茂木健一郎
@kenichiromogi

2012年アメリカ大統領選挙について考えたこと

完全な自由競争はファンタジーである

僕はオバマ大統領を支持します

いずれにしても、今申し上げた理由で、今回の大統領選挙については、オバマ候補を支持しています。

ロムニー候補が主張していることは、単なるファンタジーに過ぎない。しかも、自分自身を正当化するためのファンタジーに過ぎないと思います。1パーセントの人だけが幸せな社会などありえません。

脳の中には、不平等を嫌う回路があることが研究でわかっています。人間は、自分がある程度のものを持っているとき、よりたくさんのものを持ちたいという衝動よりも、むしろ分け与えたいという衝動の方が強くなるものなのです。例えば、日本には、家を建てる時に、建前(たてまえ)といって、家の上からお餅やお金を撒くような風習がありました。これも「自分は家を新築するぐらい経済的に余裕がある。そういう時には、富の一部を他の方に与える」ことで自分自身がさらに幸せを感じていたことから続いた風習です。つまり、「分け与える」という行動は、人間の本能のようなものなのです。これは日本人だけの習性ではありません。アメリカのネイティブ・アメリカンの方々の間にもポトラッチという風習があります。これは、持てる者が持たざる者にパーティーを開いて、いろんなものを分け与えるというものです。こうした「分かち合う社会、分かち合う経済」こそが、今我々が直面している現代の混迷を切り開く、一つの道だと思います。

今回のアメリカ大統領選挙について言えば、21世紀にふさわしい新しい社会福祉を志向しているのは、オバマ候補であって、ロムニー候補ではないと感じています。個人攻撃をするわけではありませんが、ロムニー候補の表情からは、他人に対するリスペクトを感じることができませんでした。他人が苦しかったり、辛い思いをしている時、それに対して共感を持つ。そうした共感を原動力として、政治の世界に入ってきた方ではないように、僕は感じています。

日本の政治状況は、今、非常に混迷しています。その日本でどういう政治を選択するかは悩ましいところですが、自由主義や自己責任を強調する政治勢力よりも、分かち合いやネットワークといったことを強調する政治勢力を支持することが、結局は、日本の経済を活性化して、文化を育て、そして、また「日が昇る国」と言われるようになる道ではないかと思います。

動画で見たい方はこちらから→http://www.ustream.tv/recorded/26373041

 

茂木健一郎のメルマガ『樹下の微睡み』号外より>

1 2 3 4 5
茂木健一郎
脳科学者。1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』、『生きて死ぬ私』など著書多数。

その他の記事

日本人は思ったより働かない?(高城剛)
12月の夏日を単に「暖冬」と断じてしまうことへの危機感(高城剛)
腸内細菌のケアを心がけたい梅雨の季節(高城剛)
「現在の体内の状況」が次々と可視化される時代(高城剛)
『好きを仕事にした』人の末路がなかなかしんどい(やまもといちろう)
サウンドメディテーションという新しい旅路を探る(高城剛)
人間は「道具を使う霊長類」(甲野善紀)
「脳ログ」で見えてきたフィットネスとメディカルの交差点(高城剛)
気候変動や環境毒のあり方を通じて考えるフェイクの見極め方(高城剛)
衰退がはじまった「過去のシステム」と「あたらしい加速」のためのギアチェンジ(高城剛)
能力がない人ほど「忙しく」なる時代(岩崎夏海)
「再犯率の高いロリコンを教育の現場に出すな」の人権論(やまもといちろう)
食品添加物を怖がる前に考えておきたいこと(若林理砂)
冬の間に眠っていた体内の問題が目を覚ます季節(高城剛)
Adobe Max Japan 2018で「新アプリ」について聞いてみた(西田宗千佳)
茂木健一郎のメールマガジン
「樹下の微睡み」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回発行(第1,第3月曜日配信予定) 「英語塾」を原則毎日発行

ページのトップへ