Twitterでふらりと10増10減と国替えについて書いたところ、ジャーナリストや経済学者の皆さまなど大物が次々と言及、またDMをくださいまして大盛況になりました。ありがたいことです。
政治的により強いポジションを狙う自民党大物参議院議員は3名おりました。うち1名、山本一太先生は私がうっかり撃ち落としてしまった齋藤ウィリアム浩幸さんを自民党に連れてきてしまった人物として一足先に党内で失脚し、そのまま群馬県知事に転戦され、総理になるような夢は断たれてしまわれました。私もその過程ではいろいろと嫌な思いもしたわけですが(山本一太さんご自身は立派に対応されましたが)、いま振り返れば良い思い出です。
他方、山口2区に転戦予定の林芳正さん、同じく和歌山3区でコスタリカを仕掛ける世耕弘成さんは、いずれも自民党内での声望も高く、条件が整えばいずれは主要閣僚やがては総理大臣にという途中で、どうしても参議院議員から衆議院議員へ転出しなければなりません。なかなか大変なところですが、いまが踏ん張りどころです。
というのも、今回総務省から出た一票の価値を2倍以下にする選挙区区割り改正案が出まして、当初の予測通り10増10減で決まりそうです。前回は0増6減で定数単純減となった一方、今回はなかなか騒ぎになりそうな内容になっています。
地方の大幅な人口減少もあり、一人一票の格差を減らすためにはやはり都市部への議席変更は必須となり、総務省衆議院議員選挙区画定審議会では国政調査の結果に基づいた都道府県ごとの議席数の変更を行うわけですが、岸田文雄さんのお膝元の広島、安倍晋三さんの山口、二階俊博さんの和歌山、いずれも小選挙区で定数減、中国地方は比例も1議席減となります。
ここで問題になるのは、河村建夫さんの出る山口3区で林芳正さんが自民党を離党してでも立候補を強行しようとし、本来ならば河村建夫さんのご子息が自民党公認で出馬し河村建夫さんは年齢引退するところをご自身出馬にならざるを得ないのではないかという流れになっているところ。
保守分裂どころか自民で割れることになるわけですけれども、そもそも林芳正さんは引退する故・佐藤信二さんの後継候補として2005年に山口2区から出てれば何の問題もなかったのが「事情もあって」出馬を見送り、これまたのちに岩国市長に転出する福田良彦さんが自民の議席を回復するまで山口2区は民主党・平岡秀夫さんに奪われておりました。
その後はご存じ安倍晋三さんの弟・岸信夫さんが奪還し、山口は安倍晋三・岸信夫兄弟、河村さんと高村正彦さんのご子息正大さんとで4つの議席を自民で占めることになったわけであります。
ところが、その山口の4つの議席が次の次の選挙でほぼ間違いなく合区になりますので、仮に林芳正さんがいま離党して河村さんに勝てたとしても、次の選挙はおそらく4区の安倍晋三さんと3区の林さんとはかなりの地盤が重なることが予想されます。もしも自民党に復党前提であるならば、せっかく山口3区で勝っても東京や神奈川へ「国替え」を強いられる恐れがあり、戦後最長の就任期間を誇る宰相を相手に厳しい戦いをしなければならなくなります。大丈夫なのでしょうか。全然大丈夫じゃねえと思いますけれども、大丈夫じゃないんだろうなあ。
なもんで、後継を目している河村さんご子息については林さん転出で空く参議院転出でコスタリカ方式はどうよという話も最初はあったみたいですが、そもそも山口が案の定1議席減になりましたので椅子取りゲームの原理で安倍晋三さんの引退でもない限り林さんに椅子が転がり込んでくることはちょっと考えづらい状況です。山口1区の高村家に突撃でもしますか?
コスタリカ方式が同じく暗礁に乗り上げたのは和歌山の世耕弘成さんも同じです。経産省内はともかく地元にも党内にもあまり好意的に迎える人がいないとされる世耕さんと、ご子息(ご三男)への地位禅譲を目指す幹事長・二階俊博さんとの間で和歌山3区どうしようというのが再燃しております。おそらくは世耕弘成さんは衆議院への鞍替えは今回は行わないといういい子ちゃんで終わるという観測が強いですが、なんかまだグズグズしとるようです。
和歌山1区でどうよというと、国民民主党の岸本周平さんがおり、政党としては支持率1%未満でも岸本さん自身は選挙にはやたら強く、過去何度か調査をかけた限りでは世耕弘成さんが和歌山1区で立候補をしたところでなかなか勝てないのではないか、と言われているさなかに和歌山合区の話が出ました。大変なことやと思うよ。
和歌山2区は自民党無派閥(元山崎派)の石田真敏さんで、和歌山叩き上げの自民党党人派でまだ65歳なので降ろしようもなく、次の次の衆議院選挙で仮に二階世襲or世耕さん衆議院鞍替え問題が決着したとしても自民自民岸本という争いになって実に駄目な雰囲気になります。世耕さんも大人しくしていれば衆議院議員の場所が巡ってくるという環境にはおそらくならないため、こちらも結果として東京や神奈川に早めの国替えをして地盤を作り名前を売っていくしか方法はないのではないかと目されます。
また、おそらくさらに次に合区が予想される愛媛でも塩崎恭久さんの引退とともに御子息が出馬の予定で、いわば自民党の世襲政治というのは地方に人口が維持されて初めて地盤が引き継げる構造なのだということに気づきます。2050年まで社会保障人口問題研究所の人口予測で見ると都道府県そのものをまたいで合区があり得る鳥取島根と秋田山形、大分長崎、福井石川もさることながら、そもそもが小選挙区をいまの選挙制度のまま比例代表併用で進めていっていいのかという議論は今後出てくるでしょう。
それを進めようにもいまの菅政権が仮に小池政権になるのだとしても、選挙制度改革をいまから手掛けて着地するのは2028年以降になるとみられることから、いろんな意味で都道府県制度、選挙制度そのものを揺るがせつつしばらくはこのままでいかざるを得ません。かといって、中選挙区制に戻すとしても一人一票の枠組みで変えないのだとしたらいまの比例ブロック制のような広い選挙区で(例えば中国選挙区定数18とか)やるしかないのかもしれません。
いずれにせよ、政治は大都市圏中心のものになりますが、ここで気になるのは好調な都市と不調な都市とで分断が進むであろうことです。端的には首都圏と愛知、福岡は勝ち組、近畿圏と仙台札幌広島は負け組として分裂が進み、非常に脆弱な政党政治が危ういバランスを取りながら選挙を繰り広げる未来予想図にならざるを得ません。今の小選挙区制度は少ない得票の差でも議席配分を大きくすることが特徴でしたが、泡沫政党がワンイシューで議席を確保するような流れになると、ドイツのような小規模政党も数合わせのために連立与党入りする仕組みへと変わらざるを得ません。
それでも大正義自民党と反自民の綱引きによる政治は続くのかもしれませんが、怖いのはちょっとしたカリスマが出てきて政治を席巻したとき、旧民主党政権のような地獄の数年間を国民が味わい、そのタイミングで米中対立が激化すると本当に国難だよ、これで大丈夫なんですか、ということなんですが。マジで。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.Vol.337 衆議院小選挙区の区割り改定がもたらす混乱をあれこれ予想しつつ、馬鹿は早死にするという切ない現実や世界の中銀どうなってるのという話をする回
2021年6月30日発行号 目次
【0. 序文】次々回衆議院選挙10増10減の恐怖と有力政治家国替え大作戦の今後
【1. インシデント1】 「馬鹿は早死にする」コロナがある程度証明する人間社会のリアルの切なさ
【2. インシデント2】ECB総裁が推し進める「グリーン投資」への違和感と中銀機能の膨張
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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