名越康文
@nakoshiyasufumi

新刊『驚く力』著者・名越康文インタビュー

驚きとは、システムのほころびを愛でること

精神の弾力性を取り戻せ!

「ネイティブインディアンは地震を恐れない」という話があります。彼らの住居は地面に置いてあるだけで、固定されていない。だから地震でよしんば住居が倒れてしまっても、ダメージはさほど大きくない。もちろん地震を歓迎するわけではないけれど、それによって致命的なダメージを受けることはなく、その後の世界を生き延びていくことができる。

震災や原発事故といった未曾有のショックを受け、僕ら日本人がシステム化される社会から、たとえばネイティブインディアン的な精神世界に舵を切る可能性はない訳ではなかったと思います。でも、結果的には多くの人はそちらの道を選ばなかった。その一つの要因は、地震にしても、放射能にしても、僕らのほとんどは直接体感したわけではなく、言葉として、映像として、あるいは数値上の予測として、それを経験したからだと思います。

それが「体験」ではなく「情報」である限り、僕らの心を本質的に動かす力にはならない。ネガティブな「情報」は驚きを生まず、むしろ日常をかきみだす「敵」を心の中に作り出します。

それは、真実を述べたがゆえに、石を持って追われてしまう預言者に似ています。預言者の言葉が真実であればあるほど、僕らは嫌悪を覚える。震災にしても、原発にしても、本来なら「人生は不確実なものである」という真実を、僕らに目の当たりに見せてくれる預言者のような出来事だったはずです。にもかかわらず、僕らはそれを直視することを嫌った。そして、システム化された世界のほうに取り込まれ、脆弱化していく道を選んだ。

誤解してほしくないのですが、僕は原発推進や反対といった見解をここで述べたいわけではないし、防災対策についてうんぬんするわけではありません。ここで僕が言いたいことは、人間の精神のもっとも基底のところにある「弾力性」を取り戻しておく必要がある、ということです。

どんな状況になっても、それに対応できるような精神の弾力性を取り戻しておく。そこさえクリアすれば、どのように生きることも自由だと僕は考えています。そして「驚く力」は、そうした「精神の弾力性」を形作る、もっとも重要なピースだと僕は考えているのです。

身近な物事の、その「変化」に新鮮な驚きを覚えるということ。人が何かを学び、成長し、互いにかかわりあっていくときに、これほど重要な感覚世界はないと僕は考えます。

 

名越康文氏新刊(2013年9月発行)

『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』
著者: 名越康文

1575円(税込)

出版社:夜間飛行
単行本:四六判ソフトカバー 208ページ
ISBN-13:978-4-906790-04-3
発売日:2013/09/13
商品の寸法:127×188mm 厚さ=15.0mm

内容紹介

毎日が退屈で、何をやってもワクワクしない。
テレビを見ても、友達と話していても、どこかさびしさがぬぐえない。
自分の人生はどうせこんなものなのだろう――。
そんなさえない毎日を送るあなたに足りないのは「驚く力」。

現代人が失ってきた「驚く力」を取り戻すことによって、私たちは、自分の中に秘められた力、さらには世界の可能性に気づくことができる。それは一瞬で人生を変えてしまうかもしれない。

自分と世界との関係を根底からとらえ直し、さえない毎日から抜け出すヒントを与えてくれる、精神科医・名越康文の実践心理学!

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名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)『【新版】自分を支える心の技法』(小学館新書)『驚く力』(夜間飛行)ほか多数。 「THE BIRDIC BAND」として音楽活動にも精力的に活動中。YouTubeチャンネル「名越康文シークレットトークYouTube分室」も好評。チャンネル登録12万人。https://www.youtube.com/c/nakoshiyasufumiTVsecrettalk 夜間飛行より、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

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