宇宙人との邂逅
話はある夜、都会から離れたハイウェイ脇の林の中で、男が宇宙人と邂逅するところから始まります。全身銀色で青い顔をした宇宙人に対し、まず男は身振り手振りでコンタクトを試みようとする。ところがなんと、相手は日本語ぺらぺら。目を丸くして不思議がる男に、宇宙人は「どうしようもなくへたなのよりは、いいでしょう」などと言います。動転しつつもなんとか頭を回した男が、知能が高いからごく短期間で言語を習得できるのか? と問うと、今度は「べつに、そういうわけでもないんですけどね」などと返してくる。
その後も、宇宙船の飛行方法や、どこの星から来たのか、普段どんな生活をしてるのかなど、男が質問をどれだけ重ねても、具体的なこととなると宇宙人は答えをボヤかすばかり。男は業を煮やし、せめて何のために地球の空でうろちょろしているのかだけでも教えてくれと懇願します。
すると宇宙人は、これまでの対応と異なり、まず男に神の存在について問い、心霊現象を引き合いに出しつつ、「見たという話があり、ありうることだと思う人がふえ、見た人の話の共通点がふえ、しだいに形づくられ、出現しやすくなる。出現に対する抵抗というものが、なくなる…」という点がミソなのだ、ということを言い出す。男はしばらく考えこんでから、さきほど自分が見た円盤状の乗り物も、そして目の前の宇宙人も、「人類の想像の作り出した産物」なのだ、という相手の話の着地点に思い至ります。つまり、多くの人の無意識的な需要に応じて宇宙人は出現したのであり、あくまでその出所は人類なのだと。
このお話のユーモラスなところは、そうしてついに自らの出自を明かした宇宙人がじつは自分も困っているのだ、とさらに男に悩みを打ち明けるところ。自らを生み出した人類の思念には期待も込められているはずなのだけれど、じゃあ具体的に何をどういうふうに行動することを期待しているかとなるとまったく不明確なんだ、とこぼすんです。仕方がないので、この宇宙人も自らを生み出した人類の置かれている状況や背景などを鑑みることで、幾つか推測をしていきます。そしてその中から「最も常識的な結論」として、人口増加の抑止と道徳レベルの向上の実現という2つの指針を導き出した。
そんな会話を重ねてきた二人でしたが、最後に、宇宙人はおもむろに光線銃を取り出し、男にこう言い放ちます。「これを向けて引き金をひく。命中すると、(道徳的なレベルが)平均点以下の人は、あとかたもなく消滅する。そうでなければ、さっきからのわたしとの会話はすっかり忘れ、ぶじに戻れる。簡単なことさ」と。
いかにも星流SF特有の、かわいた皮肉さの漂うオチです。が、にも関わらず、僕はこのお話を思い出す時には子供心にいつも不思議と安心感のような余韻を感じていました。それは、なにか大切な現実を取り戻している、という感覚に近かったのかも知れません。
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