※岩崎夏海のメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」より
堀江貴文さんが書いたこの記事を読んで、強くインスパイされた。
何が書いているかというと、堀江さんの知人の旅館や飲食業の方々が、非常に短い労働時間で大きな利益を上げ、余った時間を勉強や遊びなどインプットに充て、いい循環を生み出しているという話である。
この話は、ぼくの実感とも深く通じる。近頃、とみに働く時間が短くなった。かといって、仕事がなくなったわけではない。アウトプットは、むしろ以前より増えている。前よりも短い時間(感覚としては半分以下)で、以前の1.5倍くらいの量をこなしているのだ。
なぜそれが可能になったかといえば、ネットに代表される各種の新しいサービスを使っているからだろう。あるいはスマホなどの最先端機器を駆使している。それで、ぼくだけではなく、ぼくの会社の社員も、非常に短い時間で仕事がたくさんできるようになった。
それにもかかわらず、世の中にはブラック企業やブラックバイトで、長時間働かされていることが話題になっている。そのため、ぼくの実感と世の中の動きとは大きな隔絶があるのだ。
ぼくは、なぜそうした隔絶が生まれるのか、ずっと考えていた。
それで、これも堀江さんの本を読んでいて分かったのだが、それには、競争社会が深く関係しているのだ。競争に負けそうになっている人たちが、自分たちの存在意義を見失いかけている。そのため、長時間働くことで、それを担保しようとしているのだ。つまり、本当は仕事がないのに、無理矢理「仕事をしている振り」をしているのである。だから、勢い長時間労働(の振り)になるのだ。
最近は、そういう人たちが増えた。なぜかといえば、競争社会になって「競争に負けそうな人たち」が増えたからだ。
その光景は、ぼくには既視感がある。というのも、ぼくは現代の競争社会に先駆けて、激しい競争の中に暮らしていたからだ。
それは、今から20年前の放送作家時代だ。放送作家は、その頃から激しい競争社会だった。
そこでは、無能な人間ほど、ある言葉が口癖となっていた。
それは「忙しい」だ。
仕事がない人間ほど、それを隠そうとして、忙しい振りをして、自分の無能さを隠そうとする。
そのことに気づいてから、ぼくらの間では「忙しい」という言葉が禁句になった。その言葉を言う人間ほど、能力がなく淘汰されそうな負け組予備軍の証左となるからだ。
そしてそのときから、ぼくは、「忙しくしない」というのを一つの決めごととしてきた。そしてそのためには、時間を徹底的に有効活用すること、また仕事のやり方を工夫することを心がけた。
その結果、やがてインターネットの恩恵などもあって、生産性や効率はどんどんと上がった。かける時間がどんどん短くなり、その分、仕事以外のインプットに大幅に回せるようになったのである。
そうして今では、一日六時間以上働くことはほとんどなくなった。もちろん、働いている間はめいっぱい集中するが、六時間もあれば十二分な仕事量がこなせるので、その他の時間は仕事以外のことに有効活用できるようになったのだ。
また、そこで新たなことも分かった。
それは、仕事のクオリティというのは、仕事のやり方に直結するということだ。仕事のやり方のクオリティを上げれば、仕事のクオリティは自ずから上がる。
それが分かってから、ぼくは、ぼくや社員の仕事の「結果」に対しては何も言わなくなった。それよりも、仕事の過程——つまり「やり方」にしか注目しなくなった。そしてやり方が間違っていれば、そこを集中的に直すようになった。
すると、これは最初大きなアレルギーを生んだ。多くの人は、仕事というのはアウトプットや結果だと思っているから、過程ややり方はごちゃごちゃ言われたくないと思っていたからだ。
しかし、ぼくがやり方にこだわりながら結果を出し続けていると、やがて彼らも「やり方」の重要性を認識するようになった。そうして結果的に、ぼくの会社全体がやり方を重視するようになり、アウトプットのクオリティも高められるようになったのだ。
そんなふうに、今は仕事のやり方というのが劇的に生まれ変わっている。そんな時代に、自分の無能さを隠したいがために「忙しい振り」をしている人は、ますます競争から遅れることになるだろう。
岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」
『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。
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