岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

教養の価値ーー自分と世の中を「素直に見つめる」ということ

※岩崎夏海のメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」より

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「自分を客観的に捉える」ことの難しさ

自分に素直になるということは、もう一人の自分を持って、自分を客観的に見ることによって果たされる。自分を客観的に見ることができると、自分の弱点が見えるから、それをあまり出さないようにできる。それと同時に、自分の長所も分かるから、それを上手く出せるようになるのだ。

そういうふうに、自分の長所や短所が分かると、さらにその奥にある、自分の素直な思いというものを知ることもできる。自分の素直な思いとは、自分が何に価値をおいているか、ということだ。自分が大切に思っていることは何か。自分にとってのプライオリティが判別できるようになるのだ。
 
ここまでして気づくのは、人間は、自分のことが案外分かっていない——ということである。それはまた、ほとんどの人間は、自分のことが分かったつもりでいる——とということでもある。
 
ぼくは30歳のときに、その視点を得ることができた。ぼくを含めた多くの人間が、自分のことを分かっていない。だから、自分のプライオリティも分からずに、自分にとってだいじではないことに汲々としている。いうならば、自分に騙されたような状態であるのだ。

「多くの人は自分に騙されている」という知見を得られると、当たり前の話だが、「自分もそうかもしれない」という思いを抱く。そうして、謙虚になれるのだ。今の自分の思いというものを素直には信じなくなる。そうして、その奥にある本当の自分というものに気づけるようになる。

自分の奥にある本当の価値を知るということは、ぼくにとっては心が洗われるような体験だった。それまでは気づかなかった、度の強いメガネを外したような気持ちだ。心が晴れ晴れとし、とてもすがすがしい気分が得られる。
 
 

知らず知らず生じた心の曇りや
ピントのずれを修正するのに必要な「教養」

人間は、誰しも自分を媒介に世の中を知覚している。自分の目や耳やその他の機関を使うのはもちろんのこと、自分の心を通して事象を把握している。だから、その肝心の五感や心が曇っていると、世の中を正しく認識できないのだ。
 
自分を知るというのは、いうならばその五感や心がどれだけ曇っているかを知るということである。
 
そしてそれを知ることができれば、その曇りを可能な限り取り除くことができるので、これまでよりクリアーに、自分も含めたこの世界そのものを認知できるようになるのだ。

ぼくは、これがおそらく悟りと言われているものの一種だと思う。ぼくは30歳のときと37歳のときに、二度この悟りに近い境地を得た。振り返ってみると、そのいずれでも気づかされたのが、自分の用いていた機関が機能障害を起こしているということだった。どこかピントがずれているということだ。

それに気づけたことによって、ぼくはそれを修正することができたのである。そうして、自分を含めたこの世の中をより正しく、より率直に認識できるようになったのだ。
 
ぼくは、教養というものは、この「自分を知る」ということの目的で身につけるものではないかと考えている。
 
なぜなら、自分の五感や心の曇りを感知することができたのは、教養というものの大きな助けがあったからだ。教養を得れば得るほど、ぼくは、世の中のいわゆる教養のある人たちが認知している世界と、ぼくの認知している世界にずれがあることに気づかされた。そして、最初のうちはまさか自分の五感や心が曇っているとは想像できなかったから、ずれている理由が皆目見当がつかなかったのだが、教養を積み重ねるうちに状況証拠が固められていって、とうとうそれを結けるまでに至ったのである。

そうして、それに気づいてから自分の五感や心の曇りを取り除いた状態で再び世の中を見てみると、それはいわゆる教養がある人々が見ていた世界と同じだった。その時点で、ぼくはそれまでの自分が誤りであったということを確認もできたのだった。

その意味で、教養とは人生の道先案内人のようなものだ。おそらく、ほとんどの人は自分の五感や心が曇ることを避けることができない。しかし、それでは具合が悪いので、そのことに気づき修正する必要があるのだが、そこで最大の助けとなるのが教養なのだ。


教養は、いうならばピアノの調律のような役割を果たす。それがなくてもピアノを弾くことはできるが、それがなければ良い音楽は奏でられない。

つまり、教養がなくても生きることはできるが、良い人生を生きることはできないのである。

 
 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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