※高城未来研究所【Future Report】Vol.510(2021年3月26日発行)より
今週は、広島にいます。
西アジアの文明の発祥とともに誕生したゾロアスター教の最高神、アフラ・マズダー(Ahura Mazda)に由来し、戦後、広島の基幹産業の一翼を担ってきた自動車メーカー「マツダ」および関連業者に、今週、激震が走っています。
というのも、経済産業省官僚だった広島県湯崎知事が、2050年までに「カーボンニュートラル」実現に向けて、「ゼロカーボンシティ宣言」をオンラインで対話した小泉環境大臣に、突如表明したからです。
「カーボンニュートラル」がパワーワードになったのは、米国バイデン大統領(民主党)に代わってからで、その理由はこのメールマガジンで何度もお話ししましたように、排出権利権が米国民主党のものだからに他なりません。
これは、マドンナやメタリカなどが参加した地球温暖化防止活動を促進する目的で、2007年に開催された世界規模のチャリティーコンサート「ライブアース」のため、米国副大統領だったアル・ゴアを撮影しオープニング映像を作った際に僕自身が強く実感しまして、当時は気がつかなかった「環境マフィア」の存在を目の当たりにして驚いた経緯があります。
たぶん20代の読者はご存知ないと思われますが、実は80年代まで「地球は、寒冷化する」といった類の書籍が山のように出版されていました。
しかし、突如90年代初頭から「地球は、CO2によって温暖化している」と、論調が180度変わったのです。
いったい、90年代初頭になにがあったのでしょうか?
それが、米国民主党クリントン政権の誕生です。
当時、米国に住んでいたこともあってよく覚えていますが、疲弊した(共和党利権の)石油や自動車、鉄鋼ではなく、情報、環境、金融などのニュービジネス(あたらしい民主党利権)に注力すると、大統領候補のビル・クリントンと副大統領候補のアル・ゴアは大々的に掲げて当選しました。
この流れが、今日まで続きます。
まず、黒字じゃなければ上場できなかった市場で、創業間もない赤字のIT企業が、それまで目立たなかった投資銀行とタッグを組み、次々と上場。市場から調達できない資金は、プライベート・エクイティ・ファンドなどが貸し手(レンダー)となり、M&Aが活発化。
こうして、情報産業と金融産業が表裏の関係になって「実態なき経済」が続きます。
そこで、環境利権も同じように巨額マネーに変えるため、「排出権取引」が90年代初頭に生み出されます。
クリントン政権発足まもなく、米国内で硫黄酸化物の「排出証取引」を開始。
これは、排出枠を下回った者がその削減分に付加価値をつけて排出枠を上回った者と取引する(つまりお金で解決する)あらたな制度で、米国は、このような実績から京都議定書の策定交渉時に「排出取引制度」の導入を強く求め、結果、「排出取引制度」は京都メカニズムとして組み入れられました。
ところが、米国では政権が共和党に代わり、また方針が180度変わって京都議定書から離脱。
一方、チェルノブイリ原発事故により甚大な被害を被った経験と、石油や天然ガスがほぼ採掘されない欧州では、グリーン政策が拡大します。
そして今年、米国で民主党が政権奪還した途端、再び「カーボンニュートラル」が声高に叫ばれはじめました。
「カーボンニュートラル」の目的は、地球温暖化防止のためだと言われていますが、前述しましたように、地球温暖化は人為的であるとされる説はクリントン政権誕生時から突如はじまったものであり、IPCC高官やNASAの研究者すらも、「地球温暖化が人為的だというのは、単なる仮説に過ぎない」と、様々なデータを提示し、著名で発言しています。
また、偶然の日程かもしれませんが、今月11日、東日本大震災および福島第一原子力発電所事故から十年たったこの日に、トヨタ自動車豊田章男会長は日本自動車工業会の記者会見を開き、「今のまま2050年カーボンニュートラルが実施されると、国内で自動車は生産できなくなる」と指摘。
単に自動車をEV化したり、排出権取引を使ってフラットにしても、自動車を走らせる電気がどのように作られているのか、一切注視していないことを議題として掲げました。
この会見は、日本中の自動車産業に携わる人たちに強いメッセージと疑念を与えます。
なにしろ日本の雇用者数5660万人中、10%弱の550万人が、自動車産業に雇用されているからです。
広島に本社を構えるマツダも、他ではありません。
経済産業省あがりの知事による突然の「ゼロカーボンシティ宣言」を、「中央政府の人気(と予算)取り」、「単なるパフォーマンス」、「マツダの雇用を考えてない」、「広島で原発を容認するつりか!」などと揶揄され騒ぎになっているのも無理はありません。
ちなみに経済産業省は、欧州と違って2050年の脱原発を明確に宣言しておらず、日本は原発再稼働を目論んだ「ゼロカーボン」であることは否めません。
果たして「カーボンニュートラル」は、DX同様、単なるバズワードなのでしょうか?
それとも、大きなシナリオに沿って、なにかに向かっているのでしょうか?
「米国がくしゃみをすると日本は風邪を引く」とはよく言ったもので、今後の環境政策の行方は、次期米政権次第で再び大きく揺れるだろうな、と平和記念公園で思う今週です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.510 2021年3月26日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
その他の記事
変化のベクトル、未来のコンパス~MIT石井裕教授インタビュー 前編(小山龍介) | |
「#どうして解散するんですか?」が人々を苛立たせた本当の理由(岩崎夏海) | |
「風邪のときは食べないで胃腸を休めなさい」は本当?(若林理砂) | |
秋葉原のPCパーツショップで実感するインフレの波(高城剛) | |
幻の絶滅鳥類ドードーが「17世紀の日本に来ていた」という説は本当なのか(川端裕人) | |
ワクチン接種の遅速が招く国際的な経済格差(高城剛) | |
「Googleマップ」劣化の背景を考える(西田宗千佳) | |
クラウドの時代、拠点はシリコンバレーからシアトルへと移り変わるのか(高城剛) | |
ドーパミン中毒からの脱却をめざして(高城剛) | |
ヘッドフォン探しの旅は続く(高城剛) | |
LINE傍受疑惑、韓国「国家情報院」の素顔(スプラウト) | |
iPad Proは何をどうしようとしているのか(小寺信良) | |
週刊金融日記 第277号 <ビットコイン分裂の経済学、ハードフォーク前夜の決戦に備えよ他>(藤沢数希) | |
少子化問題をめぐる日本社会の「ねじれ」(岩崎夏海) | |
『寄生獣・完結編』の思わぬ副産物/『幕が上がる』は和製インターステラーだ!ほか(切通理作) |