「親しみ」は偏見を共有することによってつくるもの
「親しみ」とは何か。僕の中でもまだ十分にこなれていない言葉なんですが、誤解を恐れず言うなら、「偏見を共有しあう人とともにつくる、温かみのある空気感」だと思うんです。
ここでいう偏見というのは「価値観」とか「先入観」というぐらいの意味です。あえて「偏見」という言葉を使うのは、「親しみ」というのは別に「神のように公平で、慈愛に満ちた態度」といった大上段に構えたものではないことを強調したかったからです。
たとえ意見が自分と違っていたとしても、「まあそれはそれとして、あなたと話していると楽しいね」「あなたのことが好きですよ」というのが、「親しみ」という言葉で僕が言いたいことです。これってよくよく考えると、“偏見”なんですよね。だって、それは言葉を交わす前に、無意識的に、先入観として生じるものですから。まったく公平ではないし、主観的なものです。
でも、「この人と話しているとどういうわけか楽しいね」という“偏見”を互いに共有することができれば、対話そのものが自然に動きはじめ、思わぬものが生み出されるんです。冷静に見れば互いに真逆のことを話していたり(笑)、論理がさほどかみ合っていないように見えても、親しみのある空間ではどういうわけか、オリジナルでクリエイティヴなものが生まれてくる。
逆に言えば、言葉を発信し、受け取る場に参加するメンバーが、互いに相手を操作しようとしたり、利用しようとしたり、あるいはやっつけようとするような“偏見”を持っていたら、対話はまったくクリエイティヴなものになりません。相手の言葉尻を捉えて、その定義をその人の使い方からわざとずらしちゃうようなことをしていると、どんどん言葉の射程距離が短くなっていくだけなんですね。
そういう偏見を共有した「親しみ」という土壤を育て、そこで対話することによってはじめて、僕らは何かクリエイティヴなものを育てることができるということだと思うんです。政治談議の場にそれを期待したいところですが、まずは僕らの身近なところから、「親しみ」を育てることを、始めてみませんか。
少なくとも「親しみの空気」のない論争は不毛だということを、「常識」にしませんか。
名越康文氏新刊(2013年9月発行)
『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』
著者: 名越康文
1575円(税込)
出版社:夜間飛行
単行本:四六判ソフトカバー 208ページ
ISBN-13:978-4-906790-04-3
発売日:2013/09/13
商品の寸法:127×188mm 厚さ=15.0mm
内容紹介
毎日が退屈で、何をやってもワクワクしない。
テレビを見ても、友達と話していても、どこかさびしさがぬぐえない。
自分の人生はどうせこんなものなのだろう――。
そんなさえない毎日を送るあなたに足りないのは「驚く力」。
現代人が失ってきた「驚く力」を取り戻すことによって、私たちは、自分の中に秘められた力、さらには世界の可能性に気づくことができる。それは一瞬で人生を変えてしまうかもしれない。
自分と世界との関係を根底からとらえ直し、さえない毎日から抜け出すヒントを与えてくれる、精神科医・名越康文の実践心理学!
『驚く力』取り扱い販売店一覧はこちら
http://yakan-hiko.com/book/odoroku_list.htm
送料無料のウェブショップはこちら
紀伊国屋ウェブストア
http://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784906790043
honto
http://honto.jp/netstore/pd-book_25789353.html
その他の記事
|
継続力を高める方法—飽き性のあなたが何かを長く続けるためにできること(名越康文) |
|
平成の終わり、そして令和の始まりに寄せて(やまもといちろう) |
|
日経ほかが書き始めた「デジタル庁アカン」話と身近に起きたこと(やまもといちろう) |
|
楽しくも儚い埼玉県知事選事情(やまもといちろう) |
|
上手な夢の諦め方(岩崎夏海) |
|
大学の奨学金問題、貸し倒れ率見る限り問題にならないのではないか(やまもといちろう) |
|
世の中は感情とシステムで動いている(本田雅一) |
|
なぜNTTドコモは「dポイント」への移行を急ぐのか(西田宗千佳) |
|
おとぎの国の総裁選前倒し これはちょっとどうにかなりませんかね(やまもといちろう) |
|
気候変動に適応したポストコロナ時代の働き方を考える(高城剛) |
|
39歳の私が「人生の復路」に備えて考えた3つのこと(編集のトリーさん) |
|
「来るべき日が来ている」中華不動産バブルの大崩壊と余波を被るワイちゃんら(やまもといちろう) |
|
中島みゆきしか聴きたくないときに聴きたいジャズアルバム(福島剛) |
|
新型コロナウイルスの影響で変わりつつあるスポーツのあり方(本田雅一) |
|
なぜアップルのユーザーサポートは「絶賛」と「批判」の両極の評価を受けるのか(西田宗千佳) |












