高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

怪しい南の島が目指す「金融立国」から「観光立国」への道

高城未来研究所【Future Report】Vol.240(2016年1月22日発行)より

今週は、英国領ヴァージン諸島のゴルダ島にいます。

世界には「怪しい南の島」とそうでない島がありまして、その怪しい理由は、複雑な国境を持つ地域だったり、金融サービスが主産業な島なのですが、BVIと略称で呼ばれる英国領ヴァージン諸島は、その「怪しい南の島」に含まれています。

欧州で言えばキプロスが典型的な「怪しい南の島」で、いわゆる南の島にバカンスで訪れている幸せな家族や楽しそうなカップル、風変わりな一人旅行者などとは明らかに違う、普段、南の島では見ない人たちをあちこちで見かけます。
それは恰幅が良い男性だけのグループで、一見金持ちそうなのですが、物腰は穏やかではありません。
そのような人たちが、ここBVIに相当数いるのです。

なぜなら、この島の主産業は表向きは観光業と言い張ってはいるものの、実際は租税回避、いわゆるタックスヘイブンのオフショア地として世界的に名が知られている南の島だからです。
英国のシンクタンクの発表によれば、世界第40位の金融センターと評価されており、その「秘密の蜜」を求め、この島には続々と怪しい人たちが集まっています。

このBVIのライバルは、北米の金融業者が主に利用していたケイマン諸島だったのですが、リーマンショック以降、租税回避を防ぐため、FATCA(外国口座財務コンプライアンス法)と呼ばれる米国発の租税回避条例を次々と結び、それまで租税回避=オフショアとして名を馳せていたケイマンやバハマは、窮地に陥ることになりました。

一応、表向きこのBVIもFATCAを米国と締結していますが、この島はケイマンやバハマのような米国にあっという間に吹き飛ばされる独立小国家ではなく、英国領である、というところがポイントです。
それゆえ、表向きは米国とクリーンな関係を持ちながら、裏では英国金融機関のオフショアとして、今日も粛々と機能しています。
それどころか、ケイマンやバハマからさらにここへ租税回避する人たちも多く、結果、現代のカリブの海賊のお宝を預かる随一の「怪しい南の島」として、発展してきました。

しかし、このBVIも世界的な厳しい風当たりにさらされているようで、大きくは金融サービスを表看板にすることはできません。
それゆえ、急速な観光業へのシフトを行っていますが、いきなり「金融立国」から「観光立国」に変わることは、現実的に難しいものです。
それゆえ、近隣の本当の「観光立国」のサービスに比べると、ホテルにしてもタクシーにしても、遥かに劣る現状があります。

この教訓は、多くのオフショアと呼ばれる租税回避地域にも同じことが言えます。
ですが、急速な変化を受け入れることができない場合は、いままで以上にさらに「怪しい南の島」として暗躍するしかありません。
さて、BVIは大英帝国の庇護のもと、「観光立国」になることができるのか、それともさらなる「怪しい南の島」となっていくのか。

いまBVIは、その岐路に立っているのは間違いありませんが、島を闊歩する南の
島に似つかわしくない人たちが多いことをみると、どうやら「観光立国」への道
は、まだまだ遠そうです。

 

┃高┃城┃未┃来┃研┃究┃所┃【Future Report】

Vol.240
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/ 2016年1月22日発行 /

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. マクロビオティックのはじめかた
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

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高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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