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パーソナリティ
内田 樹 Uchida Tatsuru
平川克美 Hirakawa Katsumi
<前回の最後の部分>
平川:生きている商店街には「必ずあるものがある」んだよ。なんだと思う?
内田 銭湯だろう?
平川 銭湯じゃないんだよ。
内田 神社仏閣?
平川 違う。団子屋なんだ。
内田 団子屋!?
平川 そう。団子屋がある商店街は生き残っているんだよ。結局ね、団子屋があるとお茶屋もあるんだよ。つまり老人ですよ。生きている商店街では、老人たちが生活していて、ちゃんと出歩いて団子を買っているということなんだよね。まさに定常経済でやっているんだよ。
内田 なるほど。
平川 じゃあ、衰退した双葉町の商店街では何が起きているかというと、マンションが建っているんですよ。多分どこかのタイミングで地上げがあったんだろうね、商店街の中にマンションがポンと建つ。実はマンションの住人というのは、商店街で買い物をしない人たちなんだよね。会社帰りに駅前のスーパーで必要なものを買って家に帰る。つまりライフスタイルがまったく違うんですよ。そこに住んでいるようでも、ただ寝場所を確保しているだけで、町のなかで生活はしてない。つまりさ、大型スーパーが入ってくるから商店街が寂れると思っていたわけだけど、そうじゃないんだよ。大型スーパーが入っても、商店街が強いところは大型スーパーを駆逐するんですよ。
内田 へぇ。
平川 御嶽山の商店街なんかもそうなんだけど、みんなスーパーには行かないで商店街で買ってるよ。確かにジャスコのほうが品揃えがよくて安い。だけど、町中にある中堅・小型のスーパーでみんな買いものをするんですよ。住人が違うんだね。マンションができちゃうと、そこにいる人たちはもう、“我が街”じゃないんですよ、寝に帰るだけだから。だからライフスタイルの違う人たち、つまり定常志向じゃない、成長型のマンションの人たちが入ってきちゃうと商店がドンドン潰れる。これは顕著だよ。
<今回はここからです>
3000人が27件の飲み屋を支える町
内田 僕が興味深かったのは、うちの寺子屋ゼミで、今期は毎週発表をやっていて、大学生が二人しかいないんだけど、その二人ともが商店街の発表だったんだよ。
平川 もうそこにしか興味の向くところがないんだよ。
内田 和歌山の子が、“なぜ和歌山の中心街にあった商店街は潰れたのか?”ということをフィールドワークしてきて。今日の子は、さっきの阪大の石橋の商店街で、四年間ずっと商店街のなかに定住して活動している子で、自分がなにをやっているかはよく分からないまま、寺子屋に導かれるようにきちゃった話で。
平川 僕らが小学校に上がる前は、もっと商店街は栄えていたわけね。当時の写真で見ると、「こんなに栄えていたんだ」と思うものが、マンションが建っていくとこれだけ寂れちゃう。それを考えていくと、やっぱりアメリカも60年代・70年代は、一旦産業革命で広がった貧富の格差が再び歩み寄った時代で、一番ミドルクラスが厚かったんだよね。ケインズ政策をどんどんやることによって、いわゆる貧富の格差が縮まって、“グッドオールドデイ”ができあがってくるわけじゃない。よく、昭和30年代を“ノスタルジー”と言うけど、あの頃の感覚は、確かに右肩上がりだったんだけど、貧富格差が広がっていないんだよね。そういう意味で言うといま起きている二極化というのは、相当に社会全体が完全に崩壊へ向かって行くような方向にあると。
内田 そのね、どうも直感的に若い人達が、これから就活に身を投じても、そこで身をすり減らしてボロボロになって、3年ぐらいで退職してしまう未来がハッキリ見えてしまうので、身体が成長モデルに拒否反応をしているんだよね。「無理です」「そこまで付いていく自信がとてもありません」と。まあ、その商店街をやってきた子は、商店街をやってきた癖に4月からは外資系のコンサルティング会社に入るんだけどさ(笑)。
ただ、就職の面接でやっぱり僕が言った通りのことを言われたって。「お前は明日から海外勤務と言われたら、即行けるか?」と。やっぱり言われるんだね。まあその子は、ちょっとそういうことも、やってみたいみたいでね。だけどその子たちが直感的に定常経済というものに興味を持って、商店街というのは彼らが知っている唯一の、“成長しなくても食っていける”という証しなんだよね。
平川 なるほど。
内田 でね、そのときにいくつか話をしたんだけど、凱風館を建てた中村工務店というのは、岐阜県の加子母という所に本社があるんだけどさ。加子母という所は人口3000人の小さな所なんだけど飲み屋とかが27軒あるんだって。つまり100人で一軒支えていて、お客さんがグルグル回って、全部の店に客が入っているわけ。これも最適化したら多分2〜3軒でいいはずなんだよね。
平川 根本に自然の恵みがあればさ、それを原動力としてとにかく回していればいいんだから。
内田 27軒をグルグル回して、みんなが支えているんだよ。
平川 大本に農業がなければ駄目だけどね。
内田 うん。でもみんなが支えているんだよ。結局、「こんなになくてもいいじゃないか?」じゃなくて、「“やりたい”というなら、“なんとか回してやるよ”」と、「食いに行ってやるよ」と、「ちょっと不味いけど食いに行ってやる」と、そういうのがないと、27軒は保たないと思うんだよね。
平川 それはそうだろうね。
内田 それがやっぱりね、やっている人たちが、そういうモデルにかなり強い対抗文化というか意識を持っていて、加子母の場合なんかは、「加子母から発信して、こういう風な生き方があることを日本中に知らしめたい」と。その中島工務店の中島社長なんかは、「もう電気は要らない!」なんていうことを言っている人なんだけどね。
平川 面白いね。
グローバリズムで到来する平等社会
内田 あと面白かったのは、つい1、2週間前に、『ターンズ(TURNS)』(TURNS 雑誌 第一プログレス刊)という雑誌の取材が来たわけ。『ターンズ』ってなんの雑誌かと思ったら、都市住民の若い人向けに、田舎の不動産情報と就職情報をまとめた雑誌なんだよ。「田舎で生きるというというのは、こういうことができますよ」というノウハウとかを載せていて、半年くらい前にできたんだって。
平川 いまどんどん田舎に帰っていっているんだよね、若者は。
内田 それで「何万部出てるの?」と訊いたら「一応刷っているのは8万部」だと。実売は4万だと言うんだけどさ。都市部で田舎に住むところや就職を探している人が、とりあえず、「こういう雑誌がある」と気がついた奴が少なくとも4万人いると。
それってやっぱり若い人達が「こういうのにニーズがあるかな?」とポッと作ったりしているんだけどさ。僕ね、やっぱり本当に新しいニーズが実はできてきていると思うんだよ。大手のマスメディアは、そういうトレンドがあることを理解していないけど、<この続きはメルマガ「大人の条件」Vol.109に掲載しています>
内田樹&平川克美「大人の条件」
Vol.109
2015年5月31日号目次
★01 内田樹と平川克美の<読むラジオ>
第64回<金は全人類を発狂させたすさまじい発明だった>
★02 プレイバック<内田樹の研究室>
第66回 2003年5月4日日記<性同一性障害について考える>
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復路の哲学 されど、語るに足る人生
日本人よ、品性についての話をしようじゃないか。
成熟するとは、若者とはまったく異なる価値観を獲得するということである。政治家、論客、タレント……「大人になれない大人」があふれる日本において、成熟した「人生の復路」を歩むために。日本人必読の一冊!!
<内田樹氏、絶賛!>
ある年齢を過ぎると、男は「自慢話」を語るものと、「遺言」を語るものに分かれる。今の平川君の言葉はどれも後続世代への「遺言」である。噓も衒いもない。
平川克美 著
2014年11月28日刊行
四六判・244ページ
定価1600円+税