東京都内の感染者数だけで4,000人の大台に乗りまして、また、8月中の都内感染者の予測が中央値でも1万人を超えそうだという流れになりました。結構大変なことだと思うのですが、先日別件でオリパラ関係の責任者に呼ばれて会議に出席したところ(それもリアル会議)、冒頭から「感染者の増大は想定の範囲内で、特段の問題を感じていない」と宣言され、じゃあ何のために私はこの会議に呼ばれたのだろうと不思議に思った記憶がございます。
とはいえ、海外からも日本のコロナ感染症に関するアウトブレイクはそぞろ話題になり、個人的には日本よりもはるかにスコアが悪く死者も沢山出している諸外国が日本のことを言えた義理かよと思うところもある一方で、五輪の開催が感染機会を増やさないと発表していた日本の大本営は事実上嘘をつき続けてきたと批判されても仕方のない局面になってしまいました。まあ、実際嘘ですからね。
妥協として、政治的には「オリンピックは無観客で」という着地になったのは、皆さんの記憶にもおありかと思います。それまでは、オリンピックの完全な通常開催を悲願としてきた前総理の安倍晋三さんの意向を受けて、強い意志で通常開催方針でのゴーを出したがっていた菅義偉総理官邸の方針もあったわけですけれども、開催前からすでに増え続けているオリンピックが通常開催という落としどころにできるはずもありませんでした。
本来なら、東京オリンピックを開催できただけで良しとなったところが、概ねの国民からすると「オリンピック開催して、まずは良かったのではないか」という世論になっているようで、政府も若干「ほらみろ、開催できたら国民もみんな盛り上がって喜ぶだろ」と勇み足をし始めるのは日本ならではのことなのでしょうか。
そして、冒頭にもあります通り、かなり本格的にコロナ感染者の数が増えてきて、高齢者向けのワクチン接種がひと段落したところでなおこの数字ですので、40代以下の若者を中心に感染が拡大している状況になると、たとえ若い人の重症化率は低いと言っても感染者数全体が増えてしまうと若者の重症患者が増えて医療逼迫にいたるのは当然のことであります。
ワクチン接種が遅れている問題もあったのですが(実際ワクチンが手当てできている9月末までにどれだけ2回接種の国民を増やせるかはそれなりに絶望する展開にはなってきています)、オリンピックを挟んで、どうやら「ワクチンさえ2回打てればどうにかなる」とは言えない状況になりそうだ、ということまでは分かってきました。
一番恐ろしいのはワクチン接種者でもどうやら重症化はしないまでも感染はするだろうということで、それも一定の割合でワクチン接種者も発熱やせきなどの症状と共にウイルスのキャリアとなり、場合によってはスプレッダーに簡単になってしまう、それによって感染者数も拡大していくだろうということが明らかになった点です。
2月ぐらいまでは、ファイザー&ビオンテック社のワクチンは2回接種後10日ほどで9割近くが感染そのものをプロテクトできる、という触れ込みでした。ワクチンさえ打てばこの戦争には勝てると判断し、接種推進のアクセルを踏みオリンピック開催に漕ぎ着けようとした当時の菅官邸の判断は(当時としては)決して間違っていなかったと私は思います。何よりもまずワクチン接種を潤滑に行い、しっかりと国民に行き渡らせることで死者数を減らし、医療体制を護持しようというのは一部においては奏功したので、いまの感染者数の急激な拡大にもかかわらず、高齢者の重症者、死者は非常に少なく抑えられています。これは、安倍前政権から菅現政権までの関係者の努力によってうまくいった事案のひとつと認識して良いと思います。
ところが、5月以降になって、イスラエルのメタアナリシスでどうやらワクチン2回接種しても感染そのものを防ぐ確率は4割程度で、接種を終えてもキャリアにはなるようだ、という結構な問題が後から確認されてしまいます。イスラエルでは60歳以上の接種済み国民もブースターとして3回めの接種を実施するという方針に変更、アメリカでも接種修了者はノーマスクで良いという4月の方針を取りやめ、マスク着用を再度推奨する方針に転換しました。世界はワクチンによる対コロナ戦争勝利の思惑から、一気に長期戦の趣にギアチェンジしたことになります。
そうなりますと、海外からのアスリートや関係者を呼んで運動会をやるどころか、そもそもこのタイミングで感染拡大をさせては駄目なのだ、根絶ができなくなってしまう恐れがあるのだという別の問題を孕むことになります。長期戦になればなるほど、ワクチンを含めた医療体制の電子化や合理化、定期的にワクチンを打てるだけの調達体制の制度化、感染拡大局面における統制手段の厳格化・ロックダウンも含めた私権の制限といった議論も広く行われなければなりません。
とは言えども、いまさら東京オリンピックを中止したところで大会期間もあと10日間、中止して帰国準備をしてもらったところで五輪中止の感染拡大に関する意味は乏しく、野党が外野で何を言おうとも五輪中止は無理な相談だし効果もないということになります。
そして、8月24日に開幕する東京パラリンピックのほうを中止する可能性が出てきます。なにぶん、パラリンピックは身体障碍者が競技で順位を競う性質のものですので、いかんせん介助や手当など選手一人あたりにかかる関係者の人数が多くなります。必然的に、緊急事態宣言下であるにもかかわらず月内で感染者数が東京だけで一日1万人規模で発生するとなると、国民世論として中止をしなければならない決断を菅総理が下す可能性は否定できません。
現段階では、もちろん菅義偉さんもオリンピックもパラリンピックも予定通り開催するという方針に変更はないと言っています。立場上、決断したそのときまで開催すると言い続けざるを得ないのは間違いありませんが、オリンピック閉会式が行われる8月9日のあと、一両日中に中止が決定されるのではないかと見られています。感染者数の発表は曜日によって差があり、もっとも多くなるとみられる8月10日の数字があまりにも悲惨であるならば、国民世論がもたないと判断せざるを得なくなるからです。
中止を判断しなければならない理由の最たるものは、菅義偉さんのお膝元である横浜市長選が8月22日に控え、横浜カジノ構想を巡る一大論点がどう転ぶのか分からないという点です。事前調査では相変わらず元市長・林文子さんの支持は高そうですが、なにぶん候補者が9人も乱立したため、一回の投票では決まらないのではないか、と見られています。
そこに来て、感染者が超増大しているところでパラリンピックをやっていますという状況が重要な市長選に良い影響を及ぼすはずもなく、さすがにマズいだろうということで懸念が広がっています。
ただでさえ国難とも言える状況で菅政権の状況が芳しくない中、パラリンピックをやれる状況にないと言われればその通りですが、問題は「五輪中止」を叫んできた野党の運動が、パラリンピックだけ中止になりましたといったときにどういう反応を示すのかです。
あまり言うべきことではないのでしょうが、国民からするとパラリンピックは行事として大事と思う一方で、パラリンピックにはほとんど興味がないのです。ある種の偽善、表向きやろうというだけで、イベントとしての価値はないと思っている政治関係者やイベント関係者は少なくなく、スポンサーが東京五輪から距離を取り始めている現状で「(国民の健康や生命のことを第一に考えるのならば)違約金を払ってでもパラリンピックは中止するべき」という議論になるのも致し方のないところです。
悩ましいところですが、そもそもは五輪をやるべきではなかったけど強行した結果、緊急事態宣言にもかかわらずお祭りモードで外出が減らず人流が少し増えてしまっている状況でこれは厳しいなあと思います。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.Vol.340 パラリンピック開催の行方を占いつつ、さらなる携帯電話料金値下げ、中国系ファンドの国内土地買い漁り問題などを語る回
2021年8月1日発行号 目次
【0. 序文】パラリンピック「中止」の現実味と、五輪中止運動のこぶしの下ろし先
【1. インシデント1】さらなる携帯電話料金値下げを謳う菅義偉さんの思惑やいかに
【2. インシデント2】マネロン対策&日本の土地を中国系ファンド買い漁り問題に政府委員が深く関与
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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