『繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史』
[著]マット・リドレー (著), 大田直子 (翻訳), 鍛原多惠子 (翻訳)
(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
http://goo.gl/ORLxjx
この本は、副題がすべてを語っていますね。こういう、欧米の優秀な人が書いた、ジャンル分けされていないおおきな歴史の通史って本当におもしろいですね。最近で言えばジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』が流行りましたけど、あんなふうに人類の歴史を1つの観点でズバッと切るという本です。これは基本的に人類がこの10万年の間にいかに豊かで平和で安全になったかということを、数字を挙げて証明しているんですよ。
例えば、こういうのがあります。1790年代、今から220年ぐらい前には、イギリスの普通の人は、自分の稼いだ分の4分の3、75%を食べ物を買うことに使っていた。そして残りの25%を家賃にあてたり、洋服やお風呂に入る石けんなんかを買ったりしてなんとか暮らしていた。ところが今、ぼくたちは食費に75%なんて絶対に使わないですよね。
エネルギーの事情についても書いてあります。昔は「熱を生み出すこと」が仕事だった。森に入って薪を拾ってくる。山の中に入って石炭を掘ってくる。そのために、1日のほぼすべての労働を使わないといけなかった。ところが今はコンセントに差し込むだけで電気が出るじゃないですか。「どんどん時代が過ぎるに従って格差が開き、世の中は悪くなっている」って言う人もいるかもしれないけれど、実際には、この10万年間で人類は絶えず良くなってきたということを数字で証明している本なんです。
みんなが「本当に悪くなった」っていう青少年犯罪でも、戦後70年間で今が一番安全になっています。殺人も少ない、誘拐、暴力事件も本当に少なくなりました。今日本はすごく治安がいいんですけれど、「若者は怖い」とか「青少年犯罪がひどいんだよ」と、言っている人もいますからね。そういうのを数字を挙げて訂正している本です。おもしろいですよ。
この本の英語のタイトルは『Rational optimist』なんです。理性的な楽観主義者ということですね。要するにちゃんと数字で考えれば、誰でも合理的に楽観主義になるんだっていうことを、環境面、人口爆発、貧困、温暖化など、あらゆる面から証明していくんですよ。こういうことは、特にイギリス人はうまいですね。この筆者もイギリス人の学者で、スタートが『The Economist』というイギリスの経済誌の科学記者なので、いわゆるサイエンスライターなんですね。
イギリスって日本と一緒で大陸から離れた位置にあって、ヨーロッパ全体の通史を観察する立場にあるので、世界をバッと俯瞰して見るんだよね。物事を一瞬で見る目みたいなのがあるので。それはぼくたち日本人にとっても大事なことではないですか。今は国内のことにばかり目を向けていますけど、日本人はもっと世界をよく見た方がいいですよね。
今回の株安とか円高に関しても、日本の中だけでどうやっても動かないようなことでトラブルになっているので、やっぱり世界の見方が分からないと、今の時代は厳しいですね。今日目の前の問題も分かりにくくなると思った方がいいと思います。『繁栄』はもう文庫にもなっていますし、オススメです。ハヤカワ・ノンフィクション文庫は、いい本がいっぱいありますね。
『繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史』
[著]マット・リドレー (著)、大田直子 (翻訳)、 鍛原多惠子 (翻訳)
(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
http://goo.gl/ORLxjx
石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』
2016年3月25日 Vol.018 目次
00 PICK UP「ミスをすると落ち込みすぎてしまいます」
01 ショートショート「土曜日の読書会」
02 イラとマコトのダブルA面エッセイ〈18〉
03 “しくじり美女”たちのためになる夜話
04 IRA'S ワイドショーたっぷりコメンテーター
05 恋と仕事と社会のQ&A
06 IRA'S ブックレビュー
07 編集後記
大好きな本の世界を広げる新しいフィールドはないか? この数年間ずっと考え、探し続けてきました。今、ここにようやく新しい「なにか」が見つかりました。
本と創作の話、時代や社会の問題、恋や性の謎、プライベートの親密な相談……
ぼくがおもしろいと感じるすべてを投げこめるネットの個人誌です。小説ありエッセイありトークありおまけに動画も配信する石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』が、いよいよ始まります。週末のリラックスタイムをひとりの小説家と過ごしてみませんか?
メールお待ちしています。

http://yakan-hiko.com/ishidaira.html
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