内田樹のメルマガ『大人の条件』より

メディアの死、死とメディア(その2/全3回)

批評性が俗化してしまった

平川:実感という言葉を使うと誤解される可能性があるんだけど、経験主義や実感とは違うんだよね。自分が署名しているかどうかという話でね。小林秀雄が書いたものに力があったのは、そこのところだね。

内田:一貫しているね。小林秀雄の署名性は徹底しているよね。

平川:他者について言う時もそうなんだよね。三島由紀夫が死んだときにいろいろな人がいろいろなことを言ったわけだ。あのときに小林秀雄がどこかに「擬似的なクーデターで自衛隊に乗り込んでいって最期は割腹して死んだ。いろいろなことをみんな言っているけれど、三島由紀夫の精神までだれも下りていっていないところで、みんな発言をしている」ということを書いていた。そういうことをちゃんと言えるかどうかが批評性だと思うんだよね。今の時代の問題は、批評性のものすごい欠如なんだよ。批評性が欠如すると、批評が蔓延するんだよね。

内田:「一億総批評家時代」だからね。「総批評精神時代」というか。

平川:なるほどね。それにはインターネットが手を貸したね。

内田:ここまで批評性が俗化してしまった、空疎になってしまった時代はかつてないんじゃないかな。凡庸な批評性なんてありえないはずなんだけれど、現在の批評は凡庸なんだよね。読んでいても個体識別ができないんだよ。今40歳くらいの社会学者はいっぱいいるけれども、彼らの書いたものは、名前を隠しちゃうと誰が書いたのか分からなくない。

平川:この間AV監督の村西さんと話して、これがとても面白かったんです。(※5)一般的に言われているのと本人と話すのではまったく違う迫力があるわけで、彼の面白さというのは、あれだけキワキワなところを生きていると、自分の意思にかかわらず署名しないわけにはいかないところにあるんだよね。出てくる言葉は、下世話なことばかりなんだけど、説得性がすごい。この人は本当のことを言っているな、と感じを自然と受けてしまうんだ。

※5 村西とおる・釈徹宗・平川克美によるラジオデイズ対談コンテンツ「色即是空」
http://www.radiodays.jp/series/show/22

「僕が本当のことを言うと世界が凍りつく」と吉本隆明(※6)が言ったような意味での本当のことなんだよね。村西さんは存在自体がタブーなわけです。出版社は誰も受けなかったんだから。危ないから。出版社は自主規制しちゃうから。彼のエロのところは全然オッケーなんだけれど。

※6 吉本の初期詩集『転位のための十篇』(1953)の中の一篇「ぼくが真実を口にすると ほとんど全世界を凍らせるだらうといふ妄想によつてぼくは廃人であるさうだ」(「廃人の歌」)『吉本隆明詩全集〈5〉』所収。

内田:政治の方でしょ。

平川:そっち関係に関してはだれも引き受けられない。そこでラジオデイズが引き受けようと(笑)。検閲しましたけども。

内田:それは恐いもんね(笑)。だけどヤクザの人は、ラジオなんて聴いていないよ。

平川:ヤクザじゃないんだよ、政治なんだよ。小沢一郎への批判はすごかったね。直観的に何かあるんだね。小沢さんに対して、鳩山さんに対して、あるいは姜尚中に対して。この三人に対する舌鋒がものすごいのよ。

内田:なんとなく分かるような気はするけれどね。どういう立ち位置からそういう批判をするんだろう?

平川:簡単に言うと、何かに依拠しててめえの足で立ってない、ということだと思う。出てくる話は全部下世話な話ですよ、親からお金もらっているとか、小沢さんにしても女房に逃げられた、とか。そんな話なんだけれども、根本にあるのは、語っている言葉と自分とが乖離しているのではないか、ということだと思うんですよね。

1 2 3 4

その他の記事

美しいものはかくも心を伝うものなのか(平尾剛)
今週の動画「陰の影抜」(甲野善紀)
超人を目指す修行の日々(高城剛)
ボツ原稿スペシャル 文春オンラインで掲載を見送られた幻のジャニー喜多川さん追悼記事(やまもといちろう)
台湾から感じるグローバルな時代の小国の力(高城剛)
社会が混沌に向かえば中国雑貨が大儲けする時代(高城剛)
ゆたぼん氏の「不登校宣言」と過熱する中学お受験との間にある、ぬるぬるしたもの(やまもといちろう)
「#どうして解散するんですか?」が人々を苛立たせた本当の理由(岩崎夏海)
怒って相手から嫌われることのメリット(岩崎夏海)
「親子上場」アスクルを巡るヤフーとの闘い(やまもといちろう)
野党共闘は上手くいったけど、上手くいったからこそ地獄への入り口に(やまもといちろう)
ソニー平井CEOの引き際。なぜソニーは復活できたのか(本田雅一)
なぜ今、「データジャーナリズム」なのか?――オープンデータ時代におけるジャーナリズムの役割(津田大介)
空港を見ればわかるその国の正体(高城剛)
真っ正直に絶望してもいいんだ(甲野善紀)

ページのトップへ