らなければならないのは日本の事業者だけであって、海外にサーバーを立てて経営の実態も他国にある海外事業者はフリーライドになり国内事業者だけが不利になります。それを考えると、これから何を見込んでどう動きを取っていくべきなのかは、これらの退職者のなにげない、素朴な情報の発信からも充分に理解できる内容があるのではないかと思ったりもします。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.256 GAFAに象徴されるような多国籍企業のフリーライド感について語りつつ、保育士不足問題などから見える今の日本のあり方を考える回
2019年3月31日発行号 目次
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【0. 序文】Googleの退職エントリーラッシュに見る、多国籍企業のフリーライド感
【1. インシデント1】「保育士不足が深刻」に見る、どこに労働生産性が行ったのか問題
【2. インシデント2】プラットフォーマー解体論はどこまで本気なのか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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